〖五月の蜃気楼〗
きっと今日も何もない。
そう思って過ごしていた。
あれは幻だったのだろうか。
目が合った瞬間、気持ちが通じたのを感じた。
わたしは感がいいから、すぐわかる。
きっと向こうも、その時はそうだった。
いつから?
なにがあったのか
空気で一瞬でわかった。感がいいから、わたしは。
恋愛不適合者だって、ずっと前からじぶんでわかってたはずなのに。
また引っ掛かるとは。
現をぬかすとは。
自尊心はズタズタで、帰り道はとんでもなく冷たい空気に包まれていた。
わたしはまた、ふわふわした蜃気楼に惑わされていたんだ。
わかってる。
だけど手を伸ばしたくなる。
わたしはまた
きっとまた
蜃気楼のような誰かに
溺れていたい。