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「FX戦士くるみちゃん」を読んでビビる

 「株式投資で信用取引(特に空売り)をしたいなー」と思った。なので、信用取引と同じくレバレッジを効かして(証券会社からお金を借りて)取引することが基本のFXの世界をちょっと覗いてみようと「FX戦士くるみちゃん」の電子書籍を買ってみて、読んでみた。
 そしたら、あまりにもストーリーが悲惨で、ビビっている次第だ。
(注意:本投稿は最新話までのネタバレあり)


 「FX戦士くるみちゃん」は、可愛らしいデザインの女の子が涙を流す絶望顔からスタートする、可愛らしいとは言えない内容のFXのマンガだ。

このお金●●●●絶対に溶かせないんです●●●●●●●●●●●……!

2021,【第1話】FX戦士くるみちゃん,p1,カドコミ,2021/03/24(2024/07/28取得https://comic-walker.com/detail/KC_003160_S/episodes/KC_0031600000100011_E?episodeType=first

 主人公くるみちゃんの母親が家のお金をつぎ込んで、FXで豪ドルを買い、2008年のリーマンショックの豪ドル下落で2000万円ものお金を失って、自殺した。そして、娘のくるみちゃんがFX市場への復讐めいて、FXで2000万円を取り返す、そんな物語だ。

 ちなみに引用した文章のシーンは4話の終わり/5話の始まりのシーンにあたり、くるみちゃんが母親と同じく豪ドルを買って、家のお金までつぎ込んで320万円以上も評価損益が下落し、被害が拡大している真っ最中のシーンである。
 もっとも、最新話第34話②のくるみちゃんは2015年のスイスフランショックで1億2000万円の損失を出して、神に祈るどころではなく、ストレスで呼吸困難になりながら、床をのたうち回っているのだが……。

FXの評価額変動額にビビる

 私が何にビビるのかといえば、ほんの少しの為替変動で評価額が数十万円も動くことである。「ほんの少しの為替変動」というのは0.5円とかそういったレベルの変動だ。

でむにゃん(原作)/炭酸だいすき(作画), 2021,
「FX戦士くるみちゃん 1」Kindle版(MFコミックス フラッパーシリーズ, 位置No.81-82

 くるみちゃんは95.889円の時点では139,500円の評価利益が出ていた。しかし、0.467円下落した95.422円で、評価損失は-94,000円である。
 約0.5円で23万円も評価額が動いている。くるみちゃんが証拠金81万円のところ、レバレッジ59倍という超ハイレバレッジで取引しているから、こんなことになっているのだが、あまりにも動きが大きすぎると言えよう。

 私は投信と株式への投資をやっているが、株価が数円動いた程度では動じない。株式について言えば、持っている株数が100~500程度と少数で、10円動いても1000円~5000円の変動しかしないからだ。
 1円、2円の変動など「ふーん、今日は動かないなぁ」でしかない。というか、1日で10円前後の値動きなら普通だし、株価が高い株などは1日で数十円、数百円動いているのだから、0.5円の変動など「微々たるもの」でしかない。株価が10%アップしたタイミングで「売ろう」と思うレベルである。
 だからこそ、0.5円(95円比なら0.52%にすぎない)で23万円も動くなんて、衝撃的であった。
 FX怖ぇ……。

FXは怖いというより、くるみちゃんが頭おかしいだけ

 ただ、0.5円で23万円も動くのは、くるみちゃんが59倍とかいう超ハイレバレッジで取引していたからである(およそ4780万円のお金が動いている)。レバレッジを効かさなければ、1万通貨なら、0.5円下落した場合、評価額の増減は-4670円程度である。

でむにゃん(原作)/炭酸だいすき(作画), 2021, 「FX戦士くるみちゃん 1」Kindle版(MFコミックス フラッパーシリーズ, 位置No.75

 ここで2014年の円/豪ドルのチャートを見てみよう。

日本円 (JPY) から オーストラリアドル (AUD) の為替レートの推移(2014年),EXCHANGE-TATES.ORG, 2024/07/28取得, https://www.exchange-rates.org/ja/exchange-rate-history/jpy-aud-2014

 豪ドル自体、1年を通してみれば、かなりの変動幅がある。1~2月からでは3円の下落が起こっているし、2~3月では回復しかけて上下して、5月ごろには95円くらいまで上がっている。
 これは日足の1年間チャートであるから、分足などの細かい値動きまでは見ることができないが、短期間で大きく上がったり下がったりする、というのは素人が見ても分かる。これを危険性とみるか、チャンスと見るかは個人によって異なるだろうが、レバレッジ効かせすぎると大損する可能性がかなり高いというのは明白である。
 くるみちゃんが大損こいているシーンは5月過ぎくらいの下落時だが、これをレバレッジを効かさずに1万通貨の場合、95.715円(1万通貨なら約96万円)で買い、93.500円に下がったとしても-2.2万円くらいの損にしかならない。取引金額自体が大きいせいで少額の株式取引より評価額変動が大きいが、「まぁ普通」の範囲だ。ギャンブルとしてみても楽しい範囲だろう。
 FXは怖い、というより、端的に言えば、「59倍とかいう馬鹿みたいな高レバレッジで取引している、くるみちゃんが頭おかしいだけ」である。

