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なんてことない誕生日(11/27)
今日は32歳の誕生日。誰とも会う予定はない。仕事が終わったら食器と本と服の店を眺めて歩いて、アンジェリーナのモンブランを買って、作り置きのおかずを食べて、ひっそりと年を重ねるつもりでいた。その予定で大丈夫なはずだった。
でも、日付をまたいで32歳になった瞬間、ドンと重力が襲ってきた。スマホが震えて「誕生日おめでとう」のメッセージが恋人から届く。うれしいはずなのに、うれしくない。いや、感謝の気持ちがあっても、喜ぶ気持ちになれない。もうこんな歳になってしまった。もう32歳なのに、結婚も出産もしておらず、仕事もペースダウン中の私とは……。どんどん考えが湧いてくる。……もう2年も付き合っているのにプロポーズしない彼氏とは別れるべきか? いや、結婚しない原因は私だろ……。でも料理ができない人と共働きで子育てなんて、無理じゃない? 家事負担が私にのしかかってくるの目に見えてる。あの人、明らかに家庭より仕事を優先させるタイプだけど、子育てと家事は「お手伝い」程度で「やった」雰囲気だけ出して、家計もきっちり割り勘にするつもりなんじゃないかな……怖すぎる……向こうが私の何倍も稼いでるけど、デートもいつも割り勘だしな……まあ割り勘でいいんだけど……共働き希望っていつも私に言ってるけど、女が正社員で働きながら家事育児する、その過酷さって理解してないよね絶対。そもそも最初から、共働き希望です! っていう男の人って地雷だったんじゃないか? 最初から避けるべき相手だったのでは?……いやでも「子どもができたら家庭優先してほしい」っていう男はもっと無理じゃない?? あー全部めんどくさい。やっぱ結婚なんてせずにお付き合いだけしてる今の状態が一番楽じゃん……
………エトセトラ、将来への不安が脳裏を駆け抜けていく。
いや待て待て。じゃあ菜々さんよ、デートは全奢りでタワマンのローン組んでくれて、「仕事はしてもしなくてもいいよ」と言ってくれる人が仮にいたとして、そういう人をあなたは好きになれるの?
うーん……すぐに好きになれそう……。
違う違う違う。そうじゃなくて、私が不安なのは、妊娠出産育児という一連の期間に、思うように働けなくなっても、ちゃんと守ってくれるのか? という点。共働き希望でいつも割り勘の男に感じる不安は、割り勘に対する不満ではなく、頼りがいがなさそうだという将来への不安感だ。子どもができても諸事情が許せばもちろん働きたい。むしろ子と家に閉じこもるのは精神衛生上向いてなさそう。だけどやむを得ず収入ダウンや失職したら? その時、出産できない男性ができるのは、お金を出すことと、家事分担くらいしかない。
そもそも具体的な結婚の話もまだ出ていないのに、先々のことを考えるタイミングじゃない。子どもを授かれるかどうかもわからないんだし。いまそんなこと、考えてもしょうがない。それに、この人と絶対に結婚するっていつ決めたの?
理性の部分では、彼は不器用ながらとても大事にしてくれているとわかっている。「これは嫌だからやめて」と言ったことは次からはしないでくれる。家事やお金のことは冷静に話し合えばよく、それで折り合いがつかなければ別れればいいだけ。そもそも、その前に自分が結婚できる状態を整えるべきであること。そして、こんな考え事は、暴力的な不安が起こさせる妄想に近いものなんだということも。
そうやって自分に言い聞かせても、思考が止まらない。「マトリックス」の緑色のマトリックスコードみたいに、ずざざざざざーーーっと雪崩を起こして眠れなくなる。
そして最低な朝。寝不足で仕事へ向かう。いつもは近所の席の人としゃべりながら作業するが、今日は眠すぎて会話に乗っていけない。
細かい仕事なので、ボーっとしていると、とめどなくミスをする。自分で何個か気づいて直したが、あとはダブルチェック担当に任せた。終業時刻になっても考え事が止まらないし、頭に靄がかかったまま。自宅に母親が用事を済ませに来るが、しばらく会わないことにしているので、色々お店を見て回る。
当初の予定通り、デパートの食器売り場でロイヤルコペンハーゲンのお皿を眺めて「はあ……素敵……買えなくはないなあ……」と思ったり、KEYUCAで現実的なキッチン用品を物色したり、ルミネで服を見たりした。でも、やっぱり寝不足なので身体が重い。昨日から引き続く考え事も、止まらない。アンジェリーナのモンブランを買って、早く帰りましょう。
帰宅すると、テーブルの上にLOFTの袋が置いてある。母のことだから何か誕生日プレゼントを買ってくるんだろうと思っており、少しだけ楽しみにしていた自分がいる。中身は赤いチェックのマフラー。驚くほど手触りがいい。母、私に会いたがっているんだろうなあ……。でもデザイン、ちょっと幼くないか? 私、32歳だよ? これ、中学生くらいでも使えそうなんだけど。母の中では私は子どものまんまなんだろうね……。
今年はいろいろあったので、母に会って喧嘩にならずにいられる自信は今のところない。今後絶対会わないとも思ってないが、しばらくは会わないつもり。マフラー1枚でほだされる私、ちょろすぎる。
そして、やっぱり一人でいるのは少し寂しい気がするから、Youtubeで整形アイドル轟ちゃんのチャンネルを開いておしゃべりを聞き、noteで早乙女ぐりこさんの日記を読んだ。ぐりこさんが今の私と同じ32歳のころの日記。今のぐーたらな私とは大違いのアクティブさで、仕事の傍らたくさん日記を書いて活動していて、すごすぎるの一言。頑張っている女性たちがネットに上げてくれた創作物のおかげで、少し元気が出る。
晩は、「有吉の壁」を観てにやにやしながらモンブランを食べた。おいしい紅茶も淹れた。スマホに通知が出て、恋人から夜の定例連絡。母のくれたマフラーは、手触りが良い。母を許すことができれば、きっとロイヤルコペンハーゲンのお皿を買ってくれるだろうに……。(クズすぎるという批判は、甘んじて受けましょう。)
今晩はうまく眠りたい。