短評:「奴ら(ジャップ)に地獄を見せてやれ」 〜 ハワード・ホークス監督 「空軍/エア・フォース」
シネマヴェーラ 「空軍/エア・フォース」
1943年、ハワード・ホークス監督。
「勝ってる戦争はカッコいいぞ!」
という言葉(小林よしのり)を、きわめてよく体現した映画であった。……ただしそれが「彼らの側」からのカッコ良さであることを除けば。
B-17爆撃機メリーアン号に乗り組んだ航空小隊が、訓練飛行として非武装状態でサンフランシスコからハワイに飛行するところから物語は始まる。平穏に終わるかと思われた道中、その日付は1941年12月7日。日本軍の真珠湾攻撃奇襲が開始され、きな臭い空気になる。
ウェーク島をへてフィリピンへ向かうメリーアン号。立ち寄る島々の基地は日本軍により攻撃されている。卑劣な攻撃の犠牲者を目のあたりにして、小隊の義憤はいやましてゆく。
メリーアン号も攻撃を受け、チーフは死亡する。ダメージを受けたメリーアン号の機体はあわや廃棄されそうになるが、飛行小隊員たちは日本軍の攻撃を受けつつも必死で修理し、ふたたび機体を飛び立たせることに成功する。
メリーアン号はオーストラリアに向かう途中、空母を含む日本軍の艦隊が南下しているのを発見し、各連隊と協力してここぞとばかりに爆撃し、轟沈させる。
これはどうも、公開直前に起こったミッドウェー海戦がモデルらしい。やられている日本軍艦隊には、「この世界の片隅に」の水原上等兵が乗艦していてもおかしくないだろう。
ラストシーン、戦果をあげた乗務員たちは、次の任務として爆撃機に搭乗し、日本の本土空襲に向かう。
「奴らに地獄を見せてやれ」
というセリフが刺さる。これはいうまでもなく、1943年から計画・開始されたB-29による本土空襲である。実際に地獄を見たのは日本軍のみならず多数の一般市民でもあったことは、よく知られている。
にもかかわらずこのシーンは「カッコいい」。戦意高揚プロパガンダ作品としての完成度は高い。
日本人がこの映画を観るばあい、自国を汚い敵「ジャップ」としてやっつける「カッコ良さ」を楽しむことになり、かなり倒錯的な気分を味わうことになるだろう。岡本喜八の戦争映画とは全く視点が異なる。
完成度が高く、エンタテインメントとして突き抜けているところが、さらに複雑な気分にさせられる。小林よしのりも、このレベルを越えるエンタテインメントをたたき出さなければならないとすれば、ずいぶん大変であろう。