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小暑便り

あの夏 あの時 私たちは。

しょうしょだより と読みます。
女性4人
60分くらいの台本です。

※友人が自殺してしまう話です。苦手な方はご注意ください。無理して演じること、台本を読むこと、聞くことは決してしないでください。
命は大切にしましょう。




小川沙耶香・・・おがわさやか。高1 。人当たりが良く、他人との付き合いが上手い。陸上部のマネージャー。

牧原志帆・・・まきはらしほ。高1 。天真爛漫で明るい性格。陸上部の選手。

塚田爽世・・・つかだそよ。高1 。面倒見がよく、さっぱりとした性格。陸上部のマネージャー。
台詞中の名前の表記は「ソヨ」にしています。

臣玲那・・・おみれいな。高1 。良くも悪くも我が強い。陸上部の選手。

※物語内で高校1年〜2年をまたぎます。


小川沙耶香:
牧原志帆:
塚田爽世:
臣玲那:

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

沙耶香(M):春の陽気は足早に過ぎて、少し暑くなってきた。この季節が好きだ。緑が鮮やかに色づいてる景色とか、それを照らし出す太陽の光とか、光を反射してキラキラする水とか。そういうものを見てるだけで、気持ちがぐっと前を向くのだ。


志帆:さやちゃ〜ん?なんかボーッとしてる?あ、寝てないんだ!?
夜更かしはお肌に悪いんだぞ〜?

沙耶香:志帆も私と寝る時間大して変わらないでしょ?

志帆:さやちゃんほどは遅くないもん!

沙耶香:ほんとぉ?よく眠れないとか言ってるじゃん。

志帆:私はいいの!さやちゃんはちゃんと寝ないと駄目!

沙耶香:はいはい。


沙耶香(M):今年もまた、夏が来た。

(1年生の教室)


爽世:ハロ〜。ギリ遅刻回避だね。

志帆:(息切れ)…えへへ…

沙耶香:今回は…はぁ…!志帆が…悪い…!!はぁ…はぁ…!

爽世:なんで?

志帆:家に財布忘れてきてたの!

爽世:あっはは!やらかしたねぇ。

沙耶香:すぐ取ってくるっていうから待ってたのに、全然帰ってこないし!

志帆:だって見つからないんだもん!焦った!

沙耶香:焦ったのはこっちなんですけど!?

爽世:うける。まあほら、一応間に合ったわけだし、大目に見てやったら?

沙耶香:(溜息)いいけどさ・・・あ〜もう汗気持ち悪!

爽世:あ、ならその見つけてきた財布で昼ご飯おごってもらえば?

沙耶香:ナイスアイデア。アイス付きね!志帆!

志帆:え~!?

爽世:あ、そうだ沙耶香。部活始まる前に、ホームセンターで買い物だよ。

沙耶香:へ?なんで?何を?

爽世:昨日長谷川が壊したタイマー、新しいの買ってきてって。あと、ドリンクの粉も。

沙耶香:えー!?それ私たちじゃなきゃダメ!?

爽世:この機会にどこに何があるのかとか、なんとなく覚えなってさ〜。先生がお金くれるんだって。

沙耶香:はぁ…長谷川のせいで…てかお店の内装なんてどうせ変わっちゃうじゃん…

爽世:余ったお金でなんか買っていいらしいよ。

沙耶香:ならよし!


(間) 放課後

(小走りの玲那、沙耶香を見つけて駆け寄る。)

玲那:沙耶香っ!

沙耶香:玲那さん?どしたの?

玲那:その洗濯終わったら、あたしの100メートルのタイム測ってくんない?

沙耶香:いいけど、ソヨとか先輩は?わたし、待たせちゃうよ?

玲那:ソヨも先輩も他の仕事してる!あたしは先に軽く走って準備するから、待つのは大丈夫!

沙耶香:わかった!ドリンクも作り終わったらそっち行くから、待ってて。

玲那:オッケー!ありがと!


(間)


玲那:(ゴールを走り抜ける)

沙耶香:13.02!

玲那:はぁ…はぁ……

沙耶香:惜しい!もう少しで12秒台!いい感じだけど、ちょっと一回休憩しようよ。

玲那:はぁ…ありがとう…!

沙耶香:フォーム安定してきたっぽいね!

玲那:だいぶ馴染んできたかな。

沙耶香:うん…タイムも縮んできてるし。この調子だね!

玲那:オッケー!

沙耶香:今の走り、ビデオ撮ったから、休みながら見てみようよ。

玲那:お、助かる~!ナイス敏腕マネージャー!

沙耶香:なにそれ(笑) ん~、視聴覚室のテレビ使えるはずだけど、確認いるか。とりあえず行こ!

玲那:ねえ沙耶香?

沙耶香:なに?

玲那:沙耶香も、中学の頃は短距離選手だったんでしょ?

沙耶香:そうだよ?

玲那:なんでマネージャーになろうと思ったの?

沙耶香:ん〜、選手はもういいやって思ったんだけど、陸上は好きだから、じゃあマネージャーになろうって感じかな。

玲那:今でも走りたくなったり、する?

沙耶香:見てるとちょっとね。

玲那:選手転向してみたら?

沙耶香:…ううん、いいの!中学で引退してからなんにもしてないもん!走れなさに自分でガッカリしちゃいそう!

玲那:ふーん…そっか!


沙耶香(M):選手にはもう戻らない。別に、怪我をしたわけでも、誰かに止められたわけでもない。ただ、明確に、選手には戻らないと思ってしまう理由が、あの時、私にはあった。


志帆:さやちゃん!

沙耶香:あれ?志帆?リレー練習は?

志帆:今日は終わり!あ、玲那ちゃんだ!

玲那:おつかれ。

志帆:おつかれ!ねえさやちゃん、わたしのタイム測って!

沙耶香:え?そっちに誰か測る人いなかったの?

志帆:美香先輩は練習日程の相談で部長と話し合いしてるし、ソヨちゃんも忙しそう!

沙耶香:でも今玲那さんのフォームチェックするところだから…

志帆:え!?そうだったんだ!ごめんね!

