抜け毛とわたし

私のいる場所には、必ず髪の毛が落ちている。

むろん私の毛である。暗い茶色の、真っ直ぐな、セミロングの髪。

朝起きると、布団の上に5,6本、私の髪の毛が落ちている。げんなりしながらそれを拾っているうちに、さらに5,6本見つかる。寝ている間に抜けたらしい。

包丁を持って、昼ごはんの準備をしていると、二の腕あたりにくすぐったい感触を覚える。気のせいか、虫でもついたかと腕を見ると、私の髪は腕から滑り落ちてふわりふわりと舞っている。

気になって拾いあげると、すぐそばにもう一本、それも拾い上げるとさらにもう一本…昨日掃除機をかけたばかりなのに、とげんなりする。

一番地獄なのはやはりお風呂である。シャンプーをして頭をごしごしした手に髪が4,5本、手を洗い流してまたごしごしするとさらに4,5本、何度やってもエンドレス。排水溝は一度のシャワーで、詰まりそうなほど抜け毛でいっぱいになって、シャワーと蛇口を切り替えるレバーの溝にまで髪の毛が挟まっている。それでも抜け足りず、ドライヤーをかけると髪は晩秋の落ち葉のようにはらはらと洗面所に舞い散る。私はハゲるのかと不安になる。

しかし、相変わらず、髪は多い。どの美容院に行っても、美容師さんはみんな髪多いですねえ、もっさり感をいかに抑えるかがポイントですねえ、と切りにくそうにする。とりあえずは、まだハゲていないらしい。

長らくショートヘアだったので目立たなかったけれど、そういえば子供のころから抜け毛が多かった。ぐっすり寝てしまった授業のあと、私の机は黒い毛でいっぱいだった。昼寝をからかってきた男子と抜け毛を数えたら14本あった。Mちゃん家のお泊まり会でも、後でMちゃんのお母さんに心配された。犬でも飼っている気分ね、と遠回しに。

つまり、髪の量が多いので、自然と抜ける量も多いということだろうか。それでは防ぎようがない。私はこれからも、髪の毛まみれの床に座り、毎晩髪の毛まみれの排水溝を片付けなければいけないのか。

いっそベリーショートとかにしたら目立たなくなるんじゃないかと思う。最近Twitterのニュース欄にそういう記事がよく出てくる気がする。でも私はああいうふうにはなりたくない。私の髪は、たしかによく抜けるが、きれいで真っ直ぐで、放ったらかしてもいつもツヤツヤで、周りの評判もいいし、自分でも気に入っている。ただちょっと、多すぎるだけだ。

いいものが多くあるんだから、といえば、少しは慰めになるだろうか。