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音楽を傍らに #シナリオアート


シナリオアートになりたい。以前私は本気でそう思っていた。
もちろん、現実的に考えてそんな可能性はまずあり得ないし、馬鹿げているとは思う。でも、本気で思ってしまっていたのだ。どうしてだろう。

まず、バンド名がいい。シナリオアート、響きがいい。
そしてそれを体現するかのように物語性のある歌詞と、カラフルで広がりのあるサウンド、その両方に心を掴まれて好きになっていった。

シナリオアートは男女ツインボーカルの3人組バンドで、メインボーカルとギターを担当するハヤシコウスケさんは人と接するのが苦手という。故にライブのように人前で歌うことも本来は得意でないらしい。同じく人と接するのが苦手で、人前では一切歌うことができなかった過去をもつ私は勝手にシンパシーを感じた。
人と関わるのが苦手、でも誰よりも人との繋がりを求めているような一面も曲から垣間見え、ステージでは内に秘めた思いを時にやさしい歌声にのせて、時に迫力満点に堂々とぶちまける。
温かみと揺らぎのある歌声は、リスナーをシナリオアートの世界観へ引き込むのに欠かせない。

同じくメインボーカルと、まさかのドラムを務める(つまりドラム&ボーカル)ハットリクミコさんは明るく元気なバンドのムードメーカー的存在。パワフルなドラムとボーカルで楽曲に華を添える。
初めて『ナイトフライング』のMVを見たときはそれはもう衝撃だった。ドラムを叩きながらこんなに歌えるものなのか、世の中にはこんなすごい人がいるのか、と。
でもパワフルなだけでなくとても繊細な一面も持ち合わせていて、それは彼女が作詞した歌詞(シナリオアートは3人とも作詞作曲する)や歌声にも反映される。
高い歌唱力で自在に曲を彩りつつ、ライブのMCでは関西弁のまったりトークで会場を和ませてくれる。

▶︎私とシナリオアートとの出会いの曲(MV)、『ナイトフライング』

末っ子リーダーのヤマシタタカヒサさん(通称ヤマピー)はベースとコーラスを担当。よく動くベースラインは聴いててとても気持ちいい。
コウスケさんとクミコさんがメインボーカルとはいえ、ヤマシタさんのコーラスもシナリオアートに無くてはならない特別な声だと私は思う。
SNSからは多面的に物事をとらえる冷静で聡明な印象も受け、リスナー思いのあたたかい発信には私も何度も励まされた。
他のバンドのライブに急遽サポートで駆けつけたり、自身のライブでは時折、彼と入れ替わりに謎のゲスト(『ジンギスカンフー』における陳さん)が現れるなど、各方面に顔が広く信頼も厚い。いちばん年下ながら彼がリーダーを任されているのも頷ける気がする。


2016年にリリースされた『エポックパレード』のMV制作においてはディレクターを務めた牧野 惇さんから「この三人、養子縁組したくなるくらい気持ちいい」とまで言わしめるほど、人としても魅力があり余る3人。
でもそれは完全無欠の聖人君子的な魅力というよりは、どこか不器用なんだけど愛しくて仕方ない……という類のもののような気がする。
コウスケさんいわく「3人」であることに拘りはないらしいけれど、なんとも絶妙なバランスの3人が揃ったものだなぁと思わずにいられない。


初めてライブに行ったときは、3人がほぼ横並び(特にドラムのクミコさんが上手側前方)という演奏スタイルにも驚いた。
鉄琴に笛、太鼓……、1人が複数の楽器をこなしたり、アコースティックライブ(行ったことはまだない)ではドラムのクミコさんが鍵盤を弾いてベースのヤマシタさんがカホン(箱状の打楽器)を叩くなど個々の演奏スキルに加えてマルチプレイヤーっぷりにも驚く。
常にお互いをリスペクトして公に褒め合ったり、ソロでの活動の際にも他のメンバーが自発的に駆けつけてスタッフや観客に徹するなど、メンバーの仲の良さ、信頼関係も応援したくなる理由のひとつだ。
音楽フェスで掲示されるフラッグ(参加アーティストたちのサインが寄せられる)では、いつもど真ん中にデカデカとサインを書いて存在を主張する威勢の良さも気持ちいい。


