「句潤&呼煙魔/句が呼ぶ煙」感想
2024年2月7日に「句潤&呼煙魔/句が呼ぶ煙」が公開された。ラッパー句潤とビートメイカー呼煙魔の組み合わせと言えば、『火灯し頃』や『さぁ行こうMY MAN』がある。
今回のアルバムには『火灯し頃 Pt.2』があり、2人を追っている人はタイトルを見た瞬間、湧いたのではないだろうか。同時に『1.2.3 -KING OF KINGS 2021-』を見て、KOK2021の句潤vsHI-KING TAKASEと結びついた人は、きっと嬉しかったことだろう。句潤の認識がMCバトルだけだという人も、KOKでのあの姿を観て感動した人はきっと聴いていると思う。
アルバムのジャケットについて、今回の紫といった色味が珍しいものに感じた。最近の作品だと赤・青・白基調とするものが多い印象。「未完の情景」なども紫であるが、今回紫をチョイスした理由は、呼煙魔の"煙"部分に焦点を当てたのだろうか。
全10曲25分の構成で、全曲聴いたとしても30分かからないため、たった1時間で2回もループ出来る。もう数えきれない程繰り返し聴いた感想を書いていこうと思う。
『INTROLL』
呼煙魔の作るビートは、和風テイストで落ち着いたものが多いという印象があり、このアルバムを再生して流れた「音」はまさに求めていたモノだった。ラストのゆっくりフェードアウトしていく頃には、次の曲への期待が増していた。
『Show Up』
期待に包まれ待っていると、超絶日本という感じのビートから始まった。寺や神社で流れていてもおかしくない厳かな雰囲気。そこに複数の音が一気に加わり、句潤の声が入ると全てが完成したような感覚になる。
句潤の死生観を表す「人生は一度」、酒、JORDAN、音楽、といった自身を描くワードが詰め込まれた至高の一曲。
一番初めではなくhookとして途中と最後に、曲名を含んだ「今から"Show Up"」と唄うことから、この曲自体が"Show Up"なのではなく、このアルバムにおける「句潤と呼煙魔の世界に誘い込む"呼び水"」的な役割をする曲だと考える。
特に「音はグローバル」という言葉に魅力を感じた。最近ではCreepy Nutsの『Bling‐Bang‐Bang‐Born』が海外で人気爆発したように、音楽は国境をも超えるといった意味で捉えた。
『問いかけ』
打って変わってポップさが消え、深く仄暗い印象を持たせるビート。何に対する問いかけ?誰に対する問いかけ?様々な考えが出来る曲ではあるが、本質は背中を押すポジティブな内容だと思えた。
「歩くきっかけ 決めるのは手前 しない言い訳 弱音置いてけ」は、聴く人に伝えたいメッセージのようにも捉えられるが、「ビートに一途に証を刻め」というリリックから自分自身に言い聞かせている言葉なのだと結論付けた。
そして、Hookのほとんどを「け」で落としてるところが面白い。外している箇所もあるので意図したかは分からないが、こういった言葉でなく文字一つにもこだわるところは素直に良いなと思った。
『その日のBestを』
これまた大きく変わり、外国の地に来たような跳ねる音へとなる。これまでよりもスピード感のあるビート。前二曲より⒈ビートの一音一音が短いこと、⒉声の入りが速いことがスピード感ある理由かもしれない。
「アイツの話聞かなくなったとか ちっちぇ世界でお疲れ様」について、このビートの速さのおかげですんなり意味を飲み込めた。完全に個人的な感覚なので説明するのが難しいが、句潤に「話を聞かなくなった」と言ってる相手は、まだ下のステージであることを指していて、自分のスタイルを確立して既に先に進んでいる句潤に段階的な速さを感じ、ビートのスピード感とリンクしているというイメージだ。やはり言語化が難しくこれが今の限界であるが、誰か一人にでも伝わったなら嬉しい。
当たり前だが呼煙魔がいなければ、この曲は生まれていなかったと強く実感する。本当に相性の良すぎる二人だ。
『火灯し頃 Pt.2』
ひとつ前の『SKIT』(項目としては省いたが)で使われていた曲が流れているのがとても良い。単体で聴いてからの流れなので、耳に馴染んでいるというのかスッと入ってきた。
『火灯し頃』と同様に、強めのオートチューンをかけている箇所があるのが特徴的な一曲。ビートは男性と女性の声が折り重なり、さらにその上に句潤の声が乗っているのだが、個々が良く聴こえ程よい調和となっている。
「疲れ顔の人の群れ 言葉混ざる煙」では、上記の煙のように多種な言葉が混ざり合っている情景を描写しているのか。現にこの曲では三人の声しかないが、人の群れという何十人もいるフロアを想像してしまう。
『何処へ?』
まず再生して、ビートオシャレさに心を打たれた。聴いていると、ひたすら前を向いて走っている内容と比較的ゆったり目なビートで、このギャップが一層不可思議さを増して心地良い。
「まあ、ゆっくり行こうぜ」とリリックにあるように、"焦らせない"ことをビートでも表現しているのかもしれない。単に深読みだとしても、その意図があると勝手に思っていたい。ビートの深読みを付け加えるならば、存在感のある強いスネアは走る足音を表したのかと。
あとは、「生き甲斐の元 生きたいに変わること」のグルーヴ感も言葉も踏み方も全てが好きだなと思った。続けて「他人蹴落とし ご苦労笑っとけ」を笑いながら唄うところでは、『守破離』の「ふざけて笑うのも」のシーンが想起させられた。
