恋人はカフェテリア③ (カフェの色気)
あなたは動きのあるカフェに出逢ったことがありますか?
ゆったりとした時間が流れる中、ときおりスマートな風が吹くような。
やさしい卵色の表面とはうらはらに、妖艶で濃厚なソースがかくれんぼしているプディング。
いつの時代もさりげない演出は、こころをつかんで離しません。
その瞬間やうつり変わりが見たくって、おもわず長居をしてしまいたくなる。
また、来てしまいたくなる。
時間が止まったようなカフェとは、またひと味ちがう魅力があります。
そうそう、恋人がカフェになり始めると、必然的にいろいろな場所におもむくようになります。
なぜかというと、すてきな恋人は群れることを好まないからです。
恋人たちの性格はひとつひとつ、ちがうから。
そんな人達が皆こぞって一緒に居たら、それこそハーレムか、つかみ合いのケンカ(ちなみに英語ではこれを、キャットファイトと云います)になってしまうでしょう?
ま、それはそれでうれしいな、と思う方もいらっしゃるかもしれませんが。
――話が逸れてしまいました。
動きのあるカフェのひとつに、昼のさわやかな雰囲気を原始的な道具を使って、お色直しするタイプのものがあります。
時間がくると照明のトーンを落とし、店内のテーブルにあらかじめ設置してあるキャンドルに、そっとちいさな火を灯していく。
お風呂あがりの、ほおをすこし紅く染めた娘さんに早がわりです。
先日ふらっとお邪魔したカフェは、オープンテラスタイプのものでした。
一階はケーキショップ。
階段をのぼり、二階がカフェ。
中に入ると眼下には川が流れていて、見晴らしのよいスペースです。
――なるほど、よく考えてあるなあ、と心の中で膝を打ったことを覚えています。
せっかく蛇腹折りにしてたためるようにした窓も、となりに同じような高さの建物があってはお役御免。
ここは店のなかにスペースを作ることを目的とせず、そとに求めたタイプなのですね。
来店するお客さんも席につくと、ほぼ全員、自然と視線をそとに泳がせるようになります。
誰しも、知らず知らずのうちに羽根を伸ばしてしまうのです。
遠くを眺めることは、こころをゆるめる鍵ですから。
川のとなりを選んだのも、きちんとした理由があるのでしょう。
さりげない演出の裏には、男性店員の所作が非常にスマートだったこともあげられます。
鉄仮面のような表情をしていましたが、ひとりです、と言うことを告げると
「あちらの角はいかがでしょうか?」
と一人でもなるべく居心地が良くなるような、部屋角の二人がけ席へと案内してくださいました。(初めて訪れるカフェでは、こういうさりげない心配りがとても嬉しいとおもいませんか)
ふと、寒くなってきたなーと感じはじめたら、(もしかしたら午後17:00と決まっていたのかもしれませんが) 何も言わずその店員さんが、ゆっくりと、なるべく音を立てずに窓をしめてくれます。
見るとそこには巨大な窓一面に、やわらかな電飾光が咲いていました。
本日の舞台は、これにて閉幕――。
カフェの色気は、この動きの中にあります。
--ななびのちょっとしたあとがき--
偶然が運命に重なる瞬間というのは、じっさいに手や足を動かしたときだけなのかなあ、と私は思うのです。
素敵な場所に巡りあうには、きまって手間や時間が掛かるものです。
きっと、人だっておなじことでしょう。