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ネパール怪談 #3


ラムチャンドラの話

ラムチャンドラが学生だった頃の話。
友人の家に遊びに行った帰りのこと。
日が落ちて外は既に暗くなっていた。 
当時フェワ湖沿いの道は舗装もされていず街灯も無かった。
昼間はツーリストで賑わうレイクサイドの通りも、しんとして真っ暗だ。
「ああ、しまった。明るいうちに帰ればよかった」  とラムチャンドラは後悔した。

ネパリーは概して視力が良い。
懐中電灯など無くても、真っ暗な道を歩くのに不便は無かったが、ラムチャンドラが恐れているのは幽霊やお化けとの遭遇だった。
この暗い道を約5㎞、ダムサイドの家まで一人で歩かねばならない。
ラムチャンドラは膨らんだ恐怖心を打ち消そうと大声で歌いながら早足で歩き始めた。

ひたすら歩くことに集中し、やっとダムサイド地区まで来た時だった。
後ろから、シャン、シャン、シャンとチュラが鳴る音がした。
チュラとはネパールの女性が身に付けるガラス製の細い腕輪だ。
両手首に重ね付けする為、動く度に美しい音を鳴らす。

ラムチャンドラはぞっとして体中の毛が逆立つのを感じた。
幽霊、キチャキンニだ。
キチャキンニは美しい女性の姿をしているが、足が前後逆向きについている。
取り憑かれたら、徐々に衰弱して死んでしまうこともあるという。

チュラの音がどんどん近づいて来る。
ラムチャンドラは怖くて振り返ることも出来ないまま必死に早足で歩き続けたが、とうとうチュラの音が真後ろで鳴った。

視界の端に風に流された白いサリーの一部と長い髪の毛が映ったのと同時に、
ラムチャンドラの後ろ脛をキチャキンニが、その逆向きについている踵でざーっとなぞった。
恐怖が限界を超え、ラムチャンドラは無我夢中で家まで走った。

翌日、ラムチャンドラから事の次第を聞いた両親はラマ(祈祷師)を呼んで悪霊払いの儀式を行った。

その後ラムチャンドラに悪いことは何も起きなかったが、しばらくの間は出かける時に必ず弟も一緒に連れて行くようにしていたそうだ。

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