見出し画像

真に日本が誇るべき音楽「陰陽座」

日本人はもっと日本独特の文化を誇るべきなのかもしれない。


陰陽座(おんみょうざ)は、1999年結成のヘヴィメタルバンドだ。

彼らは、妖怪・日本史・文学etc…と日本という国で紡がれた様々な事象を音楽にしてきた唯一無二のバンドである。

「いや、和楽器バンドいるじゃん。」

ちなみにこれは母に言われたセリフだが…いや、聴けばわかるが全くの別物である。

僕にとっては好きすぎて正常な判断ができないバンドの一つだ。魅力がちゃんと伝わるように書けたらいいなと祈りつつ…

最強の憑依型ボーカル

このバンドを語るのにこの曲は外すことは出来ないだろう。ご存じの方も多いとは思うがアニメ”バジリスク”の主題歌だ。一時期、バジリスクタイムなるものがツイッターで流行したりもした。

美しいハイトーンボイス、覚えやすいサビ、疾走感…様々な人に愛されてきた名曲だ。陰陽座ファン以外のこのバンドに対する印象は99%この楽曲のイメージ だろう。

しかし、Vo.黒猫の表現力…彼らの膨大な作品群の内の1曲では、ほんの上澄みしか伝わっていない。

彼女は曲に合わせて全く別の人間に成ることが出来る。

組曲「鬼子母神」〜鬼子母人 (10thアルバム”鬼子母神”収録)

甲賀忍法帖の爽やかな歌唱とは打って変わり、怨嗟の声が聞こえてきそうな鬼気迫る歌唱。何パターンか歌唱法を使い分けている…とかそういう事ではなく曲自体への没入感が凄い。おどろおどろしい曲では怨霊のように、妖艶な曲ではセクシーに、楽し気な曲では明るく歌い上げる。

文字数が増え過ぎてしまうので全部は紹介できないが、曲の数だけ彼女は人格を入れ替えているんじゃないかと思ってしまう。言い過ぎか?

彼女はシンガーでありながら、ある種のアクターでもあるのだと思う。絵画・音楽・演劇…表現のための創作物は多々あるが、行き着くところは同じなのかもしれない。

陰陽座というバンドはその性質上、日本という共通点こそあるものの曲によっては妖怪、偉人、果ては神など…様々なコンセプトで歌い上げなくてはいけない。よって、彼女ほどの憑依力が無ければボーカルは務まらないのだろう。

ちなみにライブ映像付きで見るとその憑依加減は更にすさまじい。

生粋のライブバンド

隙あらばツアー。

とにかくライブ活動が多い。デビュー以後、既に全都道府県を2周しているという事実がそれを物語っている。

彼らにとってのライブは「曲の世界観の完全再現」だとBa./Vo.瞬火が事あるごとに語っており、個人的な解釈ではあるが「世界観の肉付け」に当たるのかもしれない。違ったものを見せるのではなく…魅力の増幅とも言い換えられる。

ただ、それは簡単なことではないと思う。

ただの完コピでは音源と差が出ない。そうなるとパフォーマンスで魅せることになるのだが…彼らの音楽はヘヴィメタルであり演奏難度が高い。よって、ジャンプしたり、ギターを投げたりといった”分かりやすい”パフォーマンスは難しいのだ。立ち姿、細かい体の動きだけで表現する必要がある。

ただ、前述したとおり、彼らのライブの経験値は膨大な量になっている。細かい手の動き、立ち位置、メイク・衣装…そのおかげか、彼らの楽曲はライブの方が断然輝いて聴こえる。これは間違いない。

もう一点、凄い!と思う事があるのだが、演奏以外の演出…例えば「火が噴き出る」「ダンサー」「バックに映像」といったギミックに一切頼らない点だ。ステージ上には楽器とマイクしかないのだ。なんという潔さか。

陰と陽、龍と鳳凰…そして、”Wギター&Wボーカル”

組曲「義経」〜悪忌判官(6thアルバム”臥龍點睛”)

彼らのバンドのモチーフである”太極図”と”龍と鳳凰”を表すが如く、バンドの構成も対となっている。

ボーカルは男性と女性で二人、ギターも役割分けは特に無くツインリードの楽曲が多い。ここまで徹底しているバンドもそう無いだろう。何とロマンにあふれることか…

ボーカルについては、基本的にメインは黒猫らしいのだが、二人で歌っている楽曲が多い。男性が歌わないと表現できない部分を瞬火が担っている。そして、陰陽座のギターソロは、

