モノレールにリニアモーターを採用できるか
モノレールの利点は軌道桁がシンプルで敷設が容易なことである。特に跨座式モノレールの軌道はその名の通り1本の細いコンクリート桁なので、道路上の限られたスペースに設置するのに向いている。そのため那覇のゆいレールのように既に市街化されてしまった場所に新たに軌道を敷設するとなると事実上モノレールくらいしか選択肢がない。
一方、跨座式モノレールは車両の床面から軌道の一番下までの高さが高く、日本跨座式では2mにもなるので、ホームからの転落を防ぐ対策が必要になるし、車両も駅も大掛かりになる。床下に新交通システム同様のゴムタイヤ式の台車があり、さらにコンクリート桁を左右から抱き込むようにゴムタイヤ式の案内車輪が上下2段に設置されており、床下の空間が大掛かりである。
リニアモーターにすることによって床下のスペースを減らすことができれば駅や車両をコンパクトにできそうだが、果たしてそんなことは可能だろうか。
リニアモーターといえば愛知高速交通東部丘陵線(リニモ)で実用化しているが、こちらは新交通システム同様に車体幅一杯に軌道があり、愛知万博でHSSTのデモンストレーションを行う目的もあったのだろうが、それを抜きにすれば他と同様にゴムタイヤ式の新交通システムでも十分ではないかと思えてくる。また、ドイツで開発され上海の空港路線に採用されたトランスラピッドは、浮上式リニアモーターのモノレールに分類されるが、軌道桁は平べったくて、跨座式モノレールの利点であるコンパクトな軌道桁を実現できていない。HSSTとモノレールのいいとこ取りをしたものはできないものだろうか。
大阪モノレールの台車写真を見てみると、かなり大掛かりな作りである。それでも、上段の案内車輪の上にモーターやブレーキディスクが格納されていたりと、見えない部分でうまく設計していると思う。下段の案内車輪にはほとんど荷重がかかっていないように見える。安全のための補助なのだろう。リニアモーター式地下鉄のように既存のゴムタイヤ車輪をそのまま残して推進装置だけをリニアモーターにしても、必要なスペースはほとんど変わらないだろう。それなら、普通のモーターの方が効率が良い。
磁気浮上式の場合にはゴムタイヤが一切不要になるし、空気バネ台車も不要になるので、だいぶ省スペースにできそうである。問題は、狭い軌道桁だけで磁気浮上に必要な浮力を与えることができるかである。HSSTは軌道桁の左右の下に磁石がある磁気吸引式なので、モノレール化する場合、軌道桁の左右に電磁石を設置する必要がありそうである。これで案内と推進は確保できるとしても、浮上するためには上下方向の電磁石が必要である。
かつて向ヶ丘遊園にあったロッキード式モノレールは軌道の上部と左右に鉄軌条があり、上部の鉄軌条の上に鉄車輪の動輪があり、さらに左右から挟み込むように鉄車輪の上部案内輪があり、さらに軌道の左右にある鉄軌条の左右に鉄車輪の下部案内輪があった。自重を支える部分に鉄車輪と鉄軌条を設け、案内車輪に相当する部分に電磁石を設置して推進と案内の機能を持たせることならできるかなという感じである。自重を支えるなら鉄車輪と鉄軌条が最も効率的である。ロッキード式モノレールは軌道桁上部の鉄車輪が動輪なので車輪径が大きめだが、自重を支えるだけならもっと車輪径を小さくできるのではないだろうか。ただし鉄車輪と鉄軌条で自重を支えるとなると、サスペンションが必要だが、幸い、コンクリート軌道の左右の車体下部のスペースに余裕があるので、そこに空気ばねを設置すればスペースのやりくりはできそうである。これで床面を数十cm低くすることはできそうなので、重心は下がるのではないだろうか。あとは案内機能を持たせるために必要な軌道桁の高さおよび台車の高さをいかにして低くするかだが、それは実際に設計してみないとわからない。とはいえ、そこまでして軌道桁の高さがさほど低くならないなら、短所に目をつぶった上で日本跨座式のままでもよいのかなという気もしてくる。
尚、2022年に中国でリニアモーター式のモノレールの試験が行われたという記事を見かけたが、これは湘南モノレールや千葉都市モノレールと同様の懸垂式モノレールである。跨座式モノレールなら浮上や案内のためのリアクションプレートや電磁石を軌道桁の内部に設置できるだろうから、無理なく設計できそうだが、懸垂式モノレールは軌道が大掛かりなので、跨座式モノレールのような軌道の敷設が容易という利点がない。また、懸垂式モノレールなら軌道桁の中に無理なくゴムタイヤ台車を収めることができるので、リニアモーターにしたからといって省スペースになるわけでもない。