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ネパール怪談 #2

アルン・バハドゥールの話

アルン・バハドゥールはグルカ兵退役後、ネパール中部の町ポカラに妻と大学生の長女を頭に5人の子供達と暮らしていた。
退役後はダムの管理局に務め、趣味のガーデニングを楽しんでいる。

ある晩、ベッドに入り寝ようとしていると、天井でガラガラ、バリバリと物凄い音がした。
何事かと外に出てみると大量の石ころが家の周りに落ちていた。
これはおかしいぞ。一体どういう事だ?と考えながら怖がる子供達をなだめて眠りについた。

次の日の晩の事。
家の前に一匹の猫がやってきて一晩中ニャーオ、ニャーオとうるさく鳴き続けた。
また次の晩も同じ猫が来て、追い払ってもすぐ戻ってきて鳴き続ける。
動物好きのアルンだが、その猫はなつく様子もなく、奇妙で気味が悪いと思った。

そんな事が数日続き、アルンは思い当たった。
これはボクシの仕業に違いない。
ボクシとはネパールの魔女、ブラックマジシャンだ。
アルンは人徳者で、ボクシの恨みを買うような事もしていないし、誰かがボクシに金を払って嫌がらせをしたとも思えない。
ただ、ボクシは気まぐれでこのようないたずらをする事があるという。

その夜もまた同じ猫が来て、家の前で鳴き始めた。
アルンは「またお前かい。一体何の用なんだい?」と静かに話しかけながら、用意していた大きな背負い籠で猫を捕まえた。
逃げられないように蓋をして縄で括りつけ、そのまま朝まで放置した。 

さて翌朝、捕まえた猫を見に行くと籠の中には女が入っていた。
石を降らせ、猫に姿を変えて睡眠の邪魔をしたボクシだった。
出してくれと泣いて謝るボクシに、二度とここへ来ないよう約束をさせて籠から出してやった。
籠から出たボクシは一目散にどこかへ逃げて行った。 

その後は石が降る事もおかしな猫が来る事も無くなった。

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