……などなど、まだまだ語り尽くせないけれど。
何よりも、音楽が大好き!を全身で表現する3人が大好きだ。3人がステージで笑顔でいるとそれだけでもう、幸せな気持ちになれる。
シナリオアートのライブはいつも多幸感に満ちているけれど、そこに至るまでには目に見えない苦悩も当然あるわけで。ここでいちリスナーが知る情報を事細かに記すのも野暮かと思うので明記はしないものの、ぶつかりながら、手を取り合いながらいくつもの危機を乗り越えてきたとても逞しい3人でもあるのだ。

そんな3人がライブで顔を見合わせて心の底から楽しそうに演奏する姿を見るたび、私もこの中に入りたい……いや、私も誰かとこんなふうに音楽を奏でてみたかったなと胸を焦がした。
実際にバンドを組んでみたことは過去に何度かあったものの、技術面でもコミュニケーション面でも上手くいかなかったから。
誰かと何かを成し遂げてみたいのに、人と関わるのが苦手。そんな私にとって、お互いの「得意なこと」や「足りないところ」を補い合いながら進んでいくシナリオアートの関係性は憧れそのものだった。


シナリオアートの音楽や歌詞には、ファンタジーな世界観が多く描かれている。
物語を読むような音楽はまさに「シナリオ」であり「アート」でもある。

 記憶が1日で消えてしまう男性と、そんな男性に心を通わせようと寄り添う女性の物語を綴った『ハジメマシテ

 地球最後の一日をどう過ごすかを空想する『ラブマゲドン

 黒い雨から君を守るヒーローになりたいと願う『ホワイトレインコートマン

 消えてしまいそうな「君」を探して、歌よ届けと想いが駆け巡る『ハロウシンパシー

 深い夜に閉ざした心の窓を叩いて、さあ行こうよと音楽の世界へ誘い出す『ナイトフライング

 思春期の焦燥感や孤独と邂逅をツインボーカルを活かした会話形式で展開させる『アオイコドク

 「消えたい」という思いや、たくさんの痛みを吐き出す『フユウ


どの曲もメインボーカル二人の声がめまぐるしく入れ替わり重なりながら、ドラマチックな曲展開で世界観を盛り上げていく。
シナリオアートが描くファンタジーは、リアルと背中合わせだ。現実逃避的に見えて、そこには現実を生き抜くための切実なメッセージが込められている。そしてそのメッセージは年々ストレートに、リアル寄りになっているように思う。
メジャーデビューや上京したことで感じた理想と現実のギャップ、求められることとやりたいことの狭間で揺れ動く矛盾した気持ち、自分を見失いそうになる日々。
そういった様々な苦悩や葛藤を経て、「もっといろんな人に届けたい」という思いが開けていったことの表れなのかもしれない。

その延長としてなのか、2018年には所属事務所、所属レーベルからの独立という大きな決断をしている。3人がこれからも3人らしく音楽をつづけていくための前向きな決断ととらえ、私も心でエールを送った。
歴代の衣装たちに囲まれて、3人お揃いの白い衣装を纏い手には花束。「これまで」への感謝と、「これから」への祝福が込められたような新しいアー写も発表された。


そして、新曲『シーユーネバーランド』

〈ワクワクしていたいの その代償は大きくとも〉

〈僕の詩で 僕の言葉で あなたとどこまで行けるのでしょう〉

〈どこへだってあなたは行ってもいいんだ〉


会社を辞めて、ネバーランドに別れを告げる。
でもシーユーは「また会おう」だから、とても前向きな別れで、新しい出発でもある。
これからも変わらずに変わっていくよ、という清々しい決意が感じられてその眩しさに私も勇気づけられた。


