小説「目玉焼き教って?」 #1
連絡いただいた時も言いましたけど、本当に僕なんかでいいんですか?
すごい平均的な人間だと思うんですけど。
まぁ、そこが逆にいいのかもしれませんね。
あ、まずは自己紹介ですね。佐藤って言います。二十九歳です。佐藤ネスタがフルネームです。仕事は公務員ですね。住民票の発行なんかを主にやってます。
この時代ですから、ほとんど機械が動いてるのを眺めてるだけですけど。でもこの時代、「聖職」の皆さんを除いたらほとんどそうかもしれないですよね。
僕の入信のきっかけですか?もうこれもありきたりで申し訳ないんですが、両親がそうだったから、というのがその理由です。生まれた時から土曜の朝は教会に通っていて、毎日朝は聖餐を食べて、十八歳になった時に正式に入信しました。
両親はどうだったか、ですか?両親もこれまた両親が信者だったから、というのが入信のきっかけだったみたいです。「うちの歴史のほとんどは、目玉焼き教とあるんだ」が祖父の口癖でした。実際、そうなんだと思います。僕の祖父も、その祖父も、そのまた祖父も、目玉焼き教。教会の歴史が二千語百年でしたっけ?それだったら、二千四百年くらいは、うちの歴史も目玉焼き教ですね(笑)
ああ、そうですよね、目玉焼き教の信者である以上、宗派を語るのは避けられないですね。すみません、話が余計な方向に行って。
僕は「一つ目玉醤油固め半熟」派です。ニホンで一番人口の多い宗派だって聞いてます。確かに周りにも同じ人は多いです。教会に通ってるせいでそう思うだけかもしれませんけどね。
でも毎日の朝、聖餐として食べても、やっぱり美味しいなと思います。ご飯とも、パンとも合う。ああ、厳格主義の人は、ご飯としか食べることを認めないそうですが、うちは割とそこらへんはアバウトなんです。
アバウトなのは、やっぱり信者数が一番多い宗派だからですかね?割と緩い部分もあるのが「一つ目玉醤油固め半熟」派の特徴かもしれません。
それゆえに長く愛されて、信仰されている宗派なんじゃないかと僕は思いますけど。厳格な、例えば「一つ目玉塩コショウほぼほぼ半熟」派の人と会ったことがありますが、塩の量から白身と黄身の食べる順序まで決まっていて、やりづらいなー、と思ったことがあります。
ほら、二ホンは昔からアバウトな所があるっていうじゃないですか。「喪失時代」の前の二ホンは色んな宗教のいいとこどりをした、イベント大国だったって、歴史の教科書で読んだことあります。
目玉焼き教で困ったことですか?
うーん、そうですね、やっぱり目玉焼きのことで困ることはありましたね。
僕の妻、今は同じ宗派になりましたけど、最初は「二つ目玉マヨネーズ超固め」だったんですよ。
まぁ国民のほとんどがそうですから、お互いに目玉焼き教ってことは知っていたんですけど。初めて一緒に朝を迎えて、聖餐をさぁ作ろうってなった時に、僕の隣で卵を二つ手に取った時は焦りましたね。アバウトな僕でも、やっぱり「二つ目玉」はびっくりしました。
「完璧な神である創造神が、目玉を二つも必要とするはずがない」
というのが「一つ目玉」派全体の絶対的な掟ですからね。二つ目玉だと、それは「不完全なもの」なんです。だから、我々は不完全で、それゆえに神様を崇める…っていうのが基本ルールですからね。
でも、彼女に言わせれば「神は自分の姿に似せて人類を作ったっていうじゃない。だったら、目玉は二つが普通でしょ?」って言うんですよ。
彼女の家の方はガチガチな「二つ目玉」派だったので、結婚の時はそりゃ大変でした。どっちの宗派の結婚式にするとかそれ以前に、お父さんが全然認めてくれなくて。最終的には僕の地区の大教会の人に仲介までお願いしましたからね。
あ、そうです。佐藤さんです。佐藤さんも今度取材されるんですか?
まぁ、結局今は、少しぎくしゃくはしてますけど、お互いにうまくやろうとしているところはあります。妻の両親がうちに来るときは卵を多めにしますし、逆に僕が止まりに行くときは一つ目用のフライパンを出してくれたりして。
…なんか困りごとも平均的ですよね。大丈夫ですかね?インタビューの一人目が僕なんかで。これでうまくいかなかったら佐藤さんからも「大目玉」くらっちゃいますよ。なんてね(笑)
プロフィール
佐藤ネスタ
2685年生まれ。二ホンの首都トキョ在住。公務員。
妻と二人暮らし。
地区の教会に毎週通う敬虔な目玉焼き教徒。
宗派は「一つ目玉醤油固め半熟」派。
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