読める気がしない世界で一番長い地名
入社して数年目に地震探査処理の研修でイギリスに3か月ほど滞在したことがあります。研修はロンドンの北、列車で一時間弱のベッドフォードという町にホームステイしていました。
研修期間中の休日はたいていロンドンに出て、映画館、美術館、博物館、本屋さん、そしてパブ巡りなどをして過ごしていたのですが、ある時、同じ研修を受けている研修生たちと、ちょっと足をのばしてウェールズまで地質巡検に行こうという話になりました。
私はロンドン自然史博物館や本屋などで地質図や地質案内書などを手に入れて、地質については少し予習をしていたのですが、ホームステイ先のおばさんに2泊3日でウェールズに行ってくるというと、「ウェールズのアングルシー島 (Anglesey) には面白い名前の村があるからぜひ寄ってごらん」と言われました。なんていう名前の村か聞くと、「サンヴァイル…なんとか、とにかく行けばわかるから」と適当にごまかされてしまいました。
アングルシー島はウェールズの北西岸に接する島で、グレートブリテン島の本土とは橋でつながっています。アングルシー島では先カンブリア時代の非常に古い地層が見られます。
橋を渡ってアングルシー島に入ってすぐに見つけました、やたらに長い看板を。
“Llanfairpwllgwyngyllgogerychwyrndrobwllllantysiliogogogoch”
アルファベットで58字、いきなりLが二つ重なって出てきます。これだけを見ると、どこでどう区切ってどう読めばよいのか全くわかりませんが、ウィキペディアによるとカタカナ表記で「サンヴァイルプゥスグゥインギスゴゲルアフゥイルンドロブゥスサンタシリョゴゴゴーッホ」あるいは「スランヴァイルプールグウィンギルゴゲリッヒルンドロブールスランティシリオゴゴゴッホ」などとあらわされるとのことです。イギリスのみならず世界で最も長い地名の一つだそうです。
ウェールズ語の地名で、いろいろな訳があるようですが、ウィキペディアによると「赤い洞窟の聖ティシリオ教会のそばの激しい渦巻きの近くの白いハシバミの森の泉のほとりにある聖マリア教会」だそうです。
確かに、この時お土産物屋さんで買った、この村の名前の呼び方を子供に教えるための音楽テープを聞くと、ウィキペディアのカタカナ表記のように聞こえなくもありませんが、とても簡単にまねできるものではありません。ホームステイ先のおばさんはこの名前のほんの最初の部分を言っていたのですね。
この時買った音楽テープは無くしてしまったのですが、収録されていた歌をYouTubeで見つけました。
この音楽テープをホームステイ先のおばさんに聞かせてあげると、「そうそう、この地名のことだよ!」と大変喜んでくれました。ウェールズ語はいわゆる英語とはまったく違う言語のようで、おばさんも文字を見ても発音すらできないと言っていました。私にはちょっとドイツ語の発音にも似て聞こえました。
ウェールズは起伏に富んだ地形で、南北にカンブリア山脈が走っています。その名前はウェールズの古名で、地質時代の古生代カンブリア紀の名前の由来となっています。さらに、この地域の部族名からオルドビス紀とシルル紀も命名されたそうです。どれも地質学ではなじみのある有名な地質時代の名前ですね。
アングルシー島を含めてウェールズは大変美しいところでした。