研究者の人生設計
こんにちは、市橋です。
研究者人生を満喫しております。
今回、研究者の人生の全体像について書きます。
とくに研究者になりたい学生さんにとって、周りで就職活動をする同級生を見たり、研究室の先生から研究者の厳しさを教わったりしたとき、「自分の研究者人生は大丈夫か?」と不安になるかと思います。
そんなとき、研究者の人生がどのように進むのか、考えておくべきことは何か、見通しがわかっていると不安が解消されると思います。私の経験から、以下についてシェアします。
1. 研究者人生のキャリア
まずは、研究者の人生の基本的な流れを見ていきましょう。
・学部生・専門学校
まず大学もしくは専門学校に入学します。そこでは講義や実習に加えて、研究室に入って卒業研究を実施します。多くの場合、1年以下と短期間ではありますが、研究を実際に体験できます。卒業後に民間企業の研究職への就職もありますが、研究職を希望する方の多くは進学します。
・修士課程
博士前期課程とも呼ばれており、一般的に2年間になります。また多くの方は大学卒業後すぐに修士課程に進学しますが、社会人からの修士課程へ入る方もいます。民間企業の研究職では修士卒、大学研究機関では博士号取得者が多いです。博士課程への進学率は全分野の平均で10%と報告されております(文部科学省より)。
・博士課程
博士後期課程とも呼ばれており、一般的に3年間になります。ただ医・歯・獣医・薬学部などの学部を卒業する方は博士課程が4年間になります。一貫性博士課程として、修士課程と博士課程と併せた大学院もあります。また社会人からの博士課程へ入る方もいます。博士号取得後に民間企業の研究職への就職もあり、企業側では博士号取得者について、「専門知識」、「論理的思考」、「独創性」を高く評価していると報告されております(文部科学省より)
・ポスドク研究員
大学研究機関の研究者になる方の多くは、博士号取得後に任期付き研究員であるポスドク研究員になるケースが多いです。博士号を取得した後、一人前の研究者として研究に没頭できる時期になります。そのため、このポジションを維持して研究をされる方も多くいますし、海外でポスドク研究員をされる方、民間企業へ転職される方もいます。
また1990年代以降、科学技術の振興を目指した国の方針によりポスドク一万人計画がありました。しかし十分なキャリアパスが準備されていない状態での政策であったため、優秀な人材が定職に付けないという社会問題になりました。そのため、日本は先進国の中でほぼ唯一博士号取得者が減少しており、技術開発で世界から後れをとりかねないと危惧されております。そのようななか、最近では、多くの大学研究機関で雇用形態改善や多様なキャリアパスの支援等、様々な改善がなされております。例えば、下記に紹介する管理職としてのキャリアパスに加えて、研究に専従する研究員としてのキャリアや専門技術の技師としてのキャリア等、多様なキャリアが整備されつつあります。
・管理職
一部の研究者が大学研究機関の管理職のポジションに進むことができます。例えば大学では、助教、准教授、教授と進み、研究室を運営する研究主宰者(Principal investigator、通称PI)になるキャリアパスがあります。教授相当のPIになるまで博士取得後10〜15年かかるケースが多いです。PIは、自身で研究を実施するよりも複数の研究プロジェクトを統括する等、研究室の運営にかける時間が増えます。また教育機関である大学では、講義や実習などの教育に関する業務を担当します。
・老後
定年退職される方が多いのですが、退職後に何らかのポストを大学研究機関で取得して、自由に研究する身の方もいます。また優秀な研究実績を残された方は、大学の名誉教授や研究機関の役員になり、日本の科学の進展に貢献しています。
2. 研究者人生を左右する大切な問い
続いて、研究者人生に大きく影響する問いを3つ紹介します。
・何をするか?
研究者になると決心してから最初に迫られる問いは、「研究分野や研究室をどこにするか」です。選んだ研究分野によって、社会的なニーズ・研究者人口・研究スタイル等が異なります。そのため、研究費の規模・分野内での競争率・毎日の生活等が大きく左右されます。また選んだ研究室によって、具体的な研究テーマ・その分野での人脈や立ち位置・研究者としてのトレーニングの内容等が異なります。そのため、研究者としての実績・ネットワーク・能力等が大きく左右されます。もちろん自身の努力次第で変えることは可能ですが、環境の影響が大きいことは間違いありません。
・自身の強みは何か?
研究を始めて、成果が出始めると、次に出てくる問いは、「自身の強みは何か」です。研究を進めていくうちに自然に浮き出てくるものだと思うかもしれませんが、自身の強みを客観的に見出すことがとても重要です。研究者の多くは、研究内容に対しては論理的に考えることができるのに、自身のキャリアについてはなんとなくでやり過ごされる方がほとんどです。自身の強みは、研究の今後の展開・共同研究の進め方・その後のキャリアアップに大きく影響します。また自身を象徴するような渾身の論文を世に出すことにより、研究者人生が大きく動き始めます。
・どのように研究を続けるか?
研究を進めていくうちに、研究にはとても多額な費用がかかり、研究費がないと研究を進めることは不可能であると知ることになります。特に大学研究機関の研究者では、自身の研究を続けるためにフェローシップや外部資金への申請をすることになります。自身で研究費を工面できる能力は、研究の実績の一つと考えられておりますし、経済的な余裕から精神的な余裕が生まれます。このように、研究ができる状況が整ってはじめて、自身の研究にしっかり向き合うことができます。
いずれの問いも研究者人生を大きく左右します。その分、とても迷います。しかし、時代や環境は刻一刻と変化しますし、自身の研究の進展により大きく変わります。そのため、これらの問いに対する答えはいつでも変更できます。むしろ常にこれらの問いに対する自身の答えを見直すことが大切になります。
3. 研究者人生のプライベート
研究者も一人の人間として、研究と直接は関係しないプライベートなことも研究者人生に大きく影響します。ここでは研究者の人生設計において考慮に入れた方が良いプライベートについて書かせてもらいます。
・ライフイベント
研究者は、考えることが仕事のため、24時間研究について考えてしまいがちです。そのため、ついプライベートのことを疎かにしてしまうことが多くなります。それでも研究者人生をより充実させるため、人生におけるライフイベントを研究者の人生設計に入れて考えることは大切です。例えば、引っ越し、結婚、出産などにより、生活がガラリと変わります。とても嬉しいライフイベントであっても、今までに無いストレスが出る可能性が生じます。変化によって自身の弱みが露出してしまうことが多々あること、またそのようなことは人間として自然であることを心得ておきましょう。
・経済的な自立
研究者は、つい経済的なことも疎かにしてしまいがちです。それでも研究者が安定した精神状態で研究に打ち込むために経済的に自立している状況が必要です。ぜひ経済的な部分について考慮しておくことをおすすめします。自身の支出と収入がどれくらいかモニタリングすることからはじめ、可能であれば経済についても学んで資産運用等を始めておくと良いでしょう。そこで学んだことは、きっと研究にもフィードバックすると思います。
4. さいごに
いかがでしたか?
研究者の人生をざっくりとでも想像できたのではないでしょうか?
世間からみると、研究者とは得体の知れない人だと思われているようですが、同じ人間、他の職業の方の人生と共通する部分も多いのではと思います。
目の前のことで、日々の生活が忙しいと思います。しかし、少し先のことを考える中長期的な視野を持つと、今、何をすべきかクリアになります。ぜひ素敵な研究者人生を満喫してください。
これまで私が参考した2冊の本をご紹介します。
今回は以上になります。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。