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研究者のコラボレーション

こんにちは、市橋です。
コラボレーションによる研究の加速を日々実感しております。

今回、共同研究を成功させたい方に向けて書きます。

近年、どの研究分野においても分野横断、産学官連携といった異分野間での共同研究が推奨されております。しかし、共同研究の進め方について体系的に学ぶ機会は少なく、ほとんどの研究者は自身の経験を通して学んでいるのが実情かと思います。また若い方にとって、大学院で進める修士研究や博士研究の多くが個人型の研究プロジェクトであり、共同研究について慣れていない方が大半だと思います。

私はアメリカに留学しているときにライフサイエンス分野でのビッグプロジェクトに参画しました。帰国後も、大学研究機関や民間企業と30件以上の共同研究に携わり、多くの研究成果に恵まれました。そこで、これまでの経験をまとめておきたいと思います。

1. 共同研究のメリットとデメリット

共同研究の第一のメリットは、取り組む課題の解決や研究成果につながりやすくなることです。研究者一人の能力には限りがあるため、共同でして行うことでの相乗効果が期待されます。

また研究を通して新しい考え方や技術を学ぶことができるため、研究者として成長する良い機会にもなります。さらに、共同研究者と同じ方向を向いて働くことになり、一体感を経験できることも共同研究の醍醐味の一つです。このような経験を通して培った人脈は人生におけるかけがえのない宝になるでしょう。また何より仲間と働くことは楽しく、心強く感じることができます。

ただ共同研究は良いことばかりではありません。

個人型の研究に比べて、人間関係からのトラブルに発展する可能性がどうしても生じてしまいます。そのため、研究の内容だけでなく、研究がうまく進むように多方面に気を配りながらマネジメントをする必要があります。また異なる所属機関で共同研究を進めるためには、共同研究契約を締結するなど、煩雑な書類手続きが必要になります。

【共同研究のメリット】
・ 問題解決や成果につながりやすい
・ 新しい考え方や技術を学ぶことができる
・ 一体感を経験できる
・ 将来の人脈形成につながる
・ 楽しく、心強い

【共同研究のデメリット】
・ 人間関係トラブルのリスクがある
・ マネジメントが難しい
・ 契約などの書類手続きが必要

2. 共同研究をうまく進めるための心得

共同研究を進める上で、メリットを最大化し、デメリットを最小化させるための心得を紹介したいと思います。

まず、おおまかな共同研究の流れに沿って、解説していきます。

【共同研究の流れ】
1. アプローチ:共同研究相手を探す
2. 計画:研究計画を立てて合意を得る
3. 実施:計画を実施する
4. 出口:共同研究成果をまとめ、学会/論文発表や知財化、次の共同研究へ

アプローチ

共同研究相手へのアプローチは、自分から依頼する場合と依頼される場合があります。

自分から依頼する場合は、共同研究をしたい理由に明確にした上で、学会や講演会などのプレゼンや、論文や記事などのweb/紙面情報から、適切な共同研究者候補を探します。また、知人から紹介をしてもらうと、相手の人柄なども知ることができます。

ここで私がポイントだと考えていることは、出会いは一度きりの「一期一会」だと認識することです。その人との出会いを大切にして、全身全霊で対応することが重要であると考えております。またここでの意気込みが共同研究のスタートダッシュに直結し、その後の流れを決めると言っても過言ではありません。逆に、「いつでも会えるから、機会があれば共同研究をお願いします」というようなアプローチでは、共同研究の機会は一生訪れないと思った方が良いでしょう。

一方で、共同研究を依頼される場合もあります。ここで私がポイントだと考えていることは、共同研究を依頼してきた方の話を「しっかり聞くこと」です。先方が何を望んで共同研究を依頼してきたのか、双方にメリットがあるか、よくよく精査する必要があります。また研究も人が行う活動であるため、担当者の人柄に大きく左右されます。相手をしっかり観察して、この方と自分(と自分の周り)の貴重な時間を費やす価値があるのか見極めましょう。また担当者の任期など周辺情報も聞いておくことで、共同研究を最後までやり切ることができるか想定することができます。

私はこれまでの共同研究で良い経験も悪い経験もしてきましたが、そのほとんどのケースで、共同研究の内容や共同研究相手の第一印象から受ける直感が最終的な研究成果を反映しています。経験を通してそういった感覚を身につけれたのかもしれませんが、少なくとも、最初のアプローチのシーンに共同研究の行く末を反映する何らかの情報が散りばめられていることは間違いないと言えるでしょう。

【ポイント】出会いは一期一会、しっかり伝えて、しっかり受け止める

計画

とにかく「共同研究の目標をクリアすること」を徹底しましょう。

当然のことだと思われるかもしれませんが、意外にもここを疎かにしているケースが多くみられます。目標がクリアになっていない共同研究は始めるべきではありません。不確定要素が多い研究内容だと走りながら目標が変わるようなことがあるかもしれませんが、それでも当面の目標を立てることはできるはずです。

