#029 インタビュー:「嫌い」を語るために ーTHE 安藤 × クワエコウスケ
こんにちは!
『Tokyo Scope 2023』統括の澤井です
今回は7月25日(火)に実施した
サブスクの普及による音楽業界への影響についての
インタビュー記事を公開します📕
ご協力いただいたのは、このお二人です!
THE 安藤 さん = 左
移動するライブハウス(概念)店長
2020年、10年間店長を務めたライブハウス「北浦和KYARA」閉店を機に、ライブハウスを再建することを目指して、イベンターやYouTuberとして精力的に活動中クワエコウスケ さん = 右
埼玉発スリーピースバンド・マリースメックでベースと作編曲を担当
ジャンルにとらわれない幅広い楽曲が特徴
2024年1月20日には下北沢THREEで単独公演を開催予定
サブスクの普及が音楽をつくり、広める人たちにとって
どのような影響があったのか…?
本紙のテーマ〈ニュー・ノーマル〉にも繋がる貴重なお話が聞けました
インタビュー開始
本日はよろしくお願いします!
お二人は普段どのような活動をしていますか?
(安藤)
もともとライブハウス「北浦和KYARA」店長を10年、バンドとしては20年続けていて、いまは東京と埼玉周辺の10代から20代中盤の若いバンド向けのイベントを打つ仕事をしています
KYARA閉店をきっかけに、もう一度、地元埼玉でライブハウスを再建することを目指しながら、イベンターやYouTube活動などに取り組んでいます
(クワエ)
僕は2021年4月に埼玉発の3ピースバンド「マリースメック」を結成し、都内を中心に活動しています。バンドではベースとコンポーザーを担当しています
それこそ高校時代にKYARAを中心にコピーバンドを組んでいた友だち同士で始めた感じですね
ありがとうございます
ちなみに、お二人が
音楽を始めたきっかけは何ですか?
(安藤)
モテたい。とにかくモテたい、目立ちたいみたいな承認欲求から始まりました(笑)
でも次第に、当時のライブハウス環境があまり良くないこととかに気付き始めて、「バンドマンにとって良い環境って何かな」と考えるようになって
そのうち「店長やってみない?」と声をかけてもらって、「俺ならもっと良い環境がつくれる」と引き受けました
10年続けるなかで指針も生まれてきて、ライブハウスを持たないなりにバンドマンと向き合って、特にモチベーションを向上させていくところを意識しながら活動しています
(クワエ)
僕は自分の曲をつくってみたかったのと、高校時代にベースしかやっていなかったので、それくらいしかやりたいことがなかったっていう感じですね
最初の最初は中学の頃、澤井くんにベースやってみてよって誘われたところから始まっています
そうだね
中高大と一緒にバンドやっていた時期もあるね
音楽を生業に?
安藤さんは、音楽で食っていこうというのはいつ決めたんですか?
(安藤)
いや、音楽で食っていこうという気持ちはあまりなくて(笑)
稼ぎは音楽以外が多くても別に良いし、お金にならなくてもバンドに帯同したりすることもあります。かけがえのない経験への投資としてね
あとはいまさら辞められないっていうのも(笑) 40までやっちゃうとね
本題:サブスクが普及した音楽業界について
さて本題に入ります。
ここ数年で一気に当たり前になった
サブスクについて
お二人はどのように考えていますか?
(安藤)
全体的にはサブスクめっちゃ良いなと思っています。
その反面、アルバムを通したストーリーを聴くっていう体験は少なくなっていて。「そのバンドの1曲だけを聴く」みたいな聴き方はリスナーにとってはラクだけど、プレイヤーにとって寂しい面もあるんじゃないかなと心配してしまいます
特につくっている側としては、大好きなバンドのクソ曲を聴いてクソだなと感じる経験も、音楽的な教養としてすごく大切じゃないかなと。嫌いなものを吸収したりする経験。嫌いなものを通して、自分の「好き」を分かっていくことってあると思うんですよ
なるほど。
一昔前のMDも
「そのバンドの1曲だけを聴く」という面は
サブスクと似ているように感じますが…
(安藤)
そうだね… でもMD世代の僕からすると、1週間1枚100円みたいなCDを片っ端からTSUTAYAでレンタルして、バァーっと聴いて、どの曲をMDに落とし込むかを考える、みたいな。聴くまで正体が分からないし、全曲一通り聴いて考えるって感じなのは、いまのサブスクの再生数ランキングとは違うと思う
よほど良いA面曲が並んでいないと、ランク外のアルバム曲まで辿ってくれないのは、聴かれ方が変わったなという感じがします
たしかに。クワエさんはライブをする上で
サブスクの影響を感じることはありますか?
(クワエ)
まず、初見の人はCDを持っていないので、ほぼ100%のお客さんがサブスクで音源を聴いてからライブハウスに来てくれています。だからサブスクは大賛成です。月数百円で無限の音楽を聴けるので、リスナーにはデメリットがないなと感じます
また、まだ僕らみたいに全然売れていないバンドとしても、リスナーの間口が広がるきっかけをつくってくれているなと思います
たしかに「1曲だけ聴く」というリスナーは増えていますが、僕はそれでも良いし、本当に好きになったら通して聴いてくれるはずだという信頼もあります
(安藤)
たしかにインディーズバンドにとって、本当に間口が広がったと思う
大手のエンタメ企業が強すぎて、中小規模からリスナーに届けることが難しかったから…
(クワエ)
そもそも安藤さんもサブスクって結構使うんですか?