そんな紆余曲折を経たシナリオアートの最新アルバム『EVER SICK』が、昨年の4月にリリースされている。
独立後初、また2ndフルアルバムからは3年ぶりのリリースであるため当然気合いが入っていたことだろう。
けれども、その頃すでに未知のウイルスの脅威がじわじわと生活に影響を及ぼし始めていた。
アルバムリリースの翌日というタイミングで緊急事態宣言が全国へと拡大し、自粛生活が余儀なくされる中SNSではメンバーのリアルな嘆きに自分の無力さを感じてやるせなくなるなど。
けれど、アルバムのトップバッター『スターサイドシンドローム』を聴いて私は驚いた。

いつか いつの日にか 笑い話にしような
こんな虚しいこと なかったことにしような


この曲が作られたのは、新型コロナウイルスが蔓延するよりも前のはず。なのに、まるでこんな世の中になることが分かっていたかのようなタイムリーな言葉が並んでいたから。

また、コウスケさんが「ほんとはこんなことを、歌ってしまいたくないけど、歌わざるを得ない」と語る楽曲『ブルーカラー』では

誰も言わないから 僕が言ってやるよ
「現代には希望はない 夢なんてまやかし」
希望なんてないよ 未来なんてないよ
奇跡なんてないよ 光なんてないよ
希望なんてないよ どこにも落ちてない


と、辛辣な現実を叩きつけるように歌う(歌っているのはクミコさん)
けれど最後には〈それでもなんとか 暮らしてゆくだけでいいよ〉と締めくくる。
このアルバムはきっと、希望や光だけじゃ生きられない人にも寄り添う力をもっている。そう思わせる説得力があった。

『EVER SICK』というアルバムタイトルは「持病」という意味をもつ造語で、収録されている曲はあらゆる病気をテーマに制作されたという。
「◯◯症候群」や「◯◯病」、アルファベットの並んだ名称。
年々、いろいろな特性や生きづらさに名前がつくようになったと感じる。自分もそのいずれかに該当するのでは?と思ったことも数えきれないほどあるし、「こんなに辛いならいっそ、私のこの生きづらさにも名前がついたらいいのにな」と思ったことも。その一方で、安易にカテゴライズされることへの不安や抵抗もほんの僅かにある。

きっと誰しも目に見えない苦悩や欠陥を抱えているのだろう。それらを時にコミカルでファンタジーに、時にシニカルでリアルに描いた今作は、「生きづらさ」を抱える現代人への処方箋のようなアルバムだ。
ある意味普遍的ともいえるそのテーマは、シナリオアートが今までにもずっと歌ってきたことだった。疫病の蔓延でさまざまな問題が浮き彫りになった今、より多くの人に届くメッセージとなり得るのでは……。
アーティストにとっては無念なタイミングでのリリースだったかもしれないけれど、あの時期だからこそこのアルバムに救われたリスナーもきっと多いはず。

アルバムリリースから1年余りが経過した現在。新型コロナウイルスは未だ収束の兆しが見えない。
そんな中、『スターサイドシンドローム』の新アレンジバージョンの映像が7月10日に公開された。


元のアレンジのイントロは、どこかワクワクと胸が高鳴るような感じさえある。繊細な心情を明るくポップに彩るサウンドは、心の奥底にしまった感情を裏側から照らし出してくれた。
ニューバージョンは、歌詞が持つ本来の仄暗さを真正面から炙り出すようなアレンジになっている。ハモりパートはよく耳を凝らさないと聴こえないほどに抑えられ、メインで歌っているのはコウスケさんだ。
声がより「近く」に感じられて、それによって歌詞も一言一言より響いてくる。
歌詞を投影して言葉を“見える化” した映像からも、「ことば」をより届けるためのアレンジなのだなと思った。
リリースから1年以上が経った今、この曲を再び新たなアレンジで世に送り出した理由を考えずにはいられない。

