研究テーマの決め方
こんにちは、市橋です。
研究者としてやりがいがある研究に邁進しています。
今回、研究テーマに迷っている方に向けて書きます。
とくに研究者になろうと決心した方、すでに研究者として歩み始めたけど研究テーマを考え直したい方にとって、研究テーマをどのように決めれば良いのか迷うと思います。私も新しい研究テーマを考える時には常に頭を悩ましております。また研究分野を何度も変えてきました。そのような試行錯誤の末、少しずつ研究実績をあげ、自分の研究に心からやりがいを感じれるようになりました。
そこで、私が学部生の頃から模索してきた20年間の経験から、研究テーマの決め方について共有します。
1. 良い研究テーマとは?
良い研究テーマとは、ずばり
科学には長い年月の蓄積があります。また論文発表では研究者同士が審査するピアレビューにより、信頼性が保証されています。そのため、新しいアイデアでもこれまでの科学の蓄積を無視するような内容には厳しい評価が下されることになります。そもそもこれまでの先行研究で全く触れられておらず、完全に新しいアイデアを着想することはなかなかできないものです。長い科学の歴史の中で「こんなことも?」というアイデアでもすでに試されていたりします。
つまり、現在の科学の流れを無視して設定した研究テーマは、論文として発表することが難しくなります。論文で発表できないと、客観的な評価に基づく信頼性を示すこともできず、世の中で受け入れづらい研究になります。場合によってはエセ科学になってしまいます。
以上から、これまでの科学の蓄積を無視するような研究テーマにはしない、ということが大前提になります。一方で、これまでの科学の蓄積から誰でも結果が予測できるような研究テーマでは分野に貢献する度合いが少なく、インパクトが小さい研究として低く評価されます。
つまり、多くの方がその研究の価値を認める「Generality」とこれまで誰もなし得ていない発見や発明である「Uniqueness」のバランスが重要になります。
この「Generality」と「Uniqueness」のバランスが取れた研究テーマが、良い研究テーマになると私は考えるようになりました。それでは、どのように良い研究テーマを決めることできるのか、もう少し踏み込んで考えていきましょう。
2. Generalityを意識する
多くの方が価値を認める「Generality」がある研究テーマにするためには、まずは何が問題とされているか、その問題に対して何がすでに分かっており何がまだ分かっていないか、知る必要があります。
つまり、対象とする課題の背景にある研究のトレンドを読む必要があります。
その具体的な方法を4つご紹介します。
ロールモデルを見つける
私の経験では、分野を牽引する方から吸収することが最も効率的でした。現在活躍している方のもとには自然に分野の最新の情報が入ってくるような環境になっているからです。特に若い方は共感できる将来のビジョンを持った方に師事すると良いと思います。
現在では様々なところでシンポジウムや講演会が開催されており、研究者が発表する機会が設けられております。そのようなイベントに積極的に参加して、共感できるビジョンを持った研究者を探してみてはいかがでしょうか。
国際動向を知る
私の経験では、対象とする課題に関連する論文を100報くらい読むとおおよその研究分野のトレンドがわかると思っています。最初は専門用語を知ることから始まるため、なかなか読み進めることが大変ではありますが、数をこなすうちに理解できるようになります。最新の総説論文から入り、その総説論文で引用されている論文から広げていくのが良いと思います。
またSNSを活用して、最新の研究論文の情報収集も効果的です。
耳学問する
私の経験では、知り合いの研究者から重要な情報やヒントを沢山いただきました。一朝一夕で人脈を作ることはできませんが、少なくとも常にアンテナを張り巡らせることで重要な情報をキャッチすることができるようになります。
もちろん他人から聞いた話を100%信じてしまうのは問題がありますので、後から自分自身でオリジナルの情報を調べる等、しっかり確認するようにしましょう。
政策動向を知る
多くの研究者は実行していないのですが、政策動向を確認しておくことで多くの気付きを得ることができます。政策から研究開発に求められている方向性がわかるとともに、外部資金獲得に有利な情報を得ることができます。
難解なことと思うかもしれませんが、公開文書に目を通しておいて、キーワードを知っておくくらいでも十分有効だと実感しております。例えば、日本が目指す未来社会であるSociety 5.0について確認することから始めてみてはいかがでしょうか。
以上、研究のトレンドを読む方法をご紹介しました。
より理解を深めるためには、インプットだけでなく、アウトプットすることも効果的です。ぜひインプットした内容を周りの方と議論することで頭の中を整理していきましょう。
このような研究のトレンドの把握を疎かにしてしまうと、研究が進んだところで、「そもそもこの研究は何のためなのか」、といった根本のところで迷いが生じてしまいます。実際、過去の私や周りの研究者はこのような落とし穴に落ちてしまうことがよくありました。研究のトレンドが把握できてはじめて、研究テーマを決める素地が整うことになります。
3. Uniquenessを意識する
それでは次に、これまで誰もなし得ていない「Uniqueness」がある研究テーマにするため、自分しかできないことを追求する必要があります。
つまり自身の独自性を出す必要があります。
その方法を4つご紹介します。
自身の強みは何か考える
研究者として、あなたの強みは何でしょうか?
自身、もしくは自身が率いるチームの強みを客観的に評価した上で研究テーマを決めると決めやすくなります。ここで重要なことは、必ずしも自分の興味に固執するのではなく、客観的にみた自身の強みを使って研究分野にどのように貢献できるか考えることです。
若い方でまだ実績が少ない方でも、中堅や大御所には無い、時間や行動力などが武器になります。
テクノロジードリブンで考える
対象とする課題の研究分野でまだ実績がない方は新しいテクノロジーに注目してみましょう。
ご自身の研究分野で利用されていないテクノロジーであれば、ほぼ全員が初心者になるので、いち早く取り入れた方が有利になります。
また新しいテクノロジーであれば過去にすでに行われていたかどうか気にする必要もありません。ただし、従来の技術と同じ原理だけど操作が簡便になったといった新しいテクノロジーの場合もあるので、テクノロジードリブンで考える場合は、その原理をしっかり理解する必要があります。
分野横断で考える
近年では分野横断型の研究テーマが注目されていますので、異なる研究分野の融合を考えてみると良いでしょう。必ずしも個人で分野横断の研究プロジェクトの計画や実行をする必要はなく、共同研究等を通して他の分野の研究者と協力体制を築くことも検討できると思います。
また異なる研究分野間でのテクノロジーの重ね合わせも有効であったりします。
スケールを変えてみる
意外に盲点となっている視点として、サンプル数や時間等のスケールの大きさで特徴付けることもできます。
私自身もアメリカで研究していたときに従来の技術では実行しづらい大規模なサンプルを対象とした研究を行ったことがありますが、大きなスケールだからこそわかる発見があるんだと実感しました。
以上のような観点を意識することで、「Generality」と「Uniqueness」のバランスが取れた、良い研究テーマに辿り着くことができると思います。また良い研究を実行することは、将来のあなたにとって、研究者としての独自性とニーズを高めてくれます。
4. さいごに
研究テーマを決めることは、研究者人生を左右するほど重要なことです。
しかし、色々と考えているだけで、一歩も前に進まなければ、何もしていないのと同じです。研究テーマや研究分野は走り出してからでも変えることはできるので、研究テーマ決めにはある程度の期限を設けて、研究を始めましょう。
今回、実際に私が読んだ本の中から、人類の未来社会に思いを馳せた本をオススメします。
また、東大発ベンチャー企業の研究者・鈴木健吾さんの考え方から多くを学ぶことができました。
今回は以上になります。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。