見出し画像

2024年のピーマン栽培を振り返って

気づいたら年が明けていて2025年。
去年の振り返りもしないまま年を越してしまった。
いつも走りながら何かを考えて、そのまま走り続ける
を繰り返しているのでなかなかじっくり腰を据えて物思いにふけることができず、
頭の中が整理されてないのでしょう。
といってもこの文章化の作業は読んでいただいている方に自分の知識や考え、経験を知っていただくことのほか、自分自身の情報の整理にもなるので大事な作業であることはわかっているのです。
習慣化と頭の整理の時間確保のなんとも難しいことよ。

さておき、トップ写真はピーマン畑にこぼれ種から咲くひまわりです。
かわいくて作業中に癒されます。

うちのかわいい軽トラたち

天候の振り返り

2024年シーズンは40aに約4000株のピーマンを植えましたが
シーズンを天候から振り返ってみると
八戸では2月終盤にどかっと積雪があったため、雪解けが遅れて畑に入るタイミングが一気に後ろにずれた。八戸でも比較的雪深い豊崎のうちの畑でトラクターが畑に入れたのは3月25日になってからだ。

そこから肥料を撒いて畑の畝を作り、苗を植えるのだが、その4月5月で10mm以上のまとまった雨が降ったのは4月8日と5月28日のみで。これにはどの農家も参ったはずだ。カラカラで砂埃が舞う毎日。
うちでは4月8日以降にもう一度降雨を待ってから畝作りをしようと考えていたが、一向に雨が降らない。結局定植が間に合わなくなるので、土が乾いた状態で畝作りを行うことにした。土に水分が少ないと定植後の活着(根張り)が悪くなる。作物は定植後に根からの養分吸収と葉での光合成で有機物を合成して自分の体を作っていくが、水分がないと土中の養分を吸うことができないし、水分がなければ光合成もできない。要するに根を伸ばすこともできなければ、茎葉を伸ばすこともできないのである。
だから2024年は定植後にトータル20回近く株元灌水を行っており、4000株に灌水する作業というのはそれなりに労力とコストがかかる大変な作業なのです。雨が降ってくれさえすれば不要な作業なだけに定期的な降雨を願うのではあるが、こればかりはなかなか思い通りにいかないのですよ。

また5月には八戸では強風が吹くのです。
これは例年のことで去年に限った話ではない。調べてみると最大風速10m /s以上の日は20日もあった。
定植〜初期生育の時期と重なっており、定植直後の苗というのは人で言うと歩き始めた赤ちゃんくらいのイメージなのだが、それが強風でビシバシ叩かれて茎は折れるわ、葉はもげるわ、の無惨な状態になるのである。見ていて本当に切なくなる。風というのは自然の中にいるとなかなか厄介な敵にもなり得るというのが農業を始めてわかったことだ。ちなみに強風に当たると植物は光合成効率が落ちることも付け加えておきましょう。

6月以降は北日本らしく暑くなりすぎることもなく、雨もほどほどに降ってくれた。一昨年2023年は八戸でも連日35℃で雨が全く降らず、神様に雨乞いをしたものだが、それを経験したからか、2024年は全く何も問題を感じなかった。むしろ近年の異常気象からすると、こんな年があっていいのだろうかと心配になるくらいだ。西日本で10月まで猛暑が続いたのとは対照的で、夏野菜って北日本でしか取れなくなるんではないかという危機感をみんな持っていると思うのであります。

ピーマン栽培の結果
から言うと、生育中盤以降の天候に恵まれたこともあり、
40a 4000株で特別栽培という減農薬、減化学肥料の栽培方法で
過去最高の24.4t を得ることができたのだが
そんな中でも次の反省点が見えてきた。

1.作土層の深さ
2.元肥の量
3.強風とどう向き合うか
4.水分量と徒長

の4点である。
順に対策とともに説明していきたい。

1.作土層の深さ


私には微生物の世界や理想的なそれを実現するための不耕起栽培に対していくばくかのロマンや憧れがある。不耕起栽培とはトラクターなどで土を一切耕さない農法で簡単に言うと微生物によって土を豊かにふかふかにするのである。微生物は土壌中に数えきれない種類と量が存在していて、それらがネットワークを作りつながって共存している。人間世界のグローバル化みたいなもんだ。そのネットワークは土を攪拌してしまうと壊れてしまう。
不耕起栽培は微生物のネットワークをできるだけ壊さないように、微生物が最大限働けるような環境を作ってやることで土を作り、そこで作物を育てていくやり方だ。自分もそのやり方に共感する部分があり、できるだけトラクターはかけないし、かけてもできるだけ浅くしか耕さない。ちなみにうちでのトラクターの年間稼働時間は多分30時間くらい。畑作やってる農家としては極少だと思う。

