食堂車のジレンマ

眺めのよい場所での飲食は魅力的である。さらにそれが流れる景色を眺めながらの飲食であればさらに魅力的だろうから、食堂車に人気があるのはなんとなくわかる。大昔はまともな地上交通機関が鉄道しかなく、長時間の乗車がざらだったから、上級クラスには食堂車があった。現在の国際線の飛行機の機内食のように必要に迫られてのものである。

新幹線や飛行機の時代になり、食堂車で飲食するほど長時間乗車しなくなってからは、食堂車はそれ自体を楽しむための観光資源になった。高いお金を取る観光列車だからこそ、料理にも力を入れる。食卓にはおいしい料理があり、食べている間はそちらもしっかり味わいたい。しかしそうしている間にも刻々と景色が流れていく。一度に両方同時に味わうことは難しい。

これがアムトラックの長距離列車のように、ひたすら同じ景色の中を走り続ける列車であれば、どうせ食べる前も後も同じような景色だから、心置きなく食べられる。同様に、長距離フェリーのレストランならそんなに急激に景色が変わるわけではないので、安心して食べられる。

逆に景色の美しい場所では、食べることにあまり気を取られない方がよい。昼間に国内線の飛行機に乗ると上空の気流の安定しているところで飲み物が提供されるが、上空では景色が単調なので、飲み物を飲みながら、時にはお茶請けを交えながら窓側席から雲の上を景色を眺めるくらいでちょうどよい。

時間を有効に活用するために新幹線の車内で弁当を食べることがあるが、景色の良い場所を敢えて避けることにしている。トンネルの多い区間のように景色を期待できない区間の方が食べることに集中できる。

いいなと思ったら応援しよう!