・下手Gt.招鬼→”ロングトーン多めのメロディアスなソロ”

・上手Gt.狩姦→”速弾き主体のシュレッド”

そして、最後に2本のギターが合流してハモる…というパターンが結構多いのだが、またこれが分かっていても熱くなってしまうのだ。水戸黄門が印籠を出した時の気持ち…アレに近い。好きな人にはたまらないだろう。

男女ツインボーカルという形態自体が珍しいのに加え、ギター二人も両方ともソロを担えるというバンドは世界中探してもそれほどいないのでは、と思う。

この構成が陰陽座の表現の幅の広さの要因の1つなのだろう。

和音階に頼らない”洋楽由来のサウンド”

和音階というものが存在する。別名「四七抜き」。

古くから日本の伝統音楽で使われてきた音階で、ざっくり言うとこれを使えば何となく和を感じるメロディになるという便利な音階だ。

和を強く感じるサウンドだというのはここまで記事を読んで頂いた方には伝わっていると思うが、彼らは意外なことに滅多なことで和音階は使わない。

あくまでサウンドの骨子は海外の古き良き”ハードロック・ヘヴィメタル”なのである。何故、これほどまでに和を感じるのか…

まず、思いつくのは言葉遣いだろう。聴けば分かるが一貫して古風な文語調である。当て字などで例外的に聴かせることもあるが、横文字の類を一切使わないのだ。ちなみに作詞の大部分は瞬火が担当している(一部黒猫)。メタルバンドにあるまじき教養…

次に、歌謡曲を感じさせるメロディだろうか?抑揚が激しいというか。大仰なのはメタルではあまり珍しくないのかもしれないが、おそらく日本人の遺伝子に刻まれたメロディの運び方があるのだろう…耳馴染みが良く、不思議と琴線にふれるのだ。

そして、シンガーとしては基本なのかもしれないが、この2点を支える”滑舌の良さ”が、この和の雰囲気を伝える大きな武器なのだと思う。

歌詞を見れば分かるのだが、このバンドの歌詞は古典で出てくるような耳馴染みの無い表現が多々あるのだが、歌に乗せると普通に聞き取れたり。メロディに載せる言葉遣いにも相当な注意を払っていることがうかがい知れる。

和とヘヴィメタルをちぐはぐに感じさせない彼らの絶妙なバランス感覚に天晴。

ネタが尽きなさすぎ

夜歩き骨牡丹(12thアルバム”雷神創世”収録)

活動21年目にしてオリジナルアルバム14枚…平均して1年半に1枚というリリースペースで活動していることになる。彼らの何がそうさせるのか…創作者の鑑ともいうべきストイックさである。

これだけ作品が増えてくると楽曲の数も膨大になってくる。確かに陰陽座パターンみたいな似た曲は結構あるのだが、”メタルからかけ離れたJPOPな曲”や、”ファンクベースの怪しい曲”、”チューニング低めなモダンメタル”等々…言い出したらきりが無く、とにかく幅が広い。

なにより、それらの楽曲のどれを聴いても、クオリティが低いことは僕が知っている範囲ではまず無く、そのどれもが”陰陽座っぽく”なっているのだから恐ろしい。

特に派手にプロモーションをするわけでもなく、ただただひたむきに「作品の制作」「ライブ」だけを21年…同じ事ができるバンドがどれほどあるだろうか。この音楽へのストイックさも彼らの魅力の一つなのだろう。

本人たちも良く語っているが、彼らは確かに”異端”である。

かつてはどこのシーンからものけ者にされ、色物と言われてきたのだろう。しかし、そこで歩みを止めず、ひたすらに音楽に向き合ってきた姿勢に魅かれたファンは沢山いる。

現在では、アルバムをリリースすればチャート入り。JPOPなどに比べれば売り上げは全然少ないのかもしれないが、シーンの中では有名なバンドに上り詰めた。なんと格好の良いことか。

残念ながら、現在は黒猫が体調を崩してしまい活動休止中だが、絶対に復帰するだろうし、きっと近いうちに再び素晴らしい作品を作ってくれるだろう。その時が楽しみである。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?