世の中のネガティブな出来事や感情をいちいち過敏に感じ取ってしんどくなったり、塞ぎ込んでしまう、それでも誰にも言えず声を上げられず、自分の心の置き所や、居場所が分からなくなってしまうような人がいる。
シナリオアートはこれからも、そんな声にならない声を上げる人たちの存在を敏く感じ取って、また歌にしていくのだろうな。
こんな時代だからこそ、届くべき人に届きますようにと切に願う。

いつか いつの日にか 笑い話にしような
こんな虚しいこと なかったことにしような


このフレーズをはじめて聴いたとき私は、2016年に行われたワンマンツアー『シンカイヘ』の大阪公演を思い出した。
ライブハウスを潜水艦に見立てて、観客とともに「失った心を取り戻す深海への旅へ出る」というコンセプトのもと進行されたライブで、少しずつ深海へ潜っていって再び浮上するようなセットリストが印象に残っている。
ライブ本編で最後に演奏された当時の最新曲『エポックパレード』は、まさに苦悩のどん底からの浮上を祝福するような曲だった。

パレードをはじめよう
鳴り止まない祝福
何でもない今日を
迎えられたあなたに 贈るよ


私はこの曲を聴くと時々泣きそうになってしまう。とても明るくて、幸福感に満ちた曲なのに。
ライブだと3人が本当に幸せそうに演奏するから、尚更だ。

何気ない今に 祝福を
目の前の愛に 気付けたら
何者にも なれない自分も
それも僕だって 愛せたら

少しは優しく なれるかな
不器用な日々も 笑えるかな
今 この瞬間が 特別だって 歌いたい


シナリオアートにとっても、バンドや個々人の危機を乗り越えた先で鳴らした大切な一曲なのだと思う。

こんなに異常な この世界に
適合なんて しなくていいよ
世界不適合者 それでいいんだ
新しい価値観で 歩こう


〈新しい価値観で 歩こう〉は、「自分の価値観で歩く」という言葉にも置き換えられるような気がする。誰かの言葉や多数派の言葉じゃなくて、自分で選んで決めていいんだよというメッセージに聴こえた。

MCではコウスケさんが「一緒に深海へ潜って悲しみや苦しみを置いてこよう」というようなことを話していたけれど、私は置いてこられず抱えたまま浮上したような感覚で帰路についた。この悲しみはどこにも置いていけそうにないから、抱えたまま行こう、と。でもそれは決してネガティブな感情からじゃない。

そして、スターサイドシンドロームの歌詞〈こんな虚しいこと なかったことにしような〉を聴いたときにも、やっぱり私は虚しいことも寂しいこともなかったことにはできない、したくないのだなと改めて気付かされた。
コウスケさんの言葉には添えなくなってしまったけれど、それはそれでいいのかもしれない。大切なのは、自分が何を感じたかだと思うから。
そうやって自分で感じて選んできたことが積み重なって、自分なりの「生きやすさ」になっていくのかもしれない。


シナリオアートの音楽はいつも、人の中にある弱さも強さも、情けなさや優しさも肯定しながらリスナーと同じ目線で並走してくれているような身近さがある。
絶望を突きつけながら希望を歌い、綺麗事なんてと言いながら綺麗事を信じている。己の無力さを嘆きながら、「君」を救いたいとつよく願う。
完全無欠なヒーローではない、その曖昧さが心づよい。すぐには答えを出せないことが多すぎるから、揺れ動く感情も大切にしていいんだと今まで何度も勇気づけられた。

「未来は明るいとか、大丈夫とか、夢は素晴らしいとか手放しで歌うのはとても無責任だという事。自分が一番よくわかっていて。だからこそ本気で伝わる表現を考えた。このアルバムが聴く人の心に寄り添える事を信じてやまない」 

