菊田一夫 原作の忘れられたエンタテインメント人気作 〜 「都会という港」(島耕三 監督、1958年)
シネマヴェーラ で「都会という港」(島耕三 監督、1958年)をみる。
島耕三 作品であるし「桃色の超特急」(渡辺祐介 監督、1961年)みたいな軽めのコメディかとおもったが、予想以上に面白かった。連続放送劇をベースにしているとのことで、何回分ものプロットが圧縮されているからだろう。原作は菊田一夫。
連続放送劇、というのは、おそらくラジオドラマであろう。かなり人気があった作品らしいが、オンライン検索ではほとんど情報が出てこない。菊田一夫の評伝などをしらべるしかない。
菊田一夫は言うまでもなく「君の名は」「鐘の鳴る丘」などで一世を風靡した有名作家であるが、いまでは興味のある人か、当時を経験していた高齢者しか名前を覚えていない状況になっている感がある。
映画としては「桃色の超特急」よりももうすこし垢抜けない感じで、説明的というか粗削りなセリフもかなり多いのだが、これくらいの尺に連続放送劇のおそらく何話分かに相当するプロットを盛り込んでいると思われ、密度が高く、大衆エンタテインメントとして十分楽しい。原作者、菊田一夫に負う部分が大きいのだろう。
川崎敬三が山本富士子に好意をもつ、ライバル商店の息子を演じている。名古屋のテレビ塔前でタクシーを待たせながら、二眼レフで山本の写真を撮影し、それをもとに肖像画を描いて捧げる。
他の映画レビューをみると、この川崎敬三が肖像画を描くくだりの必然性がない、という批判を見かけた。
しかし、ひょっとしてこれは、やはり山本が主演した「夜の河」(吉村公三郎 監督、1956年)へのオマージュかもしれない。この「夜の河」では川崎敬三が山本富士子に私淑する貧乏画家(岡本太郎ならぬ岡本五郎)を演じており、川崎は山本の抽象的な肖像画を描いて捧げる、というくだりがある。
ほかにも山本富士子が東京に乗り込み、反物サンプルを呈示して切り込み営業をかけるシーンなども、「夜の河」を思い出した。
しかしこれもオマージュかもしれないが、当時のおんな一代記的なクリシェの一つなのかもしれない。実際のところは菊田一夫氏に伺ってみないとわからないだろう。
川崎敬三は「都会という港」「夜の河」の両作品どちらも絵描きの青年をやっているが、今回のシネマヴェーラ渋谷・山本富士子特集で併映される「白鷺」でも画家を演じているらしい。
川崎は「画家率」の高い俳優なのだろうか? それとも、当時は貧乏画家という定番の役柄があったのかもしれない。
永島慎二などの昭和30年代のマンガや、「誘惑」(中平康 監督、伊藤整原作、1957年)などにも若い貧乏画家の群像が散見される。最近ならば「火花」(2017年)に通じる造型になるだろう。