ここで私がポイントだと考えていることは、双方で求めている技術・知見・環境を提供し合うといった「win-winの関係」になっているか確認することです。共同研究は一種のビジネスであると捉えた方が良く、仲良しでスタートするものではありません。うまくいってもいかなくても共同研究をする意義が双方に認められるか、しっかり議論した上で進めるべきです。

逆にwin-winの関係を実現できないのであれば、共同研究を始めない、途中でも止めることができる、というように取り決めておくべきです。将来的に人脈を広げることや知見を増やすために間口を広くする必要があると考える方もいるかと思いますが、自分の有限である研究リソース(つまり、時間や費用)を使うことになるので、冷静に決断する必要があります。もちろん若いうちはなんでも経験値に繋がるので、やらないよりはやった方が良いという判断もあるかと思います。

また計画段階で「最終的な出口」を意識して、成果の取り扱いについて協議しておく必要があります。大学研究機関同士なら、論文発表が成果になるケースが多く、そこでのオーサーシップが将来的なトラブルにつながる可能性があります。オーサーシップは最終的な貢献度に基づいて責任著者が決めることではありますが、少なくとも計画段階でオーサーシップについて協議しておくことをおすすめします。

加えて、共同研究を実施する際の費用の負担についても確認し合うべきです。多くの場合、双方の研究費を使って実施するか、一緒に外部資金を獲得することになるかと思います。一方で、大学研究機関と民間企業の共同研究なら、論文発表に加えて、特許や技術開発が成果となります。また民間企業が大学研究機関での研究費を負担するケースも多くあります。

異なる所属機関での共同研究の場合、共同研究契約や秘密保持などの手続きを完了した上で、共同研究を開始することになります。共同研究の開始が遅れないように、契約関連の担当者と事前に相談しながら進めるようにしましょう。

【ポイント】目標をクリアにして、win-winならスタート、win-winでないなら止める

実施

計画をしっかり立てることができれば、あとは計画通りに粛々と研究を実施するのみです。

ここで私がポイントだと考えていることは、「定例ミーティング」を計画しておくことです。定期的に関係者でミーティングを実施し、可能であれば議事録を記録しておくことで着実に共同研究を進めることができます。もし万が一予期せぬ事態が生じても密に情報交換していることで被害を最小限に対処することができます。共同研究の内容によりますが、私の経験上では、定例ミーティングの頻度は2-3週間に一度くらいがちょうど良いと感じております。また定例ミーティング自体が負担になってしまうことを避けるために、主要メンバーは必ず参加するとしても、参加できる時に参加するというようなフレキシブルな参加形態にしておくと良いかと思います。あと、ミーティングの最後に次回のミーティングの日程を決めておくとスマートに進めることができます。

【ポイント】進捗をこまめに確認し合うことでリスクヘッジできる

出口

前述したように、計画段階で出口を見据えておくことで、未然にトラブルを防ぐことになります。

学会発表、論文発表、知財化などいずれにの場合でも共同研究の成果に貢献した関係者に漏れがないように注意して進めましょう。また外部資金などで共同研究を実施した場合は、成果発表の際に謝辞などで記して外部資金提供元に報告する必要があります。ここまでのプロセスが共同研究として一連の流れになりますが、うまく成果につなげることができれば、次の共同研究に発展することも期待されます。

【ポイント】常に出口を意識することで次の一手につながる

3. 共同研究の事例

ここでは私の経験から、上手くいった事例と上手くいかなかった事例をそれぞれ紹介したいと思います。

上手くいった共同研究の事例

CASE 1:大学の研究者との共同研究で論文発表につながった共同研究

ある学会で先輩研究者とお互いの研究について話をしたことがきっかけでした。先輩とは異なる研究対象だったのですが、その間に共通のメカニズムがあり、新たな発見につながる可能性があるかもしれないという議論をしました。その後、先輩から連絡が入り、学会のときに話したアイデアを試してみようとのことで共同研究が動き始めました。改めて共同研究のアイデアを精査して、双方の技術をお互いの研究対象に適用するアプローチで進めることに合意しました。お互いの所属長から承認をしていただいた後に、お互いの役割分担、スケジュール、研究費の負担、さらにお互いの任期を確認した上で、共同研究をスタートしました。解析結果が出て論文の初稿までは2年間ほどかかり、私たちの分野としてはかなりスムーズに進めることができました。その後、関係する研究の進展のためすぐに論文投稿まで持っていけませんでしたが、投稿準備をしていたので投稿後はスムーズにアクセプトをいただきました。今思うと、共同研究の内容はアイデア自体がユニークかつインパクトがあったことに加えて、研究相手の方と長年のお付き合いからお互いの仕事に信頼ができたこと、事前準備として共同研究をスタートするまでにしっかり話し合ったことが上手くいった理由だと思います。着想から論文発表まで4年間かかった共同研究でした。

