黒猫のHanaちゃん #2
猫に恋い焦がれ過ぎた結果、
脳内で生成した「エアねこ」をかわいがるという(どうかしている)技で自分を誤魔化してきたが、思いも寄らず本物の猫のお世話をする事になり嬉しかった。
うちで生活をし始めた黒猫Hanaちゃん。
餌もよく食べ、まるでずっとここに住んでいたかのように、すっかり寛いでいる。
座布団の上で伸びをして起き上がった時、Hanaちゃんの体からパラパラっと白い粒が紺色の布地にたくさん落ちた。
蚤の卵。
毛を掻き分けて見たら蚤だらけだった。
黒い毛色のせいで、気が付かなかったのだ。
どうりで後ろ足で頻繁にかきかきしていたわけだ。
そういえば自分も痒い…
目やにと鼻水も出ていたので、飼い主息子さんに連絡して病院に連れて行ってもらった。
特に病気の心配は無かったが、駆虫薬と目薬を出された。
Hanaちゃんは久しぶりに会った飼い主息子さんに甘えてスリスリ。
よく懐いているのがわかる。
「子猫の時に拾って自分が家に連れて来たんですよ」
シャンプーして駆虫薬を投薬し、毎日目薬を差すというハードなプログラムもあったが、猫と過ごす日々は楽しくて心が和んだ。
Hanaちゃんはおとなしく穏やかな性格で、鳴き声も控え目。
障子や襖に爪を立てたり破ったりせず、開けてほしい時はちらっとこっちを見て「にゃーん」と言って待っている。
困る場所での爪研ぎもしない(濡れ縁のお気に入りの板でバリバリ)
目薬とか猫的に嫌な事をされても引っ掻いたり咬んだりは1度もなかった。
こんないい子、いるの?と感心した。
人間の年齢に換算すると60歳の還暦猫。
そのせいなのか、猫じゃらしや釣り遊びを仕掛けても全然ノって来ない。
運動神経もイマイチで、庭から濡れ縁に飛び乗る時、フツーの猫は前足から流線形でひらりとやるところを、ぐぐっと踏ん張ってから四つ脚をぴーんと突っ張ったまま机のフォームで飛び乗っていた。
家具とか棚など猫が好きそうな高い所に上る事もなく、座布団や濡れ縁で気持ち良さそうに寝ている事が殆どだった。
そして、時々すり寄って甘えてきたり、膝の上で丸くなってくれる。
秋の陽射しが心地よい朝、玄関先で日課となったHanaちゃんのブラッシングをしていると、飼い主息子さんがやって来た。
門戸を開けるとHanaちゃんは嬉しそうに尻尾をピーンと立てて息子さんの脚にスリスリしている。
「どうもお世話になりました」とお菓子の入った紙袋を手渡された。
お母様の退院は難しく、ご自身は実家、Hanaちゃんの家に戻る事になったという。
Hanaちゃんを迎えに来たのだ。
「Hanaちゃん、おうちに帰れてよかったね」
Hanaちゃんは飼い主息子さんに抱かれて帰って行った。
お茶を煎れて、頂いたお菓子を食べる。
一仕事終わったような安堵感と共に何とも言えない寂しさがあった。