問題はこの浅くしか耕さない結果、作土層が薄い場所ができてしまうと言うことだ。それは畑の土壌の層がどのように構成されているかで変わってくると言うことが経験的にわかってきた。

黒ボク土がある程度厚くある場所ではあまり違和感を感じないんだけれども、粘土質の場所ではなんか違うなーという部分が見えてきた。粘土質土壌は作土の下も粘土、物理的に耕したりしない限りは、そこがほぐれて酸素が入っていくことはない。酸素がないと植物も根を張っていけない。

ピーマンは浅根と言われるけど、直根は下に長く伸びていく。また栽培後半になると根域はより深いところまで到達するのではないだろうか。そういう仮説を持つようになったのは粘土質の区画が栽培後半で失速するような感覚があったからだ。

もしかすると現時点ではより深く耕してあげた方がピーマンの根張りが良くなり、シーズン後半の出来も良くなるのではないか。

不耕起栽培に関連することを勉強していき、耕す浅さとは裏腹に、知識は前よりも深く微生物の世界や植物生理を知るようになった今現在の見解としては、うちの畑ではまだ不耕起をやる段階ではないと踏んだ。詳細は省くけど不耕起栽培は気候や作物を選ぶと思う。そして時間をかけてやっていく必要がある。不耕起栽培は自分の中で理想的な農業の形ではあるけれども、あくまでも自然に優しく良い作物が取れ、サスティナブルであればやり方はどのようでもいいのだ。手段が目的化してはいけない。これに関しては時間をかけてやっていこう。


2本の爪で土の中を引っ掻くソイラー

とりあえず粘土質の区画に関しては深く耕すし、ソイラーと言って土壌の深い部分に爪で溝を入れていく機械を使って酸素が届く範囲をより深い場所まで作る。同時にこれまでもやってきたことだが、根を深く張るイネ科の緑肥(根が深い場所に少しずつ空間を作ってくれる&そこに共生する微生物が増える)を植えて、そいつらを粉砕して土中に戻し、微生物にも活躍してもらいながら粘土を少しずつふかふかの土に変えて行こうではないか。

土づくりは全ての礎
これで500kgくらいは収量が上がるのではないだろうか。

2.元肥の量


肥料は足りないと生育は悪くなる。
けど、多ければいいというものでもない。
多すぎると逆に収量が落ちるのは面白い話だ。

自分が就農した2020年と比べ今は肥料代が1.5倍以上。
できることなら無駄にしたくない。
要するに肥料代をケチりたい(笑)

どこがちょうどいい量のポイントなんだろう。
できるだけ最小限の量を探りながら5年間やってきた。
指導では元肥N量24kg/10aとなっているけれども、本当にその量は必要なのだろうか?実は削減する方法があるのではないか?

まずは常識を疑い、自分でやってみて失敗して初めて本当に気づき、モノになる。

2020年はN量16kg/10aでスタートして年々少しずつ量を上げたり、追肥の種類やタイミングを変えたりしながら試行錯誤。

5年間失敗が多かったけど、なぜかめちゃくちゃ上手くいった区画もあった。
でもそのやり方を他の区画で試しても同じようにはならない。
土壌の条件も違うし、毎年気象条件も違う。
土壌が肥えていたり痩せていたり、雨が降ったり、降らなかったり、生育が早かったり、遅かったりと、いろんな条件がたまたま揃ったのが良かった時なんだろう。

2024年はN量21kg/10aでスタートしたから、自分の中では結構肥料を入れた感覚があって、追肥開始のタイミングを7月まで引っ張れるだろうと思っていたら、甘かった。希望的観測みたいなものが頭の中に存在すると、現実を見ているにも関わらず、良いようにどうにかなるんじゃないかと判断を鈍らせてしまう。結局その区画では肥料切れを起こし、そこから回復させるまで1ヶ月くらいかかってしまった。怪我の功名だったのは肥料切れで樹勢がかなり落ちた状態から回復させる方法と回復期間を知ることができたことだ。いい勉強だった。

こういった経験から元肥の量で言うと、有機質肥料のN量で24kg/10a(全面施肥ではなく畝施用)は必要だという結論に至った。もしかするともう少し多くてもいいかもしれない。
有機質肥料は無機化率が50〜80%らしいから実質N量24kg必要だとすると肥料袋記載のN量で30kgは必要だと言う計算になる。でも肌感では24kgで追肥を6月下旬開始にすればいけそうな気がする。

肥料切れを起こした区画のその1ヶ月だけでも2tはロスしているだろうから、もっと収量も品質も上げることが可能だ。

背中に肥料を背負って歩きながら撒いております

3.強風とどう向き合うか

冒頭にも書いたが八戸の5月は強風の日が多い。
定植は強風の日をできるだけ避けてやるが、それでもどうしてもある程度の強風は覚悟しなくてはならない時もある。
5月中旬に植えたはいいが2024年はせっかく植えた苗が強風でズタボロにされた区画があった。その日の最大瞬間風速は29m/s、もはや暴風だ。

強風でやられたピーマン苗
かろうじて枯れはしないが回復までに時間がかかる
泣きたくなるわ

ある日の強風で200株ほどやられたであろうか。
リスクヘッジで定植日を分散していたのでこれくらいの被害で済んだのだが、
でも果たしてこんなリスクのある時期に植える必要があるのだろうか?
早く植えると早く収穫が始まるからそうするのだが、写真のようにダメージを喰って生育が2週間〜1ヶ月遅れるくらいなら、いっそのこと定植を遅らせて6月に植えればいいのではないかと考えるようになった。

強風には刃向かっても勝てない。
苗の被害だけじゃなく、通路マットやマルチが剥がされたり、散々なことが起こる。勝てないなら避けてしまった方がいい。
2025年は5月中旬ではなく、下旬から6月頭にかけて分散して定植するスケジュールを組んでみた。上手くいけばこの時期を避けるだけでもこの区画も収量2t上乗せできるだろう。

4.水分量と徒長


うちの畑は緩やかな傾斜になっていて、傾斜の一番低い場所にある区画は、水が流れてくる場所にあるためか樹が大きくなりやすい。茎の節間が伸びる徒長と言われる状態だ。植物は水分と一緒にN窒素分を吸っている。吸収水分量が多いと言うことはそれと同時にNも吸っていると言うこと。樹体内にNがたくさんあるのでそれを利用して茎葉を長く大きくしてしまう。この状態というのは植物ホルモンと生育バランスの関係で言うとジベレリンという植物ホルモンが活性化し栄養生長に傾いた状態だ。

栄養生長↔︎生殖生長
(栄養生長とは植物が葉や茎などの栄養器官を増大させる生育段階のことで、それに対して生殖生長は花芽を形成して開花させ、種子を作るといった次世代を作る生育段階)

ジベレリン、オーキシン、サイトカイニン他さまざまな植物ホルモンの働きによって、シーソーのようにバランスをとりながら生育する。

栄養生長に傾くということは、生殖にエネルギーを使わない、要するにピーマンの花や実を着けない方向に行っているということだ。だからその区画の着果量は少ない。

ここでエネルギーの使い所を花実をつく方向(生殖生長)に持っていければいいわけだ。ではどうすればいいのか?

今の自分の知識で対応策を考えるとするなら
・雨の多い時期の窒素投与量を少なくする
・P,Ca,Cuといった窒素の吸収活用化を阻害する働きのあるものを雨の前に使う
・サイトカイニンを活性化させる葉面散布をする
・1株あたりの枝数を多めにする
・樹勢の強い枝の摘芯によるジベレリン抑制

などになるだろう。

植物の生育レベルをコントロールすることができるようになれば
自分の農家レベルも格段に上がるのでこの試みは自分の中でもものすごいワクワクするものなのである。

これが成功すれば1tは収量が上がるだろう。

まとめ


2024年は過去最高の収量を得ることができたが、それでも上記のようにまだまだ伸びしろがある状況だ。
自分の目標は特別栽培で地域の慣行栽培のトップランカーと同等の収量を得ること。目論見通りの収量が得られれば40a4000株で30t収穫が見えてくる。

この栽培方法を確立して八戸のピーマン産地としての価値を上げることが私の夢なのであります。

2025年も応援よろしくお願いします。





いいなと思ったら応援しよう!