ーアルバム『ハッピーアンブレラ』より
音楽で世界を救えるはずないだろう?とか
笑われて バカにされて
それでも歌っていれるのは 救われた 僕がいる
信じている 魔法のミュージック

ーナイトフライング
〈正解は いつだって 君が決めるんだ〉

〈人と同じじゃなくていい
ハグレヒツジよ 未来を変えてゆけ〉

ーナナヒツジ
僕がもらった 朝の光を あげるからさ
あなたも 誰かを想って 与えて 与えて
僕がもらった 夜明けを あなたに あげるからさ
繋げていこうよ 少しずつ 希望の 光を

ーアサノシズク


多くの人が「良い」と言うものを「いい」と思えなくてもいいし、ましてや「いいと思えない自分がおかしいんだ」と自分を卑下する必要もなくて。
周りと違うかもしれないって落ち込む必要もない。みんなと同じじゃなくてもいい。
でも決してひとりよがりにはならず、時に分け合いながら、目の前の人に寄り添い手を差し伸べながら生きていきたい。でもそれはきっと簡単じゃない。
そんなとき、何かを大きく変えることはできなくても、ほんの少しでも踏み出すきっかけや勇気を後押ししてくれるような力が、音楽にはある。
シナリオアートは、そんな音楽の力を信じているのだと思う。

入れ替わり立ち替わり飛び込んでくるネガティブなニュースに気が滅入る日々だ。
世界のこと、世間のこと、個人のこと、その全てを真正面から受け止めていたら身も心ももたない。
けれど、見て見ぬふり出来るほど鈍感にもなれなくて。
あっちに心を痛めては、こっちで感動したりして、感情が忙しく疲弊。自分って何なんだろう?油断するとバランスが崩れそう。
世間ではさまざまな声が渦巻いて、時に対立して、何が正しいのか分からなくなる。自分の心の置き場が分からなくなる。
音楽の世界へ一時避難したくなる夜も多い。

そんなとき、ここに居場所があるよと歌ってくれるのがシナリオアートだ。

また辛くなったら 遊びにおいでよ
きれいごとばっかり 言ってあげるよ
きみは大丈夫 きっと大丈夫
いつもそう 言ってあげるよ
だからさあ 笑っていてよ…

ーワンダーボックスⅡ


「大丈夫」って、誰かに言いたいし言ってもらいたい言葉だなと思う。でも、なかなか無責任に言えない言葉でもある。
シナリオアートはそれを「きれいごとだよ」と前置きした上で力強く叫ぶ。

ワンダーボックスⅡ』は、ライブでセットリストのいちばん最後に演奏されることの多い曲。
ライブでこの曲を聴くたびに夢から覚めないといけないような名残惜しさが押し寄せるけれど、それを振り払うように、悔いがないようにとリスナーが全力で拳をあげる光景はグッとくるものがある。
楽しい時間はずっとは続かない。でも「きみは大丈夫」と言ってもらえることでまた明日からもがんばってみよう、と帰路にあたたかい余韻を残してくれる。おみやげみたいな、お守りみたいな曲だ。

↑いちばん観てほしいライブ映像


私が最後にシナリオアートのライブに行ったのは、2016年に関西医療大学にて行われた学祭ライブ。現在4歳の娘がまだお腹の中にいた頃だ。
その後は子育てやいろいろでライブから遠退き、そうこうしているうちに世界には新種のウイルスが広がって外出やライブが制限される未曾有の事態となっていった。
そうした制限の中でも、シナリオアートは自分たちにできることを模索し続けているように見えた。
これまでにもいくつものバンド的危機や個々人の苦悩を乗り越えてきた3人だから、心のどこかで「シナリオアートは大丈夫」と思ってしまっていたのかもしれない。
1年ほど前、Twitterでベースのヤマシタさんがこんなことを呟いていた。

