江戸初期のマリー・アントワネット 〜 「千姫御殿」三隅研次 監督、1960年
シネマヴェーラ 「千姫御殿」1960年、三隅研次 監督をみた。これはなかなか面白かった。
山本富士子 演じる主人公の千姫は徳川二代将軍の娘であり、吉田御殿に男を引き入れては殺す淫乱魔性の女であったという後世の都市伝説を題材にした物語である。
千姫は、幼い頃から政略結婚に利用され、自分の人生がないことに不満を感じている。自分を救い出してくれる男性を希求するが、そのことすら政略に利用されてゆくことになる。
この点、時代劇であるにもかかわらず、かなりモダンな造型ではないか。こういった自己のある女性、自由のなさにフラストレーションを感じる女性キャラという造形は、古典的な時代劇にはあまりみられないように感じられる。
しかしそれにしては既視感がある。よく考えてみるとこれはマリー・アントワネットの(説話的)キャラクターであった。どうりでモダンな印象があった。もちろんそのままではなく、かぐや姫のような物語構造もあるし、既存の物語枠だけにとどまらない味がある。
前日に観た山本富士子 主演作品「夜の河」も女性の自己確立というテーマだった。山本という女優にまつろうテーマ=イメージであろうか。キャスティングのときに、そういう役柄に見合った女優として選ばれた面はあるだろう。あるいは、それよりもさらに制作された昭和三十年代の空気を反映しているのか。
史実では千姫はほぼほぼ天寿をまっとうしたというが、そのことを踏まえると、ラストシーンの喜八郎からの手紙の文面がじわりと効いてくる。
また本作では、淫乱魔性の女であるという千姫伝説がなぜ生じたのか、明らかになるというシカケがある。もっともこの伝説はさらに後世、幕末あたりに生じたようなので、あくまでもフィクションということになるようだ。