玲那:あーいいよ!別に気にしなくても。

志帆:あ、じゃあわたしも一緒にフォームチェックしていい?何かアドバイス出せるかもしれないし!

玲那:え?

志帆:一緒にフォームチェックして、その後、さやちゃんはわたしのタイム測ってよ!ダメ?

沙耶香:私はいいけど…

志帆:玲那ちゃんは?ダメ?

玲那:んー…うん、いいよ!

志帆:やったー!

玲那:色んな人の意見聞きたいし、他ならぬ志帆だしね。お願い!

志帆:任せといて!フォームは人のも自分のも結構見てきてるから!!

(間)

(視聴覚室にて、ビデオ確認する3人)

志帆:んー…

玲那:……

沙耶香:今のが2ヶ月前。

玲那:んー、全然安定してない…

沙耶香:この時はまだね。それで、こっちが今日。

志帆:……

玲那:……

沙耶香:…いい。今の方が全然いいよね!?

玲那:うん、結構良くなってて安心した!よかったぁ…

志帆:そうだね!良くなってる!

玲那:ありがと!

志帆:けど、まだブレてる。もう少し改善できると思うな。

玲那:はは、だよねえ…

志帆:玲那ちゃん、どのくらいのタイム目指してる?

玲那:え?まあ、まずは12秒台かな…

志帆:えっとね、それなら体のブレを改善するだけでいくと思う!これが13.02でしょ?いけるよ。

玲那:おぉ…そっか!

志帆:うん。玲那ちゃんがとりあえず12秒台目指してるだけなら、体幹トレーニングとか姿勢の見直しでいい。けど、そこからまだ記録伸ばそうと思うなら、それだけじゃダメ。接地の位置、太腿の上げ方、あと腕の振り方とか、改善できるところ結構あるから!

沙耶香:接地、太腿、腕振り、ね…

玲那:はぁ~、そういう部分か…ありがとね、志帆!

志帆:ううん!このまま12秒台に乗せるのを目標にしてるの、勿体ないくらいだと思うよ!トレーニング次第でもっと速くなる!

玲那:それ、志帆に言われると嬉しいや。流石、うちのエースだね。

志帆:てへ~恥ずかしいからやめてよ。

沙耶香:なんでそんなにフワフワしてんのにあんなに速いわけ…?

玲那:ほんとにね。

志帆:へへへ…

玲那:マジで全然そんなふうに見えないのに…

沙耶香:あはは…中学の時からこんな感じなんだよね、志帆って。

玲那:あ、そっか。沙耶香は志帆と中学同じか。

沙耶香:そう、もう小学校からずーっと一緒。 あ、どうする?もう一回見直してみようか?

玲那:ん、いいよ!もう充分。ありがとね!

志帆:じゃあタイム測定お願い!さやちゃん!

沙耶香:オッケー。

志帆:玲那ちゃんも頑張ってね!絶対もっと速くなれるよ!!

玲那:うん!ありがと!

志帆:よし!グラウンド行こう~!!

沙耶香:ちょっと、追いつけないから走んないでよ!?じゃね!玲那さん!

志帆:あ、練習後のクールダウンはサボっちゃダメだよ〜!

玲那:はいはーい!

沙耶香(M):陸上部のマネージャーとして、選手のサポートに徹する。充実感に満ちていたし、記録を伸ばしていく選手の姿を見ていると、仕事は苦にならなかった。


(間)


志帆(M):小さい頃から走るのが好きだった。だから、陸上競技という物を知った時、「やりたい!」と、すぐに親に言った事を覚えている。向いているとか向いていないとかじゃなくて、好きな事をしたい!という一心だった。結果的に陸上競技、もっと言えば、短距離走という種目は、私にとってピッタリの種目だった。

志帆:(ゴールを走り抜ける)

沙耶香:11.77!

志帆:はぁ…はぁ…!

沙耶香:うっそ…11秒台…!

志帆:よっし!記録更新!!

沙耶香:やば!志帆!すっご!!

志帆:目指せ女子高生最速!!

沙耶香:あはは…この調子だと本当に最速になりそうだね…

爽世:ん、いた。志帆~!

沙耶香:ソヨ!見てよ、このタイム!!

爽世:うわっは~……志帆、あんたいったいどうなっちゃうのよ…

志帆:最速!!

爽世:ほんと頼もしいなあ。あっと、そうだ志帆。リレーで試したいことができたから、集合してくれってさ。

志帆:は~い(走り去る)

爽世:いってらっしゃ~い。
…沙耶香、あんたの幼馴染どうなってんのよ?

沙耶香:どうなってるんだろ…

爽世:1年生の時点で11秒台のってるなんて、全国で見てもあきらかに群を抜いて速いわ。流石、うちの1年生エース!味方でよかった!普段はポンコツだけど。

沙耶香:そう。いつもはゆる〜いのに。

爽世:普段と走ってる時のギャップありすぎ。目つきの変わりようすごいよね。

志帆(M):100メートルを全力で走り抜けるのが快感だった。何にも考えないで、ひたすら前だけ見て走る。無我夢中で、その間は他の事は全部、頭の中から追いやられて、それがとても心地よかった。

(間)

沙耶香:…

志帆:(唸り声)

沙耶香:…志帆。

志帆:…何?

沙耶香:いつまで悩んでんの?

志帆:だってドリアもパスタもハンバーグも全部美味しそうなんだもん!

沙耶香:また来た時に食べればいいじゃん。

志帆:そうなんだけど今全部食べたい気分なの!

沙耶香:太るよ?

志帆:だから頑張ってどれかひとつにしようとしてるんでしょ!!

沙耶香:はいはい、ごめんごめん。ゆっくり悩みな。

志帆:(唸り声)

沙耶香:ねえ志帆? 

志帆:待って!2択までは決めたから!

沙耶香:違う違うそうじゃなくて!もうインターハイ近いでしょ?緊張する?

志帆:しない。

沙耶香:…なんで?

志帆:んえ?え〜っと……走れるから?