『いつかは行きたいと思いながら仕事とか身体とか家庭とか色んな事情でまだライブハウスに来れない人がいるのも知ってる。自分たちはいま何もしなければ来年や再来年にそんないつかを多分作れないからそんな人達ともきっとまた会えるようにライブもイベントも出来ることはやっていこうと思ってる!』


いろいろな理由で今はライブに行けない、行かない選択をした人たちの思いまで汲み取った言葉にうれしく思いつつ、頭をガーンと殴られたようなショックが走った。

「自分たちはいま何もしなければ来年や再来年にそんないつかを多分作れないから」
その言葉に、ハッとしてしまったのだ。
未曾有の事態においても、バーチャルライブはじめ無観客ライブの配信、感染対策の上での有観客ライブ、毎年恒例のアコースティックライブ、そして新作グッズの制作などと精力的に活動をしてきたシナリオアート。
もちろん、中には延期や中止を余儀なくされたライブイベントもあるけれど、どれだけ「不要不急」と言われようと歩みを止めず、音楽を止めずにやってきた。でも、それらはきっと当たり前の事じゃなかった。

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▶︎画像は2020年5月31日に行われたバーチャルライブの様子(スクショ、拡散許可あり)


「死」をももたらす新型ウイルスと隣り合わせの生活は、良くもわるくも自身の生き方を見つめ直すきっかけになった人も多いのかもしれない。
この一年、音楽の世界においてはライブハウスの閉店やバンドの解散、メンバーの脱退といったニュースも多く見かけた。

この1年ほどの間、どれだけの人が何度「いつか」と唱えてきただろう。
家族や友人と「いつかまた会おうね」
旅行やライブに「いつかまた行こうね」
いつか行きたいお店、いつかやってみたいこと、「いつかきっと終わる日がくるから」

いつか、いつか、いつか……
うわ言か祈りのようにそう繰り返す間に、一体いくつの「いつか」が叶わぬ夢になってしまっただろう。
このまま大好きな人やものや場所が目の前で消えていくのを、終わっていくのを、ただ黙って眺めているだけでいいのか。眺めているしかできないのか。

例えばシナリオアートが末永く音楽をつづけられるように、いちリスナーである私に少しでもできることって何だろう。
CDやグッズもあまり買えない、ライブにももともとそんなに行けない。そんな私にできることって言ったら…… こうして「書く」ことしかないような気がした。
いろんな立場、状況、ありとあらゆる人の思いに想像を働かせても、わからないことがたくさんある。
それならせめて私が見てきたことを、感じたことを発信したいと思った。

書いて何になるんだと思われるかもしれない。届くかも分からない。いちリスナーである自分が何かを大きく変えられるとも思わない。そもそも文章とか書いてる場合なのかな、と何度も筆が止まりそうになった。
それでも、思いを形にすることは自分にとっての救いでもあるから。
この文章でシナリオアートの魅力を少しでも伝えられていたら、うれしい。

書きながら、しあわせな記憶が次々掘り起こされていった。言葉にすることで、アーティストや楽曲がもっと好きになったり、自分でも見過ごしていた気持ちに気づけたり、とても幸せな時間だった。
やっぱり私はシナリオアートが好きだと改めて思ったし、「いつか いつの日にか」必ずまたライブに行くんだと強く強く思う。
その日まで、この気持ちを絶やさずに持ちつづける。それがきっと今の私にできること。私にとって大事なこと。
これからも私は私なりの方法で好きな人やものには好きだと伝えていきたい。そうやって紡いだ言葉もまた、現代を生き抜くための糧になっていくのだろうと信じている。

シナリオアートには今でも憧れるし、私は相変わらず人間関係やコミュニケーションには自信がないままだ。
けれど、私はもう「誰か」になる必要はない。
こんな自分だからこそ出会える人がいるし、こんな自分だからこそ心を震わせられる音楽があるのだから。

永遠なