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アメリカのダイエットコカコーラ
『マームと誰かさん・よにんめ 穂村弘さん(歌人)とジプシー』
2014年2月28日〜3月2日 原宿 VACANT 出演・青柳いずみ
作品は予約したけれど観られなかった。
見損ねた芝居がみんな来世でも上演されてありますように。
後日何人かの友人から、称賛と批判の感想をそれぞれ聞く。
それから、今日マチ子の描いた主演女優・青柳いづみのイラストを見る。
スウェットで黒縁眼鏡で、引っ越しの出来なさそうな女の子だった。
ああもうこれは正解のやつじゃん、これで寝転がって菓子パン食うんでしょ、いいな、ありだな、ほむほむの女体化ぜんぜんありだ。
と、それを見せてくれたあなたの前では言わない。
目の前の女の子もやはり、変な色のスウェットで黒縁眼鏡で寝転がっている。
穂村弘を好きだと言う女の子とはいい友達でいたいと思う
穂村弘のようなしたたかな男の子に憧れて短歌を始め、十年が経った。
短歌を一瞬でやめて演劇に専念していれば、じゃあ藤田貴大のようなしたたかな男の子になれただろうか。まさかね。
『テレビばかり見てると馬鹿になる』というのは山本直樹の漫画のタイトルで、その中に北海道の、何もないロードサイドのコンビニで、存在の不確かな女の子を拾ってセックスをする話がある。山本直樹はこの十年「ここには何もない」って繰り返し繰り返し言っていて、女の子は相変わらず不確かだし、それから五回に一回くらい男が死ぬ。
私の読んできた作家はみんな北海道出身の、ような気がする。何も無い場所の作家たちはどこから来たのか。
イオンまで103キロのところからどうせ歩いてゆかれない街。
今日び、大抵のイオンにはヴィレヴァンが入っている。松江のイオンにも鳥取のイオンにも入っていた。
それらの郊外のヴィレヴァンには、アダルトなジョークグッズやゾーニングの対象になるような猥雑な図画は置かれていない。
きらきらの固有名詞に埋もれた、イオンの中の遊べる本屋。
サブカルのドン・キホーテのような場所で、アメリカのダイエットコカ・コーラを買う。
歴史には黒も白もなく、わたしはずっと灰色の、天気の悪い田舎の、眼つきの悪い高校生だった。
◎
東京を出て一週間、わたしは北海道へ向かう船の中にいる。この一週間ずっと何もせず、知り合いを家から近い順に訪ねていたら港に着いた。
船に乗って六時間、客室はゆっくり揺れているし、ネットには繋がらないし、わたしはここからもうじきたどり着く北海道の、北海道のイオンの中のヴィレヴァンの、詩歌の棚の文庫の本のことを、それからそれを手に取るであろう高校生のあなたのことを考えている。
あなたはまみでもないし、ましてやほむほむでもないし、でもそこから先の十年や二十年を、でも誰かが、それでもわたしは好きだな、って言ってほしいのだと思う。思うけれど。
各々が腕を枕に眠るとき、眠りの向こうにあなたの船が。
(2014年『手紙魔まみ、わたしたちの引っ越し』掲載分)
(以下2024年)
↑上のリンクはもう購入できませんが、2014年、『まみトリ』に寄稿したエッセイでした。
大学を卒業した春休み、舞鶴から小樽に行くフェリーの中で書いていた原稿。
卒業して10年、もう一度大学に戻った年の夏休みに、北九州から東京へ行くフェリーの中で読み返してみたら色々と募るものがあったので放流します。
追記:まさかの転載時にタイトル間違えてたので直しました。元ネタは佐藤友哉の『灰色のダイエットコーラ』(とその元の中上健二の『灰色のコカコーラ』)なのでナカグロは要らない。
↓このあと歌集が出せて、本当に良かったね。
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