沙耶香:…

志帆:立派なフィールドで思いっきり走れるんだもん。
超楽しみ。

沙耶香:…ふふっ。

志帆:よし!決めた!ドリアにする!
…?何笑ってるのさやちゃん?

沙耶香:なんでもない。ねえ志帆、これからも走ってね。

志帆:んん?うん!走るよ!

沙耶香:よし。注文しよっか。

志帆:ん!

沙耶香(M):そうだね。志帆はそういう子だ。
すごいよなぁ…やっぱり、もう一緒には走れないや。

(間)


沙耶香(M):日々は流れて、8月。澄み切った青空のもと、インターハイが開かれた。地区予選を勝ち抜いた選手だけが出場できる、高校陸上選手の大舞台。

志帆:よっし!やりますかあ!

爽世:いつも通りね、志帆!

志帆:任せてソヨちゃん!!

爽世:…待って、なんかあたしが緊張してきた。やばやば…

沙耶香:いってらっしゃい。志帆。

志帆:うん!いってきます!さやちゃん!

沙耶香(M):変わらぬ笑顔で競技場を走り抜ける彼女の姿はとても輝いていて、眩しかった。
それはもう、自分が掻き消えてしまいそうに感じるくらい。彼女の横に並ぶと自分がちっぽけに思えて、だから私は…


(長めの間) 志帆の着替えとトイレ待ち中の2人


爽世:(背伸び) はぁ~! 

沙耶香:疲れた?

爽世:疲れた。基本見てるだけだったのに。 

沙耶香:インターハイ独特の緊張感あったしね。

爽世:でも今日でひと段落!!

沙耶香:そだね!

爽世:ま、リレーチーム問題はまだあるんですけど…

沙耶香:あぁ(苦笑)

爽世:露骨に態度に出す先輩はいないけど、やっぱちょっと考えちゃう〜。

沙耶香:まぁ、あんなことがあったらねえ…

爽世:志帆は全然気にしてなかったみたいだけど。

沙耶香:まぁ、志帆だからなぁ…

爽世:小さいころからあんな感じなの?

沙耶香:うん。結構容赦なく物言っちゃう感じ。

爽世:あー、ねぇ…

沙耶香:でも、あれはさすがにヒヤッとしたなあ。

爽世:あたし達含め、あの場にいた1,2年全員してたよ、多分。

沙耶香:やっぱり?

爽世:そりゃそうでしょ。だって先輩のいる前でああ言っちゃうんだもん。

(間)

志帆:「先輩達の練習、もっと改善できると思います。」
「あんまり記録が伸びてない人って、たぶん意味のない練習のせいです。」
「無駄な練習するくらいなら休んでた方がいいので、もっと考えて練習した方がいいと思います!」

(間)

爽世:正しいんだよねえ…

沙耶香:うん、正しい。

爽世:はぁ…。1個1個身体と動きを意識したほうがいい~とか、練習のための練習になってる~とか、言いたいことはまあ、本当にその通りなんだろうけど。もうちょっと言い方変えられなかったのかなあ?

沙耶香:志帆には無理かなぁ。

爽世:だよね。幼馴染じゃないあたしにもわかる。

沙耶香:先輩と志帆の関係に神経使いながらリレーのサポートか…

爽世:そうなの。疲れんの!

沙耶香:お疲れ様。

爽世:他人事みたいに言うけど、沙耶香だってそのうちタイム測ったりするんだからね?あたしが専属なわけじゃないし。

沙耶香:うええ…

爽世:志帆は記録も良いし、話せば分かる子なのに。なんでこう先輩とも同級生ともきまずくなるかなあ…

沙耶香:同級生とも?

爽世:あんた知らなかったの?志帆と玲那のこと。

沙耶香:え!?何それ!?

爽世:地区予選前かな?玲那にもズバッと言っちゃったの。

沙耶香:何を?

爽世:なんだっけかな?「あ〜、言っちゃった。」って思ったことは覚えてる。

沙耶香:うそ?だって今日普通に話してたよ?

爽世:マジ?あの時、結構空気やばかったけどな。

沙耶香:全然知らなかった…

爽世:もうお互い気にしてないんじゃない?

志帆:さやちゃーん、ソヨちゃーん!

爽世:はいはーい!よし、帰ろ!

沙耶香:うん!

(間)

志帆:(唸り声)

沙耶香:志帆〜いつまで悩んでんの〜?

玲那:まだかかる?

志帆:決めた!カルボナーラ!!

玲那:いっつもこんな悩んでんの?

沙耶香:今日は早いほうかな。

玲那:うっそでしょ。

志帆:2人ともなんでそんなに早く決められるの!?

玲那:あたし、ここではトマトパスタしか食べないって決めてるから。

志帆:えーーー!?

沙耶香:注文確定するね。(パネルをいじる)

玲那:せんきゅ~。

沙耶香:さて!!とりあえず、インターハイお疲れ様、志帆!

志帆:あ、そっか!ありがとう!

玲那:それでファミレスでプチお疲れ様会しよう!って集まったんでしょ!

志帆:忘れてたぁ・・・

沙耶香:100メートル走全国2位だもんね…!ほんとすごいよ…。

志帆:ありがとう!でも~~…ん~~~!

玲那:ん?

志帆:悔しい!1位取りたかった!

玲那:まあそうかもしんないけど、うちらからしたら2位でも充分やばいからね?
ってか100×4のリレーで1位とったじゃん…

志帆:どっちも1位とりたかった…

玲那:はぁ~…さすがだね!

沙耶香:玲那さんの言う通りだよ、志帆。2位でも充分すごいって。

志帆:うん…!ありがと!

玲那:ふふっ、沙耶香、うちのこと呼び捨てでいいってば。

沙耶香:あぁ…!ごめん。まだ慣れないや。

玲那:謝んなくてもいいけどさ。それより、全国2位の志帆様に相談があるんだけど。

志帆:んえ?

玲那:たまにでいいからさ、練習付き合ってくんない?あんたも色々トレーニングしたいのは分かってるんだけど、あたしも記録もうちょい伸ばしたくて。

志帆:んーーーー…いいよ!

玲那:お、ほんと?

