缶蹴りとロバのパン屋と
私が小学生の頃、過酷な缶蹴りが一時的に私たちの間で流行ったことがあります。
学校の近くの、林に囲まれた小さな公園の真ん中に、空き缶を1本立てます。鬼を一人じゃんけん決めて、他のみんなは鬼が10かぞえる間に公園の遊具の影やまわりの林の木の影などに隠れます。
鬼は缶を守りながら、隠れた人たちを探しだし、誰かを見つけると急いで缶に戻って、「xx君みっけ」と言って缶を踏めば、見つかった人は鬼の人質となり、缶のそばに集められます。隠れている人を全員見つければ鬼の勝ちです。
隠れている人たちは、鬼に見つからないようにうまく缶に近づいて、缶を蹴れれば、人質を全員解放することが出来ます。鬼に見つかっても、鬼よりも早く缶に到達して缶を蹴とばせばOKです。
鬼は缶を蹴られてしまうと、缶を拾いに行って、缶をもとの場所に戻し、また10数えて人を探し、見つけては缶を踏んで人質を集めなおさなければなりません。
どう考えても鬼に不利なゲームのような気がします。想像通り、一度鬼になるとその日はずっと鬼のままで終わることがほとんどでした。そのためだれも鬼になりたがらず、じゃんけんでその日の運命が決まってしまうようなところがありました。
しかし、缶蹴りで遊んでいたのは今のように木枯らしの吹く季節です。実は隠れていたり人質になったりと、ほとんど動けない鬼以外の人たちにとっても、寒くてつらい遊びでした。
小さな公園と言っても、公園の真ん中に置かれた缶の周りは身を隠す場所も無く、鬼が相当缶から離れてくれないと、とても缶まで鬼より早くたどり着くことは出来ず、隠れている方もなかなか缶を蹴るチャンスが無いのです。
結局鬼は一日鬼しかできず、隠れている人は体の芯まで冷え切って、鬼が辛かったのか、隠れている方が辛かったのか、いずれにしろ、この遊びはあまり長続きせずにすたれてしまいました。
そのころ、夕方になると、どこからともなく、「パン売りのロバさん」のメロディーとともに、パン屋さんが (ロバではなく) 車でパンを売りに来ていました。この音楽を聴くと、夕方ひとり寂しく林の中で寒さに震えながら隠れていた、この辛い缶蹴り遊びを思い出します。
「パン売りのロバさん」の歌は、私の親もこのころでも懐かしく感じていたようですから、相当古い歌ですね。ウィキペディアによると、1955年キングレコードから発売されたそうです。