ひっぱって ひっぱって 細いぶらつき 見せびらかして ちぢめて ちぢめて シワの隙間に しまいこむ もとあるものを もとあるままに 息はすわない 息ははかない だから空気は美しい
森では空に向かって葉を立てるモノと地に肩を落とすモノが隣り合う。 森では青が緑に寄りかかる。 森では緑が青を受け止める。 森では発色と輪郭が似たもの同士で群れを作る。 山ではさっきまでのはなくなって平らかに。 でも力尽きた彼だけが山にならないで、目を奪う。
家の裏手の茫々とした公園を抜けるとき、東の紫の空の天井近くに五千光年の星が落ちていた。月が好きな自分は、同じ天体だというのにただ目立つからかそれだけに目を奪われて、距離が離れて現代の濁りに霞む星々を見ることをあまりしない。だけど今日はなんだかすうと吸い込まれるみたいに、わざわざ首を持ち上げて、歩き、追い越すと振り返り、後ずさりながら、夜露にしなしなとした名前の知らない草々を踏み、見ていた。 こんなにも星は綺麗なものだったけ、などと自分の心の方ではなくこの地の空気に原因を見
薄い空の中を走るバスの車窓から、黒い川と灰白い町々を従える遠くの山が白い息を吐いている。ああ、秋がついに来た。暑さに滅法弱い私にはこの秋の到来が毎夏、待ち遠しい。車窓から目を離しふと車内を見渡すと、早朝のバスの中には半袖を着たのは自分しかいなくて、深い色を羽織った人や長袖のシャツを着た人ばかりだったのに気が付いた。気温と馴れない労働に忙殺されて、ゆったりと眺めることもできないでいたので、もしかするととうに秋は来ていたのかもしれないかった。私の身体にもついに秋が来たらしかった
俺は月を食った。昨日、排泄物から恐ろしいほどにつるんとした綺麗なまん丸が出てきた。そしたら思い出したんだ。おとといの、この時期の、ほんの数分しかない紫の夕暮れに流れて近づいてくる月を。俺の腹の中から月が出てきたってことはつまり俺は月を食ったってことだろう。 おとといの月は巨大でいつもの倍以上の引力が働いていた。月が地面を引っ張ってビルたちに貫かれてもおかしくなかった。しかし、昨日の月はどうだ。おおよそ満月。ただそれだけの地球と変わらぬ星でしかなかった。それになんだか嫌味な
シリコン状の心臓に 一粒月を差し出して されど夜は明るくて 指をさされることもなく 丸 三角 黒丸の 泥棒にすらなれなくて 人知れずに破裂して 血を見てうさぎは 杵を打つ
私はいつになったら色になれるんだろう。いつになったら名前のない色に。木はふつう緑だし、サクラはピンク。海は青で夕日はオレンジ。でもこれは本当の色じゃないと思うの。だってさ、まさかこれらの美しいものが一色だなんて、そんなわけないでしょう。 私のことを、落ち着いているよね。よく言うよ。誰がそんなこと言われてうれしの。どうして何か一つにしなくちゃいけないの。なんだか最近はいろいろなカテゴライズが流行ってる。わざわざそれらを自分からもらいに行って、嬉しそうにペラペラな言葉一つに酔
グルグルグルル 溢れてる グルグルグルル 洗われて あのうさぎは何代目 混ざれないのは私だけ シズシズシズル 揺らいでる シズシズシズル 散っていく あの葉っぱは何回目 分解されてまた飲んで どこに行けば触れるの 地球のどこにも私は居ない
日光を避けたじめじめとした部屋。部屋に似つかない巨大な本棚からも本があふれ出し、床一面に何本もの不安定な塔ができている。埃がしみ込んだ床にはよく見ると、体毛なのか髪の毛なのかわからないが、毛が落ちている。一本見つけると、どうしてかすぐに何本も見つかり始める。本当にいつからあるモノなんだろう。男は横たわりながら目の前の毛を一本拾い上げて、適当に投げた。ふわりと浮かんだそれはすぐにもう見えなくなった。男はだらりと何も映らない目を閉じてみた。 男の動かなくなった古びた時計の様な
ツキが消えた いつの間に 未だまとわる夜の道 いっそ 舌だし指さして 貫かれれば救われる 濁流向かって 手を伸ばし 死をもあきらむ 十六のツキ 流れるまんま 流される つもりでいたのに 水は枯れ 誰かが走り出したなら 水の死体も排泄物も 誰一人として見えていない どうしてそうも 無責任 どうしてそうも 過肯定 人畜無害 理解あるヒト ただの入れ物
時折、前触れもなく、得体の知れないゴム膜状の嫌悪が私の脳裏にちらつくのです。それは一瞬間の映像で投射されるらしく、そしてその存在を私自身が認識したときには、匂いと、ときに私の奇声だけを残して、萎んで萎んで萎んで、ついには無になってしまうのです。 私は人間の忘れるという機能のすばらしさを度々感心するのです。あの恥辱的であろう感覚を身に刻まれたまま過ごすことは随分と骨の要ることのように思うのです。しかし、よくよく考えてみればこの忘れるという機能がそもそものあの不愉快な感覚の正
私のパイロットがどこかへいった 水でものみに抜け出した 胸元の継ぎ目から ぽこりと まあいいか 居ることすらも 忘れてた 居ないことに気が付いた そっちの方が正しいかもね
蒸された歩道を肩身狭く歩く。到底黒とは言えない夜。自然界には本当の黒なんてものはないんだろうな。白も一緒。黒と白があるのは私たちだけ。そう思いながら、脳天の濃紺から灰紫へとグラデーションしていく球に囲まれて。破裂しそうに膨れた満月の光が鼠色の雲に流れてる。きっとあれが黒も白も創らないようにしているんだろうな。少し見上げながら歩いていく。視界では、整備された都市に相応しい張り巡らされた電線が揺れる。その電線の上に爆弾を置いてみる。ソ、ファ、ミ、レ、ド、シ、ラ。ソ、ファ、ミ、レ
蓄えて排泄して腐っていく 飛び越えて このまま 飛び越えて 防衛本能で眠って その隙間に殴られて 融けだして このまま 忘れられて 向こうにいる私にも よろしく挨拶交わせれば 少しは柳と仲間にも 身体で知ることできるでしょ 暑さが叩いて引きはがし 忘れたことも忘れてる そうして空を飛ぶのも 忘れてる
代える代える 人形も 帰る帰る ちぎれたら 変える変える 型抜いて 買える買える 意味もなく 替える替える 下をみて 返る返る 引き殺されて 還る還る 小さくなって 孵る孵る 忘れてよ
ぶぉーん、ぶぉーん、ぶぉーん。振動が頭の中に響いている。目の前で人間大のメトロノームが揺れている。ぶぉーん。ここから発せられていることは確かだか、耳がそれをとらえているわけではなさそうだ。ぶぉーん。あたりを見渡すと、空間はあらゆる角度と長さの直線的な面が交じり合って構成されていて、無数の人間大のメトロノームと無数の私が各面の重力に沿って直立していた。ぶぉーん、ぶぉーん、ぶぉーん。無数の私が直立している。ぶぉーん、ぶぉーん。一定のリズムを崩さないで私だけに振動する。無数の針が