志帆:うん!楽しみ!

玲那:やった。さんきゅー!

沙耶香:お~…9月に新人戦もあるもんね。私にもなんか手伝えることあったら言って!

玲那:ん~嬉しい!助かる!

志帆:はっ、あの店員さんの運んでるカルボナーラ、私のかな!?店員さーん!

沙耶香:ちょ、ごめんなさい!!志帆!恥ずかしいからそういうの止めて!

(間) 後日

爽世:も~~~~行きたかったそれ~~~~~!!!

玲那:ドンマイ♪

爽世:くっそ、弟の誕生日じゃなければ。。。

玲那:…あんた、本当に良いお姉ちゃんだよ。

爽世:どうも!!  ねえー、今度はあたしも混ぜてよ。もう一回行こう!

玲那:沙耶香達にも聞いてみて、いけそうだったらね。

爽世:絶対行かせる。みんなあたしのために予定を開けろ!!!

玲那:あっはっは!!うける!

爽世:何の話したの?恋ばな?沙耶香に彼氏っていんの?まさかの志帆?玲那はいないよね知ってる。

玲那:うっざお前!ちょっとそういう話になったけど、2人ともいないって。

爽世:なーんだつまんないの。他には?

玲那:インターハイお疲れ〜とか、練習どうしようとか?あとあそこの服可愛いとか。

爽世:あーあんまり面白くなさそう。服だけちょい気になる。

玲那:そのうち買い物行きたいね!みたいな話もしたかな。

爽世:その時は絶対あたしをハブるなよ!!

玲那:別にこの前もハブったわけじゃないから!!!


(長めの間)  更衣室を出て、帰り道の途中。


志帆:玲那ちゃん、走るの好き?

玲那:何?急に。

志帆:なんとなく気になって。

玲那:まぁ、好きだよ。気持ちいいし。

志帆:そうなんだ。

玲那:うん。

志帆:じゃあ、なんで練習サボったりしてたの?

玲那:え?

志帆:たまにサボってたでしょ?今はそんなことないけど。どうして?

玲那:あぁ…なんか、ちょっと馴染めなくてさ。ごめん。

志帆:んーん!謝らなくていいんだけど!中学で頑張ってた人なら、やる気ある人なんだろうなって思ってたから、意外だっただけ!

玲那:…志帆はやる気なくなることとかない?

志帆:ない!走るの好きだもん!

玲那:そうなんだ…やっぱすごいね、志帆は。

志帆:すごくないよぉ、やりたいことやってるだけだもん!玲那ちゃんこそ記録伸びてきててすごいよ!

玲那:それでも志帆の方が速いじゃん。

志帆:そうだけど!でもすごい!

玲那:あはは!ありがとう。
   あ、ねえ志帆、それさ。

志帆:ん?このネックレス?

玲那:うん。よくつけてるよね。自分で買ったの?

志帆:お婆ちゃんからもらったの!

玲那:へえ…綺麗だよねそれ。地区予選も応援来てくれたりしてたの?

志帆:んーん、一昨年、死んじゃった。

玲那:あ…そっか、ごめん。

志帆:大丈夫!玲那ちゃんは何かつけないの?

玲那:んー、つけたことないな。何かいいのあったらなーって思うけどね。

志帆:そっかあ…


(間) とある日の練習後


爽世:志帆。

志帆:…

爽世:志帆!

志帆:わっ…ソヨちゃん?

爽世:へばってるでしょ。

志帆:へば?

爽世:部活の時間外でも個人練習してるでしょ、あんた。それでいつ休んでんだろうなって思うわけ。

志帆:ん〜、最近、夜はぐっすりだよ?

爽世:そんなの最低限。あたしが言ってんのは、オフの日作ってんの?って話。

志帆:走らない日は……ないかも。

爽世:あのね、いくら練習後にケアしてるっていっても、あの量の練習毎日してたら、足おかしくするよ?もう10月も終わるんだし、短距離選手のあんたは大会とかないでしょ?身体のためにもペースダウンは大切だよ。

志帆:ん~…

爽世:本来、この時期の短距離選手はオフシーズンなんだから。どうしても毎日何かしないと嫌なら、軽めのトレーニングにしておきな。マネージャーの言うこともたまには聞くもんだよん。

志帆:そっか…うん。わかった!

爽世:あと…

志帆:?

爽世:ん、いいや。

志帆:えぇ!何!?

爽世:なんでもない。とにかく休みなさいよ!

志帆:はあい…

志帆(M):走らない。そんなの1日でも嫌で、私は全力疾走を続けた。少しも我慢したくなかった。好きな事に集中してれば、他のことは気にならなくなるから。
走って、走って、気が付けば秋も終わり、冬が顔を覗かせていた。

(間)

爽世(M):いろんな性格の人がいて、性格の合う合わないがあると思う。当たり前のこと。で、気が合わない人と無理に付き合う必要はない。ね?わざわざ一緒にいたって、楽しくないじゃない?

(間)    帰り道


爽世:玲那と練習?

沙耶香:そう。

爽世:志帆が?

沙耶香:そ、そう。

爽世:…なんで?

沙耶香:玲那から誘ってたよ?

爽世:玲那から?

沙耶香:うん。

爽世:いつ?

沙耶香:ソヨが来れなかったファミレスの時。

爽世:…ありえない。
ありえないでしょ玲那が志帆のこと誘って練習するとか!!

沙耶香:大げさっ! ていうか本当に練習してるんだもん。

爽世:いや、マジぃ?新人戦の時、玲那の記録がいい感じだったのってそういうこと?
…え〜絶対玲那と志帆は相性悪いのに。

沙耶香:何を根拠に・・・

爽世:根拠はあるよ!

沙耶香:どんな?

爽世:玲那は中学同じだからさ。わかんの、こういうタイプとは反りが合わないってのが。
あの2人は犬猿の仲。さるかに合戦の猿と蟹。水と油!

沙耶香:そう聞くと合わない感じするけど!なんかふわっとしてない!?

