有権者の量と質とは?
毎日新聞の記事が物議をかもしている。
これは、昨今のポピュリズム的な選挙や候補者の台頭にあわせた問題提起であり、若者に投票を呼び掛けて「量」を確保しようとする昨今の選挙動向を批判する記事となっている。
しかし、今一度、なぜ「量」が問題になったのかを確認しなければならない。
なぜ、有権者の「量」なのか?
そもそも、若者の投票率向上を目指す動きは、少子高齢化社会と相関があります。昨今の選挙における世代間の投票率の偏りによって、政治的な意思決定は特定の世代(高齢者)に偏る傾向があります。
量に注目する要因は、これらの世代間不平等を是正するという明確な意図があります。この「量」の増加は、民主主義における多様な意見を反映するために重要とされるため、「量」を確保することは正当化されます。
また、若者が投票に参加することで、将来にわたる政策形成に影響を与えることができます。しかし、現状は高齢者層の投票率が高く、政策が高齢者優遇に偏る傾向があり、若者の労働環境や福祉政策などは改善されていません。
若者の投票参加を呼び掛けることは、世代間の公平性を保つ上で重要です。
有権者の質をもって投票率の低さを正当化できるか?
記事は、有権者の質を維持するためなら投票率の低さも正当化できるような内容であると「感覚的には」捉えることができます。
これは必ずしも毎日新聞の記事を読むうえで正確な意図ではありません。
しかし、「有権者の質を確保するために低投票率で良い」という意見も少数ながらありますが、これは妥当な選択ではありません。
そもそも、民主主義において投票率の低さの責任の所在は有権者の問題だけでなく、政治家や制度の問題もあります。そのため、有権者個人を一方的に非難することは、問題の本質を見誤ります。
また、有権者の「質」とは誰が決定した「質」なのでしょうか?
記事の中ではドイツの政治教育などを事例にしていますが、効果的であるかは解釈によって異なると考えられます。また、こうした「質」議論は、選民思想を植え付け、特定の集団が政治参加から排除される懸念を生じさせやすいため、慎重に議論を尽くすべきでしょう。
また、政治教育によって有権者の「質」が高められるのならば、その努力を怠っているのはむしろ政治や行政側であることも注視しなければなりません。「質」の問題を有権者に求め、それを背景に投票率の低さを正当化するのは無責任極まりないです。
また、参加の平等性を確保するため、教育機会が均等に提供されていなければなりません。「質」に基づく批判は、こうした教育機会による社会的不平等が是正されて初めて成立します。
以上の事から、「質」という言葉が抽象的であり、どのような基準で「質」を評価するのかが曖昧です。どのような知識を持っていれば最低限「質」が保障されるのでしょうか?
この議論は、エリート主義的な排他性を助長し、社会を分断する可能性が高いです。毎日がそれを考慮せず、当該記事を「有料記事」にしているのは、まさしくエリート主義的な価値観に基づいていると言わざるを得ません。
質に注目しなければならない社会情勢
しかし、情けないことに昨今の選挙運動は、幼稚化・矮小化が進んでいるのも事実です。選挙運動員同士で暴力が生じ、逮捕者まで出る事態は健全な民主主義とはいえないでしょう。
政治的なイデオロギーの対立が激化し、敵対する陣営に対する感情が先鋭化することで、暴力的な行動や対立が発生しやすくなっています。東京都知事選挙などにおけるつばさの党や日本保守党の行動が最たるものでしょう。
メディアやSNSの発展により、政治がしばしば「ショー化」され、政策や理念よりも目立つ発言やパフォーマンスが注目される傾向があります。この流れは選挙運動にも影響を及ぼし、冷静な議論よりも感情的で対立的な行動を助長します。石丸伸二候補や兵庫県知事選挙におけるネット運動の過激化がその事例として挙げられます。
選挙における勝利至上主義が高まることで、手段を選ばない戦術や相手を排除する行為が横行し、結果として暴力や逮捕者が生まれる状況を生んでいます。
これにより、現行法制度では暴力的、扇動的な候補者を止める手立てがないため、有権者の質に注目するのは致し方ない部分もあるかもしれません。
量と質は対立しない
しかし、そうはいっても「量」と「質」は必ずしも対立するものではありません。多くの有権者が政治的な知識を持ちつつ投票に参加することが理想的です。そのため、「量」を重視する呼びかけと並行して、「質」を向上させるための教育や情報提供が必要です。
若者にとって「自分の一票がどう政策に影響を与えるのか」を実感させるような仕組みが求められます。たとえば、オンライン討論会や若者に焦点を当てた政策分析などを提供することが有効です。しかし、オンライン討論会は現状「分かりやすさ」や「パフォーマンス」で行われる場合が多く、どれだけ政策に還元されるのかはまだまだ不透明です。
有権者の「質」を正すのは良いですが、それ以前にまず数字至上主義に固執するマスコミの報道の質を正すことも必要でしょう。