【ナニWAA! 第23回セッション】レポート
【生きる場ストーリー】
近江舞子の宿泊施設・白汀苑のオーナー・今井さんが、学生の「何か面白いことをしたい!」という思いに心を打たれ、宿のはなれの一棟を学生の自由な発想でリノベーションして創られたスペースです。京都工繊大の学生が集まり、2021年3~5月で学生を中心に創り上げていきました。
学生の思いとして、いろんな人と「場づくり」ができる場にしたかったそうです。地元の方やお子さんに琵琶湖のきれいな絵を家具にお絵描きしてもらって、施設内に飾ったり、地元の方との交流も大切にされています。元々の目的は働く場をつくることだったので、室内に設置された巨大モニターを使って仕事をしたり、ウッドデッキでは緑と琵琶湖を眺めながら気持ちのいい空間で仕事ができるたり、また、あえて狭い空間も作っており、ダブルモニターをおいたりして集中して仕事ができるようにしていたり、いろんなバリエーションを持って働ける空間を用意しました。
地域に開かれた場所として育てていく
「生きる場」では多様な人々が混じるきっかけとして様々なイベントを実施してきました。その中でも今年の3月には活動を開始して1周年記念のイベントとなる【生きる場 First Anniversary ワークサミット 2022『自分らしく働く』を実現する場】は多く方に参加していただき、大成功だったそうです。
第一部では、「生きる場」の活動報告、第二部では、未来の働き方を考えるトークセッション:10年後の働き方を4つのシナリオに構成して考えてみた。こんな未来を考えてみた、というレポートを作成されました。
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従来のイベントでは参加者が集まらず、収支が取れないという苦い経験をされ、宮本さんは参加人数40人、黒字化という目標を立てられました。まずはワークサミットのフライヤーを1か月前に500部作製し、コワーキングスペース、近江舞子周辺で活躍されている人に配布したり、SNSを活用し、FacebookやInstagramに投稿し、くどいくらい告知され、無事、達成されたそうです。
また、4月からは「生きる場カフェ」と題して、毎週日曜日、11:00-16:00に地域の皆さんと触れ合える学生との交流の場を設けています。その他、「雨宿りには音楽を」、夏には小学生向けに、夏休みの自由研究として、親御さんも一緒に参加できる「紙漉きイベント」も開催されました。
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人と人をつなぐ空間、場づくり
加谷さんは普通の学生生活を送るだけでは面白くない、と思っていたそうです。研究室の仲教授の「サードプレイスはある。フォースプレイスを創ろう」という言葉に「そんなの面白いに決まってる!」と魅力を感じたそうです。当時から空間に携わっていこうという思いもありました。宮本さんが入学されたころにはすでに「生きる場」は始動していてましたが、仲教授の言葉に心が動いたそうです。「建築は箱を作るだけじゃなく、箱の中で何をするのか。そこでどんな交流があり、どんなことが出来るのかデザインできる」。
加谷さんも宮本さんも建築を専攻されているので、建物を創るだけではなくその向こうにある人々が集い、つながる場としての空間創りにも興味があったようですね。
今までは空間づくりに必死だった、と加谷さんは言います。これからはそれを広げていくフェーズにきているそうです。今、一番大事だと感じているのは、「地域の人に受け入れてもらえる場にしていくこと」。「生きる場」は仲教授と京都工繊大生が押しかけていって、コワーキングスペースを建てた、という経緯があるので、今後は湖西の地域に何かしら恩返しする場として貢献していきたいという思いがあります。地域のイベントや街づくり、それを担うまでにはいかなくても、拠点になればいい考えています。その思いは宮本さんも同じで、地域の人たちとどういう風につながっていくのかは「生きる場」の一番の課題だと考えています。
