失言を笑ってはいけない ⇑くだらないエッセイ⇑
「口は災いの元」という。私たちは言わなくてもいいことを、つい言ってしまう。失言ともいう。
最強クラスの台風10号が日本を縦断している真っ只中、浜松市長が、
「台風が近づくとなぜか高揚する」
と仰った。翌日の定例記者会見で、
「市民の感情からかけ離れた不適切な発言だった」
と謝罪し、撤回。
正直な人だなあと思った。私もその気持ち、分かる。誠に正直なお気持ちだと思うんだけど、これは「言っちゃいかんかった」だ。「言っちゃいかん」ではなくて、「言っちゃいかん“かった”」となるのがポイント。「後悔先に立たず」とか「後悔役に立たず」などと言うが、人間というのは、ときどき、そういう失敗を犯してしまう。実に落語的だなあと思う。
失言は、人前で話す機会が多い政治家に多い印象がある。たとえば森喜朗元首相の発言がよく問題になったりしたが、私が個人的に面白いなあと思うのは麻生太郎元首相だ。上川陽子さんという女性の外務大臣について、「カミムラ」と呼び間違える。
「少なくともそんな美しい方とは言わんけども…」
「オレたちから見てても、ほ〜このおばさんやるねえと思った…」
などと発言する(わざとやってるんじゃないかと、私は思っているんですけど)。個人的には麻生さん、好きなんだが、こうなってくるとさすがにマズくね?
その他にも、田中角栄元首相はこんなことを仰った。
『政治家は発言に、「言って良い事、悪い事」「言って良い時、悪い時」「言って良い人、悪い人」に普段から気を配らなければならない』
よくよく聞いてみると完全な失言なんだが、これはもう格言の域に達している、なんて思ってしまう。
このような政治家の発言を聞いて「けしからん!」と怒ったり、「政治家としてのセンスを疑う」と糾弾したりするのが世の常。ところが、不謹慎で申し訳ないが、どうも私は笑ってしまう。
「ああ、いつも思っていることが出ちゃったのね」
と。失言とは、オナラのような、一種の生理現象なのかもしれない。
余談だが、失言とか失笑で使われる「失」という字、これは「言葉を失う」とか「笑いを失う」という意味ではなく、「うっかり出てしまう」という意味なんだそうだ。「失禁」も同じ。落語にも「転失気」というオナラを題材にした演目がある。
それでは、失言はどんな時に出やすいのか?
演説の際にリップサービスで周りの人を楽しませようとしたり、結婚式のスピーチで緊張してうまく話せないときなどによく出るようだ。
人を褒めるときにも、よく失言が出る。落語にも『子ほめ』や『牛ほめ』という演目があるが、人を褒めるという、慣れないことをしようとするから起こしてしまう失敗の噺だ。
落語家の立川談志師匠は、
『落語とは人間の業の肯定を前提とする一人芸である』
と仰った。「人間の業」とは簡単に言えば、人間の愚かな事。
勉強しなきゃ、と思いながら、ついスマホを見てしまう。
酒は体に毒だ、と思いながら、つい飲んでしまう。
言ってはいけない、と分かっているのに、つい口から出てしまう。
こういった人間の業を肯定してしまえ、と談志師匠は仰っているのだろうと思う。
最後に田中角栄氏の格言から。
『人間は、やっぱり出来損ないだ。みんな失敗もする。その出来損ないの人間そのままを愛せるかどうかなんだ』
実に落語的だと思う。