爽世:女の勘を舐めるなよ。

沙耶香:…

爽世:呆れてるでしょ。

沙耶香:いや、まあ…

爽世:このぉ!(首筋に冷えた手を当てる)

沙耶香:ひゃあっ!!手冷た!?ちょっと!!

爽世:許さあん!


(間)

爽世(M):季節は巡り、雪もチラつく冬の最中(さなか)…

爽世:ってことで!!

沙耶香:えっ、どういうこと!?

玲那:わかんないけどとりあえず!

志帆:いぇーーーーーい!!!

爽世:メリークリスマス!!!
だというのに彼氏のいない悲しき女子高生達、こんにちは!

玲那:あんたもでしょ!!

志帆:いぇーーーーーい!!!!!

沙耶香:そのいぇーいはおかしくない?

爽世:テンションも上がった(?)ところで、さっそくプレゼント交換ね!それぞれ用意してんでしょ!!

玲那:はーい。

志帆:もらう順番は!?

爽世:はいあたし最初にもらいたい。

沙耶香:そんなにまっすぐな目で…

玲那:ん〜と、ソヨにはハイ、これ。

爽世:何?

玲那:ボディスクラブ。

爽世:はぁ〜あんた分かってる…

沙耶香:あたしからはシャンプー。

爽世:ん?見たことないやつだ。

沙耶香:シャンプー、お気に入り見つかんないって言ってたでしょ?ソヨの髪の感じで選んでみたから使って!

爽世:よく覚えてんね!?うわーありがとう!マジでジプシーでさー!助かる!

沙耶香:どういたしまして。

志帆:ソヨちゃんにはね〜…これだ!ハンドクリーム!いっつもマネージャーの仕事ありがとう!

爽世:志帆…!あんたって子は…!

玲那:母かよ。

爽世:はぁ…満足。ありがとう。次はじゃあ、志帆にかな!

志帆:やったー!!!

玲那:志帆はこれ。

爽世:えっ

沙耶香:おお…ギフトカード…

玲那:待って弁明させて!これテキトーなわけじゃないから。志帆には好きな時に好きな物を買えるこういうものの方がいいと思ったの!トレーニング用品も考えたけど、何気にこだわりありそうだし!

爽世:あーね?

志帆:ありがとう〜!!すごい嬉しい!!

爽世:あたしから志帆にはハンドクリームで〜す。さっきのお返しだ!

志帆:えー!?ほんと!?

爽世:志帆って手綺麗だからさ。そのままでいてほしいの。

沙耶香:わかる、手羨ましい…。

志帆:さやちゃんは何くれるの!?

沙耶香:あぁ、はい!

志帆:可愛いー!!リップ!?

沙耶香:そ!この色志帆に絶対似合うから。使ってね!

志帆:うん!えへへ…

爽世:ふにゃふにゃしちゃってまあ…。んっと次は〜、沙耶香ね!はい、部屋着!

沙耶香:もこもこ…

志帆:マフラー!

沙耶香:もこもこ…

玲那:ブランケット!

沙耶香:もこもこ!なんで!?3人で話し合って決めた!?

玲那:いや偶然なんだよね。

爽世:なんかもこもこを身につけさせたくなる。

志帆:うん!!似合うもん!!

沙耶香:ええ〜…?でも、嬉しい!ありがと!

爽世:最後玲那ねー。ほいピアス!

玲那:えーーー神!めっちゃ好きこういうの!

爽世:でっしょー?

沙耶香:こういうのでよかったかな…

玲那:マジ!?イヤホン!?超嬉しい!

沙耶香:よかったー!そろそろ変えたいって言ってたと思って。

玲那:ソヨのプレゼントもそうだけど、そういうのよく覚えてるよね…

志帆:はい!玲那ちゃん!

玲那:おー?何これ?開けていい?

志帆:うん!

玲那:…ネックレス?

爽世:おぉ、ワンポイントがいい感じ!

志帆:短距離仲間だし、もっと仲良くなりたいから!

玲那:わぁ…ありがと!明日からつけるね!

爽世:よっし!!あとはなんか食べながら喋ろ!!志帆、あんた今日は食べるもの決まってんでしょうね!?

志帆:2つで悩んでる!!

沙耶香:そこまで行ったならさっさと決めちゃってよ!!


爽世(M):志帆と玲那は絶対にそりが合わないと思っていた。けれど、案外上手くやっていたようで、2人の間で諍いが起きたと言う話は、そのあとも全く聞かなかった。

(間)

志帆:(自室でボーッとしている)

志帆:あっ、お風呂。お風呂入らなきゃ…

志帆:ふふっ、貰ったの、明日使おっかな…

志帆:あぁ、ギフト、どうしよう。欲しいもの…あると思うんだけど…。

志帆:(ボーッとしている)

志帆:あげたのつけてくれるかな…へへっ…

(間)

爽世:にゃ〜!片付け確認終わり!!ほんと3年の先輩マネちゃんズって偉大だったわ。うちらの何倍も動いてたんだなって感じ。

沙耶香:うん、そだね。確かに。

爽世:あ!!昨日くれたシャンプーめっちゃ良い。ほんと助かる〜!これでやっとジプシーから抜けられそう!マジ感謝!

沙耶香:ねえ…

爽世:どした?

沙耶香:志帆と先輩ってさ。なんか…

爽世:あー…。なーんかずっと地味にネチネチやってんだよね。グループ外されてリレーの練習予定が志帆にだけ回ってないとか、嫌味っぽいこと言われたりとか。

沙耶香:うん。大丈夫かな…。

爽世:…志帆に聞いてみれば?

沙耶香:ん~どう聞けばいいのかわかんなくて.。そもそも、わざわざこっちから聞くのもどうなんだろ…。

爽世:もしかしたらあっちから相談してくるかもしれないけど、自分からは言いにくいこともあるかもしれないし。声かけてあげたら?

沙耶香:…。

爽世:まあ、そこは任せるけど。ほれ、帰るよん。コンビニ行こ!

沙耶香:うん…。

爽世(M):気付いたところで自分に何かができるわけじゃないってことがたくさんあるけど、全部がそうじゃない。他の人にできなくても、きっと沙耶香には、志帆にできることがある。そう思ってた。

(間)


玲那(M):うざい。

志帆(M):玲那ちゃんも速いね!これから同じ短距離選手として頑張ろ!

