荷物新幹線は可能か
函館本線の函館長万部間の線路がなくなってしまったら、在来線経由での鉄道貨物輸送ができなくなってしまう。一方、新幹線の線路はあるのでそこに貨物列車を走らせれば鉄道貨物輸送を維持できそうに見えるが、北海道新幹線が貨物列車の軸重に耐えられる設計になっていなければ重量のある貨物列車を走らせることができない。
しかし軸重が問題ならば旅客列車並の軸重にすれば新幹線の線路を走れるし、新幹線の速度で走れれば旅客列車の邪魔にもならない。 現在は貨物列車のために青函トンネル内での新幹線の速度まで規制されているが、貨物列車が青函トンネルを走らなくなれば旅客列車の速度向上も実現できる。さらに、新幹線は在来線よりも災害に強いので、安定した輸送が可能である。
現在の鉄道貨物よりも所要時間が短縮される一方で輸送単価も増大するだろうから、鉄道貨物のうちすべてを代替できるわけではない。現在本州と北海道の間で鉄道で運ばれている貨物のうち、生鮮食料品や新聞・雑誌といった、比較的高付加価値だがかといって飛行機で運ぶまでもないものがターゲットとなる。
国鉄時代にはこのようなものは荷物列車で運ばれていた。荷物車はもともと乗客の手回り品を預かって運ぶための車両だが、そこから転じて小口で比較的急ぎの荷物も小荷物として運ぶようになった。そのため、客車列車だけでなく電車や気動車にも荷物車が連結されていた。当時各地で夜行列車が走っていたのは、旅客輸送だけでなく荷物輸送のためでもあった。東海道線のように荷物需要の多い路線では荷物車だけで組成された急行荷物列車が何本も走っていたし、ブルートレインの荷物車は新聞を輸送していた。しかし国鉄時代の劣悪なサービスのせいで、当時台頭したトラック輸送の宅配便によって淘汰されてしまった。今の時代に急行荷物列車に相当するのは、宅配便のコンテナを電車特急並の速度で運ぶスーパーレールカーゴだろう。しかしこれは貨物列車扱いである。
新幹線で荷物列車を走らせるとしたら、鉄道貨物の発想よりもむしろ航空貨物の発想が必要なのではないか。コンテナ車にコンテナを直接積むのではなく、車両の中に軽量のコンテナを入れる方式である。車両は航空機の貨物専用機のようなイメージで、客室部分がまるまるコンテナのためのスペースとなる。空港にあるようなローダーで車両の扉からコンテナを搬入し、床のコロで奥まで押し込む。車内に入れるなら今の鉄道コンテナのような頑丈なコンテナは不要で、航空機用の軽量のもので十分である。航空機用のコンテナに合わせてしまえば積み下ろしのための機材を流用できるし、取り扱える人材も豊富である。また、新千歳空港が大雪で航空便が大量に欠航して航空貨物が滞るようなときには新幹線の荷物列車で同じコンテナを運べるし、逆もまた然り。
車両側だけでなく地上設備も必要である。仙台なら新利府の新幹線車両センターの一部で積み下ろしができそうだが、札幌には新幹線の車両基地が無い。札幌駅が無理ならせめて札幌駅の手前の物流に便利そうな場所に荷物列車用の側線を設置できないものだろうか。青森函館間のフェリーを代替する意味からも新青森の留置線を活用したい。盛岡にも車両基地があり、こちらは八戸苫小牧間のフェリーを代替できる。東京側はどこまで乗り入れられるかわからないが、物流のための列車なので必ずしも東京駅まで乗り入れる必要はない。那須塩原と小山に留置線があるし、大宮駅のホームのうち中央の1面も空いている。上野駅で折り返して田端の車両基地に入れることもできるかもしれないが、できれば折り返さずに田端の車両基地に直接入れるようなアプローチ線があるに越したことはない。
荷物列車の運行主体をどうするかだが、旅客車扱いだからという理由で旅客会社が運行するとJR貨物が北海道ビジネスをまるまる失ってしまうので、在来線同様にJR貨物が第二種鉄道事業者となって旅客会社から線路を借りる方式がよいのではないか。
現在の東海道新幹線に荷物列車を走らせる余裕は全くないが、将来リニア中央新幹線が開業して旅客需要が転移したら東海道新幹線の線路に空きができるので荷物列車を走らせることができるかもしれない。
JR貨物が公表した2022年3月期第2四半期決算説明資料の13ページ目に、パレット式の新幹線電車のイラストが掲載されている。パレットを前提としているので、トラック輸送の際にはパレットごとトラックに積み込むのだろう。たしかに、どうせ露出しないなら中途半端な航空機用コンテナよりもパレットの方が扱いやすそうである。トラックに積めるサイズのパレットだと新幹線車両のスペースを有効に活用できないが、どのみち軸重制限があるので多少のデッドスペースはやむなしということなのかもしれない。それよりもトラックで輸送できる汎用性の方が優先順位が高いだろう。
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