CASE 2:民間企業の研究との共同研究で特許出願につながった共同研究

知り合いからの紹介で、ある民間企業が持つ素材を活かした製品の開発を共同研究で進めたいという依頼がありました。お話をいただいた時点でどのような結果になるのか予想できなかったのですが、企業の理念や担当者の熱意に共感ができたので、まずは1年間の目標を立てて共同研究をスタートしました。当初はかなり手探りだったのですが、少し良さそうな結果が出てきたので、もう少し深掘りで精査することになり、追加で2年間の研究を進めることになりました。途中で担当者が変わりましたが、最終的に興味深い結果が再現良く得られたため、これらのデータをもとに特許出願に至り、無事製品としてもリリースすることができました。今思うと、共同研究の内容は不確定要素が多かったのですが双方ができることを一つ一つ積んでいったことが良かったと思います。また企業という組織としてのバックアップがあったので、途中で頓挫することなく進めることができました。私にとって民間企業との初の共同研究だったので、個々のプロセスから色々と学ぶ機会にもなり、とても良い経験になりました。着想から特許出願まで3年間かかった共同研究でした。

上手くいかなかった共同研究の事例

CASE 3:結果につながらなかった共同研究

留学でアメリカのラボに着任したばかりのとき、同じ研究グループのメンバーから依頼された共同研究でした。依頼してきた方は他の研究室に異動することになっており、進めていた研究を急ぎで論文にまとめている最中でした。その方の頭の中では結果が予想できる実験とのことで、簡単な実験だということで協力を依頼されました。協力したら論文に名前を載せるという甘い誘惑に負けて、特に内容を吟味することもなく二つ返事で引き受けてしまいました。隣の研究室の方から「こういった案件には気をつけろよ」と言われたことが今でも記憶に残っております。実際、依頼された通りの実験を試みたのですが、予想された結果にはならず、実験を繰り返して時間ばかり過ぎてしまいました。そもそもの前提条件で懸念されることが多く考えられたため、それらの可能性を一つずつ検証するという泥沼な状況でした。結果ありきで実験をするという、研究者が陥りがちな悪き慣習をたっぷり経験しました。最終的に私は何も結果を出すことができませんでした。論文にまとめる際、依頼した方はそれでも共著になってほしいとおっしゃってくれたのですが、私としては納得できず、共著にならず終了した共同研究でした。今思うと、予定調和の研究にただの労働力として協力する場合はもっと慎重になるべきでした。苦い経験ではありましたが、プラスに考えると研究者としての経験値を積むことができました。サブの研究プロジェクトとしてでしたが、依頼されてから1年間を費やした共同研究でした。

CASE 4:途中でやめた共同研究

当時私がいた研究室の所属長と隣の研究室の所属長からチャレンジングな研究テーマの話が持ち上がりました。相手方の担当者はこの研究テーマの分野を専門とする研究者であり、私がその方から教わることが多いという関係性で共同研究がスタートしました。チャレンジングなテーマであったため、なかなか結果らしい結果が出ずに時間ばかりが過ぎてしまいました。遅々として進まない研究に相手方の担当者も苛立ちを感じておりました。浪費する時間を取り戻したいと思ったのか、私に共同研究の内容とは関係がない実験を分担してほしいと頼んできました。その方は私よりも年齢もキャリアも上だったため、なかなか対等に議論できるような間柄ではなく、一方で共同研究内容とは異なる実験を隠れて進めることにも抵抗があり、とても困ってしまいました。そんなときタイミング良く上長に相談できる機会があり、難しいテーマであったということで、最終的にこの共同研究は取り止めになりました。今思うと、研究者共同を始める前に研究の枠組みや役割分担を双方が納得する形で設定すべきでした。後味が悪い体験でしたが、開始から5ヶ月で見切りをつけることができたので、共同研究のやめどきを決断するという貴重な経験ができたと思います。

以上の経験から学んだこととして、双方に求めている知見・技術・環境などを提供し合うwin-winの関係が必要条件であることです。研究は予測不可能な部分が多いので、たとえ上手くいかなくてもメリットがあると双方が納得した形にしておくことが得策です。また協議して決めた役割分担を超えて過度に相手に期待しないことが大切だと思います。

4. さいごに

多くの研究分野において個人でできる研究はずいぶんやり尽くされており、大きな発見やイノベーションにはますますコラボレーションが必須だと言われております。

共同研究により、あなたの研究がより一層エキサイティングになることを願っております。

今回の記事が日本のサイエンスに少しでも貢献できれば嬉しいです。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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