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潮(六本木)- 右か左かみんなで決める

公益財団法人クマ財団の企画展@クマ財団ギャラリー(六本木)で、新作を展示しています。2023年11月11日(土)〜26日(日)、火水休。

展示作品《潮(六本木)- 右か左かみんなで決める》は、展示会場を中心とした地図4点からなります。それぞれの地図にはいくつかの道をなぞるマーカーのような線、カクカクとした等高線、そして青い三角形のグラデーション模様が描き込まれています。遠くから見るとグラデーション模様が影であり、全体のあちこちに穴が空いたような立体的な図であることがなんとなく感じられます。4枚の地図は範囲こそ同じであるものの、青い模様は少しずつ異なるようです。

すぐ横の壁にはなにやら謎のテキストが書かれています。

道をなぞっている線はコンピュータで生成した徒歩ルートで、道順を決めているのは大規模言語モデルを元にしたAI(GPT)です。ルートの始点と進む方向をランダムに選び、曲がり角に達する度に、Google StreetViewを使って路上の風景を取得。現在地の情報や進む方向の選択肢とともにAIに与え、次にどちらに進むか選ばせる、ということを繰り返します。

地図上に描かれた立体形状は実際の六本木のものではなく、AIが多く通った道を低く掘り込んだ仮想の地形です。ルートは始点を変えて何度も生成を繰り返しており、4枚の地図は生成したルートを左から順に積算しています。地形が徐々に細かく、有機的に、あたかも山あいの谷間に道が走るような景色に見えてくるはずです。

稲田がここ2年ほど取り組んでいる《潮》シリーズは「世界にはなにか抽象的な、見えない”流れ”が存在する」という仮説をもとに、まちや場所を解釈し探検する作品シリーズです。例えば資本やエネルギーが都市に集中し、文化や流行が都市から地方へ広まっていく、そんななんとなく想像がつくであろう傾向を、歩き回れるくらいの高い解像度で可視化することを試みています。

自然界での空気や水の流れは地表の形によって決まります。とすれば、自然ではなく社会的な要素の分布を「地形」のかたちに落とし込むことができれば、社会的な要素からなる「流れ」を掴むことができるのではないでしょうか。

地形を生み出すデータの集め方に、本展におけるアプローチにはもうひとつアイデアがあります。これまでの制作では社会統計(人口分布・地価・騒音……)を掛け合わせたデータから地形を生成していました。AIを用いるのは本展が初めてです。

AIを駆動しているのは我々人間の生み出してきた知識や行動の積み重ねなわけですが、そんな「AIに聞く」という方法は、他の誰ならない、社会に生きるわたしたち全体の典型的な振る舞いを模擬することを可能にする、と考えています。つまり、作品で見られる地形を通じて、人々の「平均的な」興味の分布を俯瞰できるのではないか?ということです。

本展では窓の近くの、明るい、とても良い展示場所をいただきました。昼は外光が透けて、夜は照明で、浮かび上がるような姿を見ることができます。他の作家のみなさんの作品も素敵です。ぜひお越しください。


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