現在、「生きる場」は、利用者に信頼を置いて、誰も担当者がいなくても使ってもって運営されています。一方で、やはり誰かがいる方が話ができ、面白言うことが起こりやすいとも感じていて、一週間に一回、定期的に自分たちの誰かがいる時間を作ろうと「生きる場カフェ」を始めたそうです。地域という意味では、隣で「ホウライマルシェ」という湖西の地域団体がおこなっているイベントに訪れて、「生きる場」の活動を説明して、WEBページにも掲載してもらい、にこちらから足を運んで主体的に動くことで徐々に広がっているそうです。
Work from Anywhere Anytime = WAA
「生きる場」を運営されて日本の働き方の変化を少し感じる、と宮本さん。会社に出社しなくてもよくなることでいろんな場所で働く、という柔軟さが高まってきたと感じるそうです。
一方で、「生きる場」を利用されている人は土日が多く、企業に勤めている人が平日に利用するには難しいという、参加者からの意見がありました。「生きる場」での利用はクリエイティブな仕事、企画制作、ミーティングなどに適しているようですが、そういう使い方はされておらず、そうなるには、まだ時間がかかるという意見も。
ナニWAA!はWAAと言って「Work from Anywhere Anytime」の実現を目指しています。いつでもどこにいても、自分にとって一番調子のいいところで仕事をするという精神で、ワーケーションや在宅勤務などを推奨していこうというグループです。コロナをきっかけに在宅勤務が浸透しました。が、それでもコロナが収まってきた際には、会社出勤という揺り戻しが起きて、「やっぱり対面の方がいい」という声も聞かれます。
加谷さんや宮本さんも学生として対面授業とオンライン授業を経験されています。加谷さんは、使い分けは大事だと感じています。実家にいると気持ちが落ち込んだり、集中力が落ちてしまうこともあるそう。「生きる場」で朝、作業をして、夜バーベキューするというモデルコースを体感したところ、本当に良かったそうです。オンラインで授業を受けた際に、外に緑と琵琶湖の涼しさがあると生産性も上がっていると個人的に実感されたとのことでした。宮本さんも時と場合で使い分けるは大事だと考えます。所属しているゼミの先生が東京にいるのでオンラインのゼミだそうです。学生の中では「先生ってどんな人なんだろう…」という気持ちがあり、初めて会う人だと、人となりが分からないので、そういう場合はオンラインは不向きだと感じています。他方で、知っている人同士でちょっとしゃべりたい、打合せしたいというものだと楽だし、家から出なくてもいいので向いていると考えます。それでも家にこもって作業をしたり、緊急事態宣言で学校へ行くことができず、人としゃべる機会もなくこのまま病んでしまうのではないかという学生もいたそうで、人と会ってしゃべるというのは大事だと思われたようです。
自己投資をするような日本になれるかがカギ
セッションの中では「自己投資」というキーワードが出ました。「生きる場」を利用している会社員の方でも多くの人が有休を取得して自費で行って、仕事をされています。自分が楽しいと思うことにどれだけ時間とお金を使えるのか、「自己投資」できる人口が増えていかないことには「生きる場」は浸透していかないのでは、という意見とともに、「生きる場」が流行るような世の中に慣れば、日本もまだイケる!という感想もありました。
まちづくりやコミュニティづくりで、特定の企業が入ると、企業の宣伝やマーケティングの色合い強くなってしまったり、採算が合うかどうかという話になります。その点、「生きる場」はどこの企業とも紐づいていないというのが強みと言えます。海外の成功事例ではイノベーションの場というのは公共機関が行っているそうです。日本にも「スーパー公務員」と言われる方がいますがそれもまだまだ少ないのが現状のようです。
イノベーションは新しいことを作るのがイノベーションではなく、新しいものを作って普及させることがイノベーション。生きる場も作って普及させて初めてイノベーションとなる、とお話しくださった参加者の言葉に、「なるほど!」と目から鱗でした。
加谷さんと宮本さんの白汀苑のオーナー・今井さんに恩返しをいたいという感謝の気持ち、お二人の教授である仲先生の「僕が責任を取るから、失敗してもいいよ」という心理的安全性を最後に聞きながら、この先も、また別棟をリノベーションして宿泊施設を建てる(かも)という構想も飛び出し、「生きる場」は進化し続けていくんだろうなあ、と期待が膨らみました。
加谷さん、宮本さん、とっても素晴らしいお話し、そして「生きる場」を創ってくださって、ありがとうございました!