澪
あさはかでうすい→トワイライト→深淵→アンチテーゼ(new!)
物事の全体像は常にピラミッド構造になっている。初めは皆底辺からはじまって、もちろんこの層が最も多い。その事柄につき深く踏み込んでいき熟練度が上がるにつれ、人数の少なくなる上の層に足を踏み入れるが、この層においてはまた底辺からのスタートとなる。その層においてトップを取って気持ちよくなったとしても、上の層に足を踏み入れることでまた底辺の気持ちを味わい、上には上がいるということを嫌というほど体に染み込まされ、必然的な挫折を経験することとなる。この恐怖で人は挑戦をやめ、自分のいる層の
1月に京都のみやこめっせで開催される文学フリマに出展しようと思っています。 一緒に書いてくださる人を探しています。 1人4000字ほどで、テーマは「コンプレックス」を考えています。 書いていただいたのは一冊の本にして当日売ります。 少しでも興味あれば是非お声掛けください!
風が生ぬるくなって外の景色が色づけられて唐突な雨のにおいが増えて暑い昼は石段を渡りながら鴨川の景色の一つになりたくて涼しい夜は出町柳の信号の音を聞きながら風を浴びたくてクロノスタシスや夏夜のマジックを聞きながら自分に酔うなんて反吐が出るようなことはせずに鍋しながらハレ晴れユカイでのダンスの練習でもしたい。 奥まった場所にある古本屋の店番をして、退屈しのぎに古紙の酸っぱいにおいがする本を読んで、何年いるかわからないおじいちゃん店主の唯一の家族である金魚のポテチに餌をやって、クー
長くまっすぐに伸びた睫毛があがっていき、末広の二重の線を作っていく様があまりにも美しくて、僕にはスローモーションに見えた。切れ長の形をした目の、白目の少し大きい瞳の、さらに奥にある真っ黒な部分が僕を捉えた。その瞳に吸い込まれて、目を逸らすことができないまま、先ほどコンビニで買ったガリガリ君ソーダ味をだらしなく垂らし、片手をべとべとにしたまま、その場から動けないでいた。聞きなれたカエルの声や鈴虫の声が遠く、自分と彼女のいる空間だけ非日常に浮いているように感じた。彼女はゆっくりと
あさはかでうすいシリーズの新作。 あさはかでうすい→トワイライト→深淵→アンチテーゼの順で、ぜひほかも読んでいただけると嬉しいです。 反吐が出る季節だ。突き刺すようだった風はいくらか甘くなって、酒が入った男女から流れ出てくる性欲みたいで吸い込みたくない。人通りが多くなった。人間も冬眠するらしい。黒革のショートパンツから覗く、細く白い太もも。明るい巻き髪、化粧。春の匂いと人間の匂いが混ざった空気を吸い込むと、肺がすぐに黒く染まった。タバコよりもはるかに即効で強力。雲一つない青
学部生の頃にしていたバイトで、1つ上に女の先輩がいた。 2回生の春休みに河原町のカフェ&バーでバイトを始めた。春休み期間で朝にバイトを入れていたのだが、時間帯が同じで新人の俺に仕事内容を教えてくれた。仕事の要領はよく適当に客をさばき、お節介にならない程度で新人の俺をフォローしてくれて、店長にばれないような程よい手抜き加減も教えてくれた。すごく愛想がいいわけではないけれど、会話が途切れることはなく、次第にプライベートの話をすることも多くなって、割とすぐに仲良くなった。目をよく
俺は大学受験に勝ったから自分より下の学歴のやつを馬鹿にしていいし、総合商社に内定したからそれ以下の企業に行くやつらを馬鹿にしていいし、筋トレをしているから筋トレしてない奴らを馬鹿にしていいし、人並みに女を抱いてきたからチー牛を馬鹿にしていいし、家庭環境がいいから家庭環境が良くない奴を馬鹿にしていい。男だから女を馬鹿にしていい。男より稼得能力はないし頭も悪ければ力も弱い。しかしこんな女にも二つの役割がある。一つは容姿で男のステータスや自己顕示欲を満足させること。もう一つはだらし
お前に出会ったのは内定先の懇親会だった。高身長で筋肉質、爽やかな顔に話しかけやすいいかにも好青年な雰囲気を纏っており、グループの女だけでなく男からもすぐに好かれた。見た目がよく愛想のよい人が多い総合商社の内定者の中でも、お前は特に周りからの印象が良かった。慶應の体育会、御三家からの東大卒など綺麗な経歴を持つ人たちは話もうまく愛想もよく、しかし根底から滲み出る自信というものを感じる度に胸焼けがし、まあこういう人が多いだろうと想像の範疇だったしなんとなく興味がわかなかった。それ
顔がよし、背よし、ノリよし、加えてカリスマ性があって、女はもちろん、男も皆、彼のことを好いていた。それでも自分のポテンシャルに胡坐をかいて適当に女で遊びまくることもなく、決して誰にも調子に乗った発言をぶつけることもなくちょうどいい距離感を保っていて、その他人や人生に対するほどよい無頓着さに皆また惹かれていった。 彼と飲み会でたまたま隣の席になった。 綺麗なEライン上の唇から発される、心地よい低さの声とスピード、不快さを一切与えない抑揚。目を伏せたときの長い睫毛が、目をあげたと
自分を何とか集団に落とし込もうと必死になっている様が滑稽で、相応の苦しみが透けて見えるところが痛々しくて、それを遠巻きに見るのが好きだった。 ストーリーでサークルの人たちがカラオケに行っているのを見た。必死でLINEを見返すけど[今からカラオケ行くよー!]の文字は見当たらない。 Zenlyを見る。河原町のジャンカラに6人ほど。全員にスタンプを送ってみたけれど、誰からも返信はなかった。インスタのストーリーにも返信した。既読すらつかない。 その日は寝れなかった。なんで誘われなか
木漏れ日が零れる木の陰で、鳥の声を子守唄にしながらウトウトしていました。今日は人間の獣のような匂いもしないし、小物の動物が喧嘩している声もしないし、いい昼寝ができそうです。 ふと何かの視線を感じ、うっすら目を開けると、あなたの顔がすぐ近くにありました。口元から少し生臭い匂いがします。小鹿が数匹とれたようでみんなでパーティーをしているそうで、私もどうかと誘いに来たようです。私はみんなで何かを食べることが嫌いです。命を奪い同じ血肉を分けて自分の栄養とするという行為を、どうしてい
その肉塊は、一畳ほどの白い部屋に置かれた、小さなガラスケースに入れられていました。 それは痙攣するように常にもぞもぞと微動していましたが、まるで呼吸をするように、というよりも心臓そのものが動くように、無数のチューブから液体が送られるごとに、一定のペースで脈を打っていました。 私はそれを初めて見たときの、言いようのない不快感を鮮明に覚えています。まず初めに想像したのは、小学校の時に理科の資料集で見た、脳みそや心臓などの、私たちの体の部位でした。それが照明に当たり、光沢の感じから
寝癖が同じ場所についていた。 私と同じ場所についていた。それが仲良くなったきっかけだった。 同じですねってはにかんでいた笑顔が素敵だと思ったのが咲き始めた梅の花の鮮やかなピンク色くらい甘い記憶だったのに、今は濃すぎてただ私を胸焼けさせた。 だるい体を起こして携帯を見る。8時。 昨日見たはずのストーリーをわざわざスクロールして見返す。ベージュの服を着た知らない女。傷つくのにどうして何度も見るのか、進化論を説いたダーウィンはここまで解明しておくべきだったとつくづく思う。 ため息を