玲那(M):明らかにあんたの方が速いだろ。そういうのいらない。

志帆(M):練習してなかったら、記録が良くなるわけないじゃん。サボるくらいならなんで部活に入ったの?

玲那(M):いちいちうぜえな。お前みたいにいつでもやる気が出せるわけじゃないんだよ。

志帆(M):改善できるところ結構あるから!

玲那(M):はいはい、頼んでもいないアドバイスをどうも。

玲那(M):ほんとイライラする、こいつ。
だから、利用して、壊してやりたかった。

(間) 部活が休みの日

玲那:志帆の様子?

沙耶香:うん。結構一緒にいたでしょ?

玲那:あ〜。なんかテンションの上げ下げ激しいなとは思ってたけど、特に気にしてなかったかな。

沙耶香:そっか。ありがと。

玲那:幼馴染的には心配?

沙耶香:…まあね。あんまり表に出さないけど、最近ぼーっとしてることも多いなって。

玲那:よく見てるねえ。流石。

沙耶香:そんな、別にいっつも見てるわけじゃないけどさ。

玲那:沙耶香がいれば志帆も安心なんじゃない?なんかあったら支えてあげなよ。

沙耶香:……うん。

玲那:よし、かーえろ!

沙耶香:あっ。

玲那:ん?

沙耶香:…気をつけてね。

玲那:何それ(笑) ありがと!じゃね!

沙耶香:じゃあね…


沙耶香(M):分かっていました。志帆が先輩とうまくいってないこと。同級生からも嫌がらせを受け続けていること。掲示板サイトで、根も葉もない噂を流されていること。

それら全てに 臣玲那が 関わっていること

分かっていました。
でも、ずっと何もしなかったし、この時も何も言えませんでした。

指摘することで「そういうこと」の標的が自分に移るのが怖かったからです。

(少し間)

志帆(M):冬は嫌だ。すぐに太陽が隠れちゃって、頭に靄(もや)がかかる。

爽世(M):忙しない日々が、色んなことを気にかける余地を失くしていく。寒さも拍車がかかって、ちらつく雪の中、なんとなく日々が過ぎる。

玲那(M):どうやったらあいつを壊せるのか、思考を巡らす。時々、何やってんだろうと思うけど、しょうがないよ、だってムカつくんだもん。ウザいんだもん。

沙耶香(M):年が明け、あっという間に新しい日々も横をすり抜けていく。

志帆(M):頭の中のぐるぐるを、トレーニングで忘れて、家でまたぐるぐるして、その繰り返し。

爽世(M):冬の残滓(ざんし)と、次の季節の予兆。

志帆(M):私にはこれだけだ。だからはやく。

爽世(M):巡ってきた、春。

志帆(M):はやくグラウンドを全力で走らせてください。

玲那(M):あ。

面白いこと思いついたかもしれない。



(間)


沙耶香:もう再来週には地区予選か…

爽世:あっという間〜。ま!相変わらず緊張なんて皆無なんでしょ?志帆さん?

志帆:……(焦っている)

沙耶香:ん?

爽世:志帆?

志帆:…ない。

沙耶香:何が?

志帆:ネックレス...!ない!

爽世:え、いつもつけてるやつ!?

志帆:どうしよう。あれ…なんで?あれ…?

玲那:いつ外したの?

志帆:部活の前。

沙耶香:どうして?前までつけたままだったのに。

志帆:そうなんだけど…今日は外してたの。

玲那:部活来たのちょい遅れてたよね?

志帆:うん、少し遅れて、それで・・・

爽世:んん…とりあえず今日はもう探せないよ、門閉まっちゃうし。明日から探すしかないんじゃない?

沙耶香:明日探そう。手伝うから!

玲那:おばあちゃんの形見だっけ?見つけないとね。

志帆:うん。ありがとう!

玲那(M):そんなに大切なものなら、もっとちゃんと管理しないと駄目だよ。  ね?志帆。

(間)

爽世(M):その後、結局ネックレスは見つからないまま、私たちは地区予選当日を迎える。志帆は集合時間ギリギリに現れ、どこか虚な目をしていた。
ここ最近の様子から、みんなが心配していた。
その心配をよそに志帆は

圧倒的な速さで、地区予選を制したのだった。

(間)

玲那:キモ、あいつ…!結局余裕かよ。(ライターの音)

…ふっ。そりゃそっか。別に怪我したわけじゃないもん。走れるよね。当たり前か。(何かを切る音)

玲那(M):なんでこんなに必死なんだろ。もう自分でもわかんないけど。いっか。

(間)  ファミレス

沙耶香:決まった?

志帆:え?

沙耶香:メニュー。今日はどれで悩んでんの?ドリア?

志帆:え、あぁ…。うん。どうしよっかな。

沙耶香:…まあ、無理して食べなくてもいいと思うけど。

志帆:んーん!お腹すいたから。なんか、食べたい。

沙耶香:そっか。

志帆:うん。ごめんね。待たせちゃって。

沙耶香:ううん、大丈夫。いつものことだし。

志帆:そうだね…。

沙耶香:あの、志帆。

志帆:ん?

沙耶香:ネックレス、見つかりそう?

志帆:……ううん。

沙耶香:そう…

志帆:まだ探すけど、もし見つからなかったら、お婆ちゃんに謝らなきゃ…

沙耶香:見つかるよ!きっと。

志帆:ありがと。

沙耶香:………。

(少し間)

沙耶香:…最近、タイムはどう?いい感じ?

志帆:え?

沙耶香:ほら、6月も半ばでしょ?8月のインターハイなんてすぐきちゃうじゃん。だから、どんな感じかな?って。

志帆:タイムは…うん。いい感じ! 去年1位取れなかったからなー!今年は頑張らなきゃ!

沙耶香:…大丈夫!志帆だもん。今年は1位だよ。

志帆:うん!ありがとう。

沙耶香:…。

(間)

沙耶香:プレゼント?

