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うちの黒き猫 #1 猫が来る家
プチ・ペットロス、とでも言いましょうか。
とある事情で近所の黒猫を3か月預かって無事お帰しした後、ほっとすると同時に何か大事なものが欠けてしまったような寂しさがあった。
あの黒くて丸い四つ脚のかわいい生き物よ…
もうここにはいないのに、物音がするとつい猫の姿を探してしまう。
そうだ。猫を飼おう、と決心した。
保護猫の里親募集サイトを見たり、知り合いのツテで保護活動をしている方を紹介してもらったのだが、その保護活動家は電話で1度話しただけで、私の家を見に来ると言う。
いきなり、最初にそれ?と疑問に思った。
対象の猫の写真もまだ見ていないのに。
更にしつこくペット保険の勧誘までしてくる。
マッチングの段取りとしては何だかおかしな気がしたので
「またの機会に…」とやんわりお断りした。
そんな事もあり里親募集をしているグループ、団体を利用する気がすっかり失せてしまった。
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「ああ、猫ちゃん。誰かうちに来てマイねこになっておくれー」
黒猫、雌の成猫…という、具体的な妄想は預かっていた黒猫が温和で優しい性格だったので同じような猫をお迎えしたいと思っていたからだ。
架空のマイねこを想い数か月過ぎた頃、茶トラの大きな雄猫が玄関先に現れた。
何度か近所で見かけていたノラ猫、というかノラ度高めの地域猫だった。
顔も体も大きく毛艶も悪くない。
人には懐かないが、餌をもらって地域猫として自由に暮らしているようだ。
接近を試みたが、こちらから一歩踏み出すと同じ距離を後退る。
もう一歩近付いたら、ピューっと逃げてしまった。
映画「エイリアン」に出てくる猫のジョーンズにそっくりなので、勝手にジョンジーと呼ぶことにした。
2、3日後ジョンジーがまたやって来た。
おや、ジョンジー…と言いかけた時、ジョンジーの後ろに黒猫がついて来ているのに気が付いた。
黒猫!
黒猫は真っ直ぐ私の前に来たかと思うと、開いていた玄関からするりと家の中に入って行った。
そして部屋を巡回して安全確認が済むと畳んであった布団の上で丸くなり寝てしまった。
奇跡だ。
妄想が現実となった。