恐る恐る各駅停車で遠回り
兄の後ろをくっついてばかりいた小学生のころ。しかし中学、高校と進むにつれて一人で遠出もするようになりました。
はじめて東北を各駅停車で回ったのは、今思うと「旅」とも「冒険」とも呼べない代物でしたが、なんとも思い出深いものでした。おそるおそる足を延ばしてみたという感じです。
長野県の野尻湖で行われた発掘調査に初めて一人で参加した後、各駅停車を乗り継いで遠回りして帰ってみようと考えたのです。
黒姫駅から信越本線で直江津、新潟方面に向かい、新津駅で磐越西線に乗り換えて会津若松を通って郡山駅にでて、東北本線で大宮経由で実家に帰る計画でした。どこにも立ち寄ることなく、ただただ各駅停車に乗って、見たことのない東北地方を車窓から眺めてみたい、各駅停車の旅をのんびり楽しみたいと思ったのです。
時刻表を調べまくって作った乗り継ぎの予定は完璧で、埼玉の実家に着くのは深夜近くになるとしても最終には間に合う予定でした。
途中、雪のちらつく会津若松付近で乗り込んできた高校生ぐらいの人たちの会話がほとんど理解できなくて、なんだかちょっと寂しくもなりましたが、会津若松付近までは順調でした。
しかしその後、磐越西線が遅れ、車内アナウンスを聞いても乗る予定だった東北本線の各駅停車に接続できないことが明らかになり、郡山に着く前から非常に焦りはじめました。まだ、急きょ自分で宿をとって泊まるとか、私にとっては敷居が高すぎました。
なんとか今日中に家に帰る方法を探さねばと手にした時刻表を調べまくり、郡山から特急電車の「はつかり」に乗り、途中で追い抜いた各駅停車に乗り換えれば予定通りその日のうちに家に帰れることがわかり、当初の予定を変更して一部の区間だけ特急を使うことにしたのです。
当時、東北本線の特急「はつかり」は、一部の編成だけかもしれませんが、国鉄の583系という車体に深いブルーのラインが入った寝台車にもなる特急型車両が使われていました。
私はこの車両が大好きで、鉄道雑誌の写真を眺めてはいつか乗ってみたいなと憧れていました。
そのときはその日のうちになんとか家に帰らねばと、列車の乗り継ぎのことで頭がいっぱいで、583系の特急電車が来るとは思ってもいなかったので、郡山駅に入線してきた583系の車両を見て、私はせっかく検討を重ねた「なるべく各駅停車を使う」という旅の目的をたちまち放棄し、お財布の中身と相談して、583系特急「はつかり」の自由席で、大宮まで行くことにしたのでした。
後にも先にも583系の電車に乗ったのはこの時だけです。予定は成し遂げられませんでしたが、それ以上になんだか得した気分を味わいました。
それでも、その後もなにかチャンスを見つけてはおそるおそる足を延ばしながら各駅停車の旅の範囲をひろげていきました。学生時代の思い出です。