玲那:そ!志帆に新しいネックレスあげようよ。2人で。

沙耶香:わ、私も!丁度何かあげようかなって思ってて!賛成!えっと、どんなのがいいかな?

玲那:ちょっと調べてみたんだけど、今一緒に見て決めない?

沙耶香:どんなの?見せて!ん〜…この中だったらこれとかかなあ…。あんまり高すぎるとあっちも申し訳なくなっちゃいそうだし、私たちもきついし。

玲那:デザインいいもんねそれ。OK!これにしよっか!

沙耶香:いつ買いにいく?休みの日に一緒にお店行く?

玲那:ううん、オンラインショップであたし買っちゃうよ。ギフト用のラッピングも頼めるみたいだし。お金はあとで渡してくれればいいから!

沙耶香:ほんと?じゃあ、お願いしちゃう!ありがとう!

玲那:はいは〜い!

(間)


志帆
:ごめんなさい……ごめんなさい……

(間)

爽世:んぎゃー!傘忘れたー!走んのやだー!さっさと帰る!じゃあね!!

沙耶香:じゃね!

玲那:沙耶香、これ!

沙耶香:ん?あっ、こないだのやつもうきたの!?

玲那:そ!届いたから。あとは沙耶香が志帆に渡してあげて!

沙耶香:私?

玲那:幼馴染の沙耶香が渡した方が、きっと嬉しいから!

沙耶香:志帆が学校に来た時に一緒に渡そうよ。

玲那:家知ってるんでしょ?それにほら、早めに渡してあげてほしいもん。最近志帆休みがちだし。

沙耶香:そっか…。ん、これ、箱一回開けたの?

玲那:あぁ、中身間違ってたら嫌じゃん?一応確認した。大丈夫だったよ。

沙耶香:あぁ、そっか。そういうことか。

玲那:じゃあお願いね!短距離仲間と、幼馴染兼マネージャーから!みたいな感じでさ。雨の中悪いけど、お願いね!

沙耶香:…うん、わかった!

沙耶香(M):2人の関係が少しずつ良くなって、志帆もいろんなことから解放されると。そんな呑気なことを、この時の私は考えていました。考えていたというか、それを望んでいただけなのかもしれません。

(間)

(牧原家のチャイムの音)
沙耶香:あ、こんばんは!お久しぶりです。志帆って今、体調大丈夫そうですか?渡したいものがあって…。
はい、お願いします!

(間)

志帆:さやちゃん!

沙耶香:体、大丈夫なの?

志帆:うん!ありがとう!どうしたの?雨降ってるのに。

沙耶香:はい!これ。

志帆:何これ?

沙耶香:プレゼント!

志帆:え…?

沙耶香:短距離走仲間と、幼馴染兼マネージャーから。玲那がね、志帆に何かあげようって言ってくれて、私と一緒に選んだの。

(志帆、涙ぐむ)

志帆:……ぅ…

沙耶香:志帆…?大丈夫?

志帆:っ!! ごめんね!大丈夫!
すごい……嬉しい!!ありがとう…!!

沙耶香:よかった…。元気出してね、志帆!

志帆:へへっ…さやちゃん、大好き!!

沙耶香:ふふっ!うん!!

志帆:玲那ちゃんにもお礼言わなきゃ…

沙耶香:じゃあまた学校でね!

(間)   志帆 自室にて

志帆:えへへへっ…やったぁ、プレゼント…2人から…

志帆:どんなのくれたんだろ…!

(取り出した箱を開ける)

志帆:…………え?

玲那(M):箱に入れた物は、2つ

志帆:ぁ…?

玲那(M):ひとつは、プレゼントらしく、メッセージカード。
書いてあるのは「ゴミ処理よろしく」だけど。
そしてもうひとつは
火をつけて
バラバラにした
志帆のお婆ちゃんの形見。

志帆:ぁえ…なん、で……?2人、プレゼント…2人が…これ…を?

志帆:嘘……嘘嘘嘘!!嘘、だ!こんなの!!こんな、だって、プレゼントって!!短距離走仲間、幼馴染って、言っ、、、ぅ、、うぅぅぅううぅっ!!!!!

沙耶香(M):元気出してね、志帆!

志帆:………なんで…?

(間)

爽世:おっはよ~ん。

沙耶香:おはよ!

爽世:ん~~眠い。

沙耶香:動画見てた?

爽世:そ。推しは推せるときに推せってね。

沙耶香:何それ(笑)

爽世:知らないの?これ名言なんだから… あっ!?志帆!!

沙耶香:っ!

爽世:おひさ!!

沙耶香:おはよう!

志帆:……おはよ。

爽世:おい〜テンション低くない?てか1週間ぶり?痩せた?

志帆:わかんない。

沙耶香:…?あ!そうだ、見てくれた?プレゼント!

志帆:ぁ…

爽世:ん?何、プレゼントって。

沙耶香:ふふん、ちょっとね。

爽世:何それー!!

志帆:…ごめん、ちょっと保健室行ってくる。

爽世:は?大丈夫?もしかして無理してきた?

志帆:ううん、なんかちょっと頭痛くて。

沙耶香:大丈夫?

志帆:うん。

(間)

玲那:志帆。

志帆:あっ…

玲那:学校来たんだ。

志帆:…。

玲那:?何固まってんの?

志帆:玲那ちゃん…昨日のプレゼントって…

玲那:ん?何それ?

志帆:っ!

玲那:昨日なんかあったっけ…

志帆:ごめん、なんでもない。

玲那:ふーん。まいいや。ごめんね、久々に見たからなんとなく声かけちゃった。じゃね。

(去っていく玲那)

志帆:……玲那ちゃん、知らなかった…。

志帆:さやちゃん………

(間)   部活後

沙耶香:スマホ部室に忘れるとか最悪…

沙耶香:志帆、結局すぐ帰っちゃったな…まだ無理かあ…

沙耶香:ん?部室、人いる…。

(玲那と同級生が話している)

玲那:掲示板はあたし一回しか書き込んでないってばw
てかさ聞いて。昨日沙耶香が志帆にとどめさしたっぽいんだよね~。
あたしがやらせたみたいなもんだけどw

沙耶香:…え?

