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黒猫のHanaちゃん #1

数年前、とある事情で黒猫を3カ月程預かりお世話した。
元々大の猫好きなのに「飼う」という決断が出来ずにいた時だった。
まわりからも、そんなに猫が好きなら飼いなよ、と言われ続けていたが、
はたして自分は一生涯、猫を満足させて幸せに出来るのか、と考えると責任の重さにびびって、なかなか結婚を決断出来ない男みたいに腰が引けていた。

預かった黒猫はHanaちゃんという。
11歳のシニア猫で、丸顔がかわいい優しい猫。

出会いはある8月の朝。
掃き出し窓を開けた時にどこからか
「きゃっ、きゃっ」という鳴き声がした。
濡れ縁に目を落とすと、黒猫がこちらを見上げていた。
「えっ?猫ちゃん?!」と驚く私の足元をすり抜け、ささーっと部屋に入ってきた。
きょろきょろと家の中を見て回り、一通りチェックが済むと長座布団の上で丸くなった。

革製の赤い首輪はボロボロで、凧糸で大きな鈴がぶら下がっている。
痩せた首には重そうに見えた。
迷い猫だわ。
 


翌日スマホで撮った写真を手にご近所に聞いて回ると、すぐに飼い主が判った。飼い主は一人暮らしの高齢のご婦人で、2~3ヶ月前に入院されたのだという。
「息子さんが時々来て、餌をやってるようですよ。多分今日あたりいらっしゃるから行ってみたらどうかしら」
飼い主宅を訪ねると、聞いた通り息子さんと思しき60代くらいの男性がいた。
猫の事を伝えると
「ご迷惑をおかけしてすみません」と恐縮した様子で、自分は少し離れた所に住んでいて、仕事の都合もあり週に1度しか来れないという。
では、お住まいの所に猫を連れて行っては?と聞いてみたが、アパートに一人暮らしで猫を飼える環境ではないとの事。

この辺りは谷戸で周りに自然が多く、車の出入りも少ない為、放し飼いの猫は珍しくない。
Hanaちゃんも放し飼いで、実は以前から時々見かけていた猫だった。
綺麗なふくふくとした黒猫の記憶しかなかったので、今うちにいるヨレヨレの迷い猫が同じ猫だとは気が付かなかった。

週に1度の餌と水…
8月。真夏にそれはあんまりだ。
餌も水もすぐ腐ってしまうだろう。
空腹と喉の渇きに耐えられず、うちに助けを求めて来たに違いない。
「もしよろしかったら、しばらくうちで預かりましょうか?」
思わずそう申し出てしまった。
入院中のお母様の今後を含め、ご自身の都合が付くまでの間、Hanaちゃんを預かる事になった。

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