なにものゼミ報告会 MIRROR MIRROR

この世界は意外とちゃんとできているらしい。桜の花弁は美しく、川の水面の淀みを覆い隠し、そのこげ茶の幹が人々の視線を上へと導き、その薄紅の向こうに空を見せる。桜は空が何色かなんて知らないくせして、いつ何時も、空とマッチするように咲いている。ちゃんと世界はきれいに見えるように作られている。車が暁を裂いていくより早く鳥が囀る、陽が中天で輝き、道には濃い影が落ちる。世界は、美しく作られている。

 アスファルトにつもる薄紅、街路樹の白、落ちている小さな靴下、自転車を押す老夫婦、シュンソクの靴の裏の跡が付いた菓子袋のごみ。これも私にとっては、美しい世界の一部。世界は、美しく見えるようにできている。じゃないと、人間は生きるのをきっとやめてしまうだろうから。

 報告会の日は、風が強かった。冷たく頬を殴るそれに髪が暴れ、久しぶりにはいたヒールの内側をこすり合わせて二人を待っていた。来てほしいような、まだ準備ができていないような、妙な心持ちで、待っていた。そして現れた二人を前に、やっぱり緊張をして、アイスコーヒーが入ったグラスよりも汗をかいた。コーヒーの味なんて、全然しなくて、ストローが入っていた外包をひたすら手でこねくり回しながらいい子ぶっていた。

 私が企画したコーナーは、「依存症に立ち向かう、ぶっちゃけ!10問10答!」というもので、少々バラエティじみた質問を高速でしていき、それぞれの答えを後ほど振り返っていって、内容を深堀していくという趣旨だ。そこでは、田中さん、高知さんのお互いの第一印象や、あなたにとって依存症と、幅の広い質問を投げていった。

 そこで、感じたのは、世界はやっぱり、美しく作られている。ということだった。誰かが言った、「高知東生って、薬で捕まった人だよね?」そうだ。彼は薬物の使用で前科がある。マトリに「ありがとうございます」とこぼして大炎上した。確かに、人にとっては汚点かもしれない。ただ、わたしは知っている。彼がどれだけ美しいか。「ギャンブルにハマって借金を抱えていました。」これも汚点に数えられるのかもしれない。それでも、私は知っている。彼女がどれだけ美しいか。どれだけ下を向いても、どれだけ足元が危うくても、そこから脱するために、手を伸ばせた彼らの弱さを押しのける強さの芽生えは、息吹は、何より美しく温かい。その愚かさを知り尽くし、考えを改め、つまずいても格好悪くてもまた歩きだせる大人がこの世界にいるという事実が、私にとってこの世界を愛おしく思う要因の一つになっている。報告会の時間の全部、私はこの愛おしさに全身の細胞を浸して、やはり世界は美しいのだと、改めて、自分がこの世界に生まれ、生きていることへの答え合わせをしていた。

世界一番美しいものを聞いたら、答えはその眼前にある、そう気づく朝が、すべての人に訪れるように。

文責:和氣


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