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第四章 一 時を繋(つな)ぐ

綾子は大阪で板前と結婚して福島区で、『かめや食堂』という屋号の食堂を始めた。
芳江も中学を卒業してすぐに、食堂を手伝うため大阪に行き、道夫は里の上の店の娘さんを嫁にもらい、綾子の食堂の近くで建具屋を始めた。
正(まさ)志(し)も道夫の建具屋を手伝うため、大阪に行ってしまった。
縁というのは不思議なもので、養子に出した美咲の子守り兼、手伝いとして簑島に行った忠子は、先妻の連れ子の跡取り息子と結婚した。
ところが、桂子だけはどこにも行かず、家に残こり田畑の手伝いをしていた。
藤松さんもぎんさんも何故か桂子には甘く、どこにも行かしたくないようだった。
美咲を養子に出したうしろめたさからか、末娘(すえむすめ)のように可愛(かわい)がっていた。
しかし、芳江が、食堂にときどき来ていた客と結婚して、食堂をやめてしまい、困った綾子は桂子に手伝いに来るよう頼み、いよいよ桂子も大阪に行くことになり、藤松さんとぎんさんは、とうとうふたりきりになってしまった。
古野家だけではなく大抵の若者たちは、田辺や白浜、堺や大阪に働くために里を出て行った。
 

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