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夜のコア観察
石油会社で油・ガス田の貯留層の地質を直接手に取って調べようと思ったら、石油の井戸を掘削するときに「コア」と呼ばれる円柱状の岩石サンプルを地下から採ってくるのがほとんど唯一の方法です。
カッティングスと呼ばれる岩石の堀くずも重要な情報源ではありますが、細かく砕けていますし、カッティングスが泥水の力で地表まで上がってくる間に、違う深度のサンプルと混ざってしまい、地表で採集したサンプルが正確にはどこの深度のものかわからないという欠点があります。
そんな重要な地質サンプルの「コア」ですが、私は石油会社に入社してもうすぐ4年目になろうかという頃、UAEに長期の研修に行って、アブダビの隣にある「サディヤット島」という島にあった石油会社のラボに通って、コア観察を2か月ほど集中して行ったことがあります。
今でこそサディヤット島はアブダビ島と橋でつながって、高級ホテルや、居住施設、大学、美術館など様々な施設が出来ていますが、当時は荒涼とした土地に石油掘削の資材基地とラボがある程度の、寂しい島でした。
アブダビからは小型のエンジン付ボートに乗って10分ぐらいでした。島の資材基地は24時間稼働しているため、ボートも24時間ほぼ15分間隔ぐらいで運行されていました。
コアを観察していた約2か月間、ラボのコア観察室ではほとんど一人きりで、時々ラックに保管されているコア箱を上げ下ろししてもらう程度で、ほとんど人と会話をすることもなく、黙々とコアを肉眼とルーペと実体顕微鏡で観察しながら、記載を行っていました。
コア記載の調子が出てくると、時間が過ぎるのも忘れ、深夜近くまでコア記載をしていることもありました。しんと静まり返った夜のラボのコア観察室は、なんだかピンと張りつめたような感じがしました。
記載をしながら地質の枠組みが頭の中で出来上がってくると、なんだかすごく達成感を感じます。反対に考えがまとまらず、地質の解釈が混迷を深めてくると、日本から離れたこんなところで自分はいったい何をしているのだろう?自分は石油会社で何かをなしとげられるのだろうか?などと疑問もわいてきて、打ちひしがれた気持ちで船に乗って帰宅することもありました。
そんな研修も、石油会社での地質技術者としての業務には大変役立つものであったと、あとになってすごく実感したのも事実です。
それにしても、当時は働き方の管理もセキュリティも甘かったのか、私一人でラボに残っていても誰も何も文句を言わなかったところが、今とはずいぶん違うなと思います。