でも、やっぱりFXって怖いよね

 ただ、FXで「頭がおかしくなる」のは、強制ロスカットがあるためでもあるのだろう。強制ロスカットは証券会社が顧客の資産保護を目的として強制的に損切りをするシステムのことだ。24時間、為替相場は動いているが、仕事中、寝ている時に為替チャートを見ることはできない。そういった時に大きな為替変動などが発生したとき、損が大きくなりすぎないように証券会社側が強制的に取引を停止させるのだ。
 この強制ロスカットは証券会社の温情、親切なシステムともいえるのだが、FXをしている側としては損失を確定させてしまう行為。「お前は負けなのだ!」と宣告されて退場させられてしまうわけで、損切りができない人間にとって、これは辛い(損切りできない人間がFXするな、って話なのだが)。
 強制ロスカットさせられないためには証拠金を増やして強制ロスカットのラインを下げるしかない。ここで増資して損失を増やしてしまう人が多いのではないか。さらにナンピン買いして、傷口をさらに広げてしまうとか。
 くるみちゃんの場合、お父さんがコツコツ貯めてきたタンス預金300万円を強制ロスカットを受けないために、FXに注ぎ込んでしまうのだが……。
 やっぱ、FX怖いよ。

でむにゃん(原作)/炭酸だいすき(作画), 2021, 「FX戦士くるみちゃん 1」Kindle版(MFコミックス フラッパーシリーズ, 位置No.111-112

お遊びとして「インベスターZ」と比較してみる

 最近、Xで話題になった投資マンガ作品といえば、三田紀房の「インベスターZ」ではないだろうか? Xユーザーは次の画像に見覚えがあるだろう。

三田紀房, 2013, 「インベスターZ(2)」Kindlel版(講談社),位置No.49

 このシーンは、損切りの大切さを説明する前振りのシーンである。Xではケチョンケチョンに非難されていた印象のあるシーンだが、投資における損切りの重要性を説く前振りのシーンである。
「インベスターZ」はメインは株式取引の話で、FXをメインとした「FX戦士くるみちゃん」とは毛色が違うのだが、投資という括りでは同じなので、比べてみても良いだろう。思いつきとお遊びなので、真面目には書かない。これは適当に言っているだけ、と思ってほしい。
 少し「インベスターZ」から株式取引で重要そうっぽい台詞や内容を書き出してみる。

  1. 投資はギャンブル/ゲーム(1巻 位置No.103-p106)

  2. こだわりを持てば投資は必ず失敗する(2巻 位置No.43)

  3. 投資に一番必要なのは未来を予測する力 (2巻 位置No.133)

  4. 徹底した自己否定(8巻 位置No.21)

 これを「FX戦士くるみちゃん」のくるみちゃんができているか、見てみよう。

「1.投資はギャンブル/ゲーム(1巻 位置No.103-p106)」
 くるみちゃんは自身のFX戦略をハイリスクと承知はしているが、高いレバレッジを掛けていても、その異常な高さ(ギャンブル性の高まり)を認識できていない。1巻の豪ドルでの絶望の原因はそれであるし、6巻のスイスフランについては「1ユーロ1.2フランが割れたら(スイス国立銀行が市場介入を停止したら)どうすんの?」という可能性を全く考慮していない。
「2.こだわりを持てば投資は必ず失敗する(2巻 位置No.43)」
 くるみちゃんはこだわり(執着)しか持っていない。復讐自体が「FX●●で2000万円を取り返す」というものであるし、短期決戦で2000万円を取り返す、と決めている。FXへの復讐だから仕方ないのだが、投資手法としてFXに限定するのはナンセンスだろう。しかも「FXは長期的に勝ち続けることは難しい… 長くFXを続けるほどイレギュラーな事態に遭遇するリスクが高まるからだ…!」と言っているが、それでハイレバレッジ取引で焼かれてはどうしようもない。
「3.投資に一番必要なのは未来を予測する力 (2巻 位置No.133)」
 
これは「社会の人々を幸福にするために将来どういう問題を解決すれば良いか コレを想像して自分で答えを導き出すこと そのための努力を続けている企業を見つけて投資せよ」という台詞に繋がるので、投資全般というより、株式取引を前提とした話である。なので、瞬時の上下を見て取引するFXには適用できない話だ。
 ただ、くるみちゃんはFX以外に力や意識を注いでいるものがない。自殺したくるみちゃんの母は幸せな家庭生活を思い描いた。萌智子は会社を作って色々してみようと考えている(やす子の影響かも)、やす子はFXをやめて、マンガに投資してコミティアで成果を手に入れた、芽吹は……まぁ、考えないことにしよう。
 くるみちゃんはFX以外はないのだ。マルクスが言うように資本蓄積の先に終わりはない。
「4.徹底した自己否定(8巻 位置No.21)」
 これに関してはくるみちゃんはひどい。一度やめようとしたFXは「大きな含み損を抱えても最終的に勝ってきた」ので、FXをやめることはできなかったし、高いレバレッジ取引もタガが外れたように続けてきた。
 途中(6巻)、米ドル対円で2回、損失を出す(負ける)も「次に大きく勝てば良かろうなのだぁああああ」とやり方を反省することはなかった。

 適当に比べてみたが、まぁ、くるみちゃんは酷い。堕ち続ける造形の主人公、作中では「強欲な雌豚」呼ばわりされていたりするので、作劇上、仕方ないのだろう。

最後に 

「くるみちゃんが頭おかしい」とか「やっぱFX怖い」とか書いたが、やはり投資そのものはリスク(不確実性)があるものだ。今ある資産が崩れる、溶けるのは怖い。
 自分自身、「FX戦士くるみちゃん」のくるみちゃんを、もっと言えば芽吹を笑えないのが実情だ。「FX戦士くるみちゃん」を読んでいて、「自分もあの株をナンピン買いして、なんとか含み益が出たけれど、ヤバかったよなぁ」、「今でも正直、『この株はここらが底だろう(適当)から、買っておくか』って、何も考えずに買ってるよなぁ、ちゃんと5%損切りはできてるけど」など思って、顔が青くなるシーンがいくつもあった。
 凡人、常人の投資は「もしそうなったら、どうする?」という意識を、最大の最悪の結果を想像しながら、やるしかない。


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