玲那:ん?あっ。

沙耶香:…とどめって何?

玲那:あぁ… (話していた友人に) ごめん、先帰ってて。

沙耶香:……。

玲那:はぁ……何?盗み聞き?

沙耶香:違う。っていうか話し逸らさないで。

玲那:…。

沙耶香:どういうこと?とどめって何?
……志帆に何渡したの?

玲那:あはっ!なんだ、なんのことか分かってんじゃん。ってか渡したの沙耶香でしょ。

沙耶香:玲那がそうさせたんでしょ!!

玲那:強制はしてない。頼んだだけ。

沙耶香:屁理屈言うな!!!

玲那:(舌打ち)うるさ。

沙耶香:あれ何なの!?何入れてたの!?

玲那:なんだったと思う?

沙耶香:いいから答えろ!!

玲那:(ニヤニヤと)……ひとつは…

(長めの間) 

沙耶香:……。

玲那(M):ほんと笑える。中身が何かも知らないで、嬉しそうに志帆にプレゼント渡すんだ!ってテンション上げちゃってさ。

沙耶香:(荒い息とうめき声)

玲那(M):どんな気分だっただろうなぁ…大好きな幼馴染にあんなもの渡されて。最悪なんてもんじゃないよね、たぶん。
え、沙耶香さぁ、なんて言って渡したの?
元気出してね!とか?
あっははは!!元気出てればいいね!!

沙耶香:(うめき声)

玲那(M):あ、お金、返しとくよ。おもしろいもの見せてもらったお礼。
はい。ありがとうございました。

沙耶香:(大きいうめき声)

沙耶香(M):玲那が箱に入れていた物。私が志帆に渡した。それを。
気が付いた時には駅のトイレにいて、嫌悪感とか、罪悪感とか、後悔とか、そういう自分のぐちゃぐちゃしたものが、便器に吐き出されていた。

(間)     放課後、人のはけた教室

爽世:沙耶香、話聞いてた?

沙耶香:え?

爽世:もー!あたしの推しが尊い話!!興味なくても何となく聞いてよー!お願いだからー!

沙耶香:うん、ごめん…

爽世:…どうしたの?昨日くらいから変。

沙耶香:………あの…。あの、ソヨ。

爽世:何?

沙耶香:私、志帆にーー

(長めの間)                     沙耶香、爽世に全て話す



爽世:…あたしに言ってどうすんの?

沙耶香:……

爽世:あたしに言ってどうすんだよそれ!!!

沙耶香:…っ

爽世:あんたがしなきゃいけないのは、あたしにそれを告白することじゃなくて、志帆に謝ることなんじゃないの!?それしないで、何ここでうだうだしてんだよ!!

沙耶香:…

爽世:なに呑気に学校来てんだよ!!休んででも志帆のところに行って謝れよ!!何を差し置いてでも、1番にしなきゃいけないのはそれだろ!!

爽世:あたしに自分のしたことを言って、楽になろうとするな!!!

沙耶香:っ…!!

爽世:あたしに言っても許されるわけじゃない。

沙耶香:…。

爽世:………玲那探してくる。まだ学校にいるなら、あたし、今すぐぶん殴らないと気が済まない。

(爽世、教室を出ていく)

沙耶香(M):私のこともぶん殴ってくれたらいいのに。
そうすれば、ちゃんと泣けたのに。
…本当にずるい人間だ、私は。
都合よく「救われたい」と思ってた。

だからこれは 罰だ。
2度と救われることのないように与えられた、罰。

(勢いよく開く教室の扉)

爽世:(息を切らしている) 

爽世:……志帆が…!


沙耶香(M): 7月7日 小暑の日 
私の幼馴染 牧原志帆が 自殺した


(間)   志帆の葬式


爽世:沙耶香。

沙耶香:何。

爽世:志帆の顔、見た?

沙耶香:…見てない。

爽世:見なよ。

沙耶香:…。

爽世:一生後悔するよ。

沙耶香:……。

(間)

爽世:…。

玲那:(爽世に気づいて細くため息)    何?

爽世:どの面下げてきてんの?

玲那:…

爽世:なんとか言えよ。

玲那:…わなかった。

爽世:は?

玲那:死ぬとは思わなかった。

爽世:っ!(玲那に平手打ち)

玲那:…っ

爽世:ふざけるなよお前!!!!!

(間) 

沙耶香(M):その日、一通の手紙を受け取った。
志帆の部屋に、私宛で置いてあったから、と。
今まで、あの子を支えてくれてありがとう…と。
そう言って、志帆のお母さんが私にくれた。


志帆(M):さやちゃん。
幼馴染でいてくれてありがとう
自分が走るのを辞めちゃっても、マネージャーとして傍にいてくれてありがとう。
大好きなおばあちゃんが死んで、全部が嫌になった私の心を、中学生の時からずっと支えてくれていたのは、さやちゃんでした。
さやちゃんがいたから、いろんなことに耐えられたよ。
ねえさやちゃん。
私は何をしちゃったのかな。
どうしてあんなことされたのか、わかんないんだ。
聞きたいけど、怖くて聞けないんだ。
ごめんね。
こんな手紙しか書けなくてごめんね。
ごめんなさい。
今までありがとう。
ごめんなさい。
さようなら。



沙耶香(M):あの時、私はどうすればよかったんだろう

爽世(M):あの時、私に何ができたんだろう

玲那(M):あの時、私、何やってたんだろう

沙耶香(M):答えは返ってこない。

(間)  大人になった沙耶香

沙耶香(M):梅雨を抜け出して、日増しに暑くなる。この時期が嫌いだ。空気の熱に呼応するように、私の身体だけが、奥の方から凍えていく。
風が頬を掠めた。5年が経っても、答えを見つけられない私に、便りが届く。
白南風(しらはえ)。光も色も鮮やかな、この小暑の訪れを知らせる、ひどく、ひどく、爽やかな風。

沙耶香(M):今年もまた、夏が来た。


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