(安藤)
使うよ! 自分が聴きたい曲もそうだし、ライブで知り合ったバンドを調べるのに使ったりとか。知らないバンドを検索するためのツールって部分が大きいかな
この時代に、CDやレコードを所有すること
なるほど。
では、サブスクが普及するなか、
2023年以降もCDやレコードなどを
所有することについて
どのように考えますか?
(クワエ)
CDはもはやコレクターズアイテムだと感じています。好きだと買いたくなるし、ライブのお土産のようなかたちになっていくのかなと。無くても良いけど、あるとテンションが上がるような…
(安藤)
その考え方、いいね
実際、バンドマンにとってライブに来てもらうだけではそこまで収益に繋がらなくて。こうした物販がキャッシュポイントになっていくので、CDがお土産みたいになっていくと良いなと思います
CDやレコードが
音楽を聴くためのメディアから、
もっと色々な意味が籠ったグッズになっていく
ということですね
(安藤)
そんな感じかな。それこそ20年くらい前はHi-STANDARDとかの影響でバンドブームがあって、売れてないバンドでもそこそこ食えていたんだけどね
比べると、いまはバンドをやりたい人も増えたように思います。レコーディングしやすくなったり、弾いてみた動画から楽器始めたり、環境が整ったというか
(クワエ)
それこそ、バンド組まなくても良いですもんね。ひとりでも活動できるから「メンバーを集めてライブハウスに出よう!」が当たり前じゃなくなりましたね
(安藤)
たしかに。その点「誰でもクリエイターになれる」というのが〈ニュー・ノーマル〉かもね。音楽に限らず、動画編集もアプリ一つで出来るようになったよね。大学の頃はAdobe Premiereが買い切りで10万とかする時代だったけど、いまはサブスクで手が出せるようになったし
たしかに。
そしてつくるだけでなく、
YouTubeやTikTokなどを通して
広める機会も増えましたよね
(クワエ)
そうですね。大きなメディアを通さずとも誰しも発信できます。その反面、情報過多になっていて、映画や音楽が片手間になっているような印象を受けます
(安藤)
インプットする側も、作品の価値が相対的に下がっている感じはするよね
(クワエ)
音楽を芸術的な表現とするか、商業的な道具とするのかで分かれているようにも感じます。後者が強ければ、誰のせいでもなくエンタメ全般の価値が下がってしまっているというか。取捨選択する余裕がなくなっている感覚があります
先ほどの安藤さんのお話にあった
好きなものだけだと、
嫌いなものを語れなくなる
という話にも関連しそうですね
(安藤)
排除できちゃうからね。感性の基準みたいなものが上手くつくれれば良いんだけどね。もちろんリスナーには肩の力を抜いて聴いてほしいから、難しいところです
(クワエ)
時代の流れとして仕方がない部分も大きいですかね…
(安藤)
でもね! やっぱリスナーに価値観を押し付ける役も必要なんじゃないかなとも思うんだ。「ただ聴いてんじゃねえよ!」って。それに「肩の力を抜きましょうよ」って反発してくる人にも「馬鹿野郎ッ!」って返しちゃうような
(クワエ)
たしかに(笑) それこそ「好き」「嫌い」が語れない、自分でも分かっていない人が増えているとも聞いたことがあります
サブスクではランキングがすでに付いていて、
再生数も表示されていて、
ゼロから何かを評価する機会が減っています。
「好き」はレコメンドしてくれるけど
「嫌い」が分からなくなるというのが
〈ニュー・ノーマル〉の一面なのかもしれないですね
(安藤)
うん、本当にそんな感じがします
インタビューを終えて…
インタビューは以上です
最後に一言ずつお願いします!
(安藤)
移動するライブハウスを立ち上げて、再建に向けてイベントやYouTube活動に取り組んでいます。年齢はもう40だけど、この音楽シーンに死ぬまでいるので、若い世代のバンドにちゃんとした環境を与えられるように今後も挑戦していきます
ぜひ注目してください!
(クワエ)
今日のインタビューではネガティブな側面も上がったけど、常に新しい流れを追いかけながら、流行に追いつけるバンドでいたいなと感じます
サブスクランキングの一番上をぜひチェックしてみてください!(笑)
ありがとうございました!!
インタビュアーの私は、実はクワエくんと中学の同級生で、
高校時代もクワエくんとともにバンドを組み
北浦和KYARAにて安藤さんにもお世話になっていました
2020年のはじめにKYARAが閉店してしまってから、
ずっと精力的に活動する安藤さんの姿を見てきて
何か力になれることはないかなと思い続けてきたので、
このような形でインタビューが実現できて嬉しい限りです
さて、今年度の『Tokyo Scope 2023(仮)』は
2023年10月中旬出版予定です!
今回のインタビューに関する紙面も掲載予定です
どのような一冊になるのか…! お楽しみに!
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記・澤井雅治(南後ゼミ8期)