こういったテクニカル的な一面が、"表現者"という感じがして最高である。また、「俺は他人を踊らしLet's Parade」とあるように句潤の選んだスタイルは音源でもバトルでも一貫しており、自分はこの軸がとても好きだ。
「火が付いた その灯絶やすな」のリリックから、『火灯し頃』の「火がまた燃え 尽きるまで生きてたいね」を思い出した。過去の楽曲などでも、句潤は"命"を"火"と喩えて扱っているような気がする。
その通りならば、曲での"火と煙"は、"生きる自分と歩む道"を表していると考えてみると案外しっくり来た。特に、"煙"と"歩む道"は、どちらも一方向にしか進めないという点から、さらに自分の解釈に納得できた。
『最後だとしても…』
落ち付いた演劇の開幕のような雰囲気で始まったビート。それが切り替わると全体的にとても爽やかなビートになる。まだこの爽やかさは抽象的であるが、「まだまだ飛べるはず 空に吹かして」から"空"と"風が吹いてる"という具体性を持った爽やかさへと変化していった。
素直に情景を浮かばせるワードセンスに脱帽。普通ならば、「最後」という言葉を使ったタイトルや、一人の人間の生き様を伝える内容は重めだと感じてしまうが、この爽やかなビートに乗せることで少しは軽く受け止められた。そんな効果があるように思える。
hookでは「雨」「晴れ」「パレー(ド)」「まで」「場面」「はめ」「前」など、細かく刻んでこまめに踏んでいた。とても聴き心地の良い言葉が流れており、名前通り本当に「句」を「潤わせる」ことが上手だなと実感した。
『問いかけ』でも「道半ばで死ねるか拳を挙げろ」とあったことから、『最後だとしても...』の後に続く言葉はこれだろうというのが一つあるが、ここに意見を落とすのも野暮だと思うので書かないでおく。
『OUTROLL』
『最後だとしても…』から続く曲。前のような音の強弱から成る盛り上がりは無く、数段階しっとりとしたビート。そこにグラスの鳴る音が聴こえる。グラスの中の氷が溶けた音か、はたまた誰かと乾杯する音か。何をイメージしているのか分からないが、このパーティの終わりを告げる音に思えた。
『1.2.3 -KING OF KINGS 2021-』
このビートは2021年のKING OF KINGSで使われ、勝ち上がった句潤がGETしたものである。冒頭の「あの日から今現在」の"あの日"とは、この当時のことだろうと想像する。
「一瞬の勝負より大切なこと ペンを執って一生Harvest」「フリースタイルしてちゃバトルMC いや俺はラップバトルしに来たMC」「曲を出す当然唸る魂 息して生きてる日々が証」と畳みかけるように、あくまでバトルMCではなく、音源やLiveを主軸に置いているラッパーだと主張している。
KOKは"バトルMCの頂点を決める大会"と認識しており、そこで使われたビート上でこの主張をするのは、かなり度胸の要ることのように思えた。だが、むしろ、このビートだからこそ言うことに意味があるのかもしれない。
音源よりバトル重視のMCを批判するわけでは無いが、自分は音源があってこそバトルに出る意味があると考えている。そのため、この主張をする句潤にはかなり惹かれるものがあった。
同じく惹かれると言えば、『何処へ?』でも書いた"一貫した句潤のスタイル"だ。今回は「Disだけじゃねぇだろ音は」「言葉fxxk youよりもrock you」という言葉で簡潔に表されている。自身のスタンスを最大限に表現した曲なのだろう。こうした言葉をバトルでも音源でも聴く度に、改めて句潤の魅力を感じる。
そして最も印象的なのが、「1.2.3 超えて今日描く止まってる暇など無いぜ」から始まるhookだ。非常にキャッチ―であり、頭に残りやすい。DJの名前を冒頭や間奏に入れている曲は多くあるが、今回"呼煙魔"の名前をhookに入れることで、さらに注目度を上げるところが良いなと思った。
余談だが、自分のXにて【曲名の1.2.3と句潤のレペゼンする045が合わさって0~5の数字がリリックに入ってると予想】と書いた。実際は「1.2.3飛んで4.5」と、数字は続いていたが0が無かったので予想は外れた。
この"4.5"は、やはりレペゼンする横浜の"045"から来ているのだろうか。"1.2.3"は英語で"4.5"は日本語であることから、分けて唄っているように思える。ここは予想が当たっていると思っても良いのではないか。
最後に
長く感想を書いたが、「句潤&呼煙魔/句が呼ぶ煙」を聴き率直にとても良いアルバムだと思った。初めの『INTROLL』ではビートを"求めていたモノ"と書いたが、全曲の感想を書き上げてみると"求めていた以上のモノ"だと確信できる。INTROLL・SKIT・ENDROLLは、とても興味深い立ち位置であった。
句潤の代表作といえば『流レテ行カズ』や『B-BOY STANCE』が思い浮かぶが、今回の『最後だとしても…』もそれらの代表作と肩を並べる一つに成るだろう。どの曲も良かったが、個人的に一つ挙げるとすれば『最後だとしても…』がとても好きだった。
もう日にちとしては明日(2/11)に開催される【WHO's REAL vol.10】にて、本アルバムのリリースライブがある。このイベントには行く予定なので、心から楽しみにしている。
改めて最後に、「句潤&呼煙魔/句が呼ぶ煙」がリリースされて凄く嬉しい。良い楽曲を届けてくれて、ありがとうございます。今後も応援しています。