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ネパール怪談 #4

レカとアルジュンの話

レカとアルジュンは地元の大学で出逢い大恋愛の末、駈け落ち婚を果たした。
二人はジャート(カースト)が異なるゆえに、双方の親族が結婚を許さなかったからだ。

アルジュンは高校教員、レカは小学校教員として、小さな借家で新生活を始めた。
やがてレカの弟妹が訪るようになり、彼らの助けでレカの両親は二人の結婚を受け入れ、実家に顔を出せるようになった。
しかし、アルジュンの親族は依然として二人の結婚を認める気配はなかった。

ある日のこと、レカは編みかけのショールを仕上げようと手に取ったが、毛糸玉に刺しておいたはずの編み針が無くなっていた。
辺りを探したが編み針は見つからなかった。
また別の日には、サリーの下に着るチョリ(ブラウス)が1枚見当たらず、いくら探しても見つからなかった。

無くし物が続いた後、レカの体調がおかしくなった。
頭痛や目眩、吐き気が頻繁に起き、初めは妊娠かと喜んだがそうではなかった。
心配したアルジュンはレカを医者に診せたが、どこも悪いところは無い。
レカは日に日に衰弱して起き上がることも出来なくなってしまった。

アルジュンから娘の病状を聞いた両親は呪術師にお祓いを頼むことにした。

呪術師はレカを一瞥すると
「誰かが、呪いをかけている」と言った。
米、ティカ(神の祝福を受ける為の赤い染料)、薬草、火の点いた香を乗せた真鍮の盆を手に呪術師は呪文を唱え始めた。
レカの額にティカと米粒を付け、香の煙を薬草で煽ぎ、呪文の合間に「フッ、フッ、フッ」と短く強く息を吹きかけた。
しばらくそうした後、呪術師が「判った」と言い、庭に出て地面を見ながら行ったり来たりした。
そして庭の端で足を止め、「ここを掘れ」と指差した。

アルジュンとレカの父親が言われた場所を掘ると、人骨が出てきた。
脛骨らしいそれには、レカが無くした編み針が刺さった彼女のチョリ(ブラウス)が巻き付いていた。

一通りお祓いの儀式を行い、呪術師は呪いをかけた人物が誰であるかを告げた。
二人の結婚を望まないアルジュンの親族の者が、ボクシ(魔女)を介してレカに呪いをかけたのだった。
それを聞いたアルジュンは親族と完全に縁を切った。

その後二人の間に三人の子供が生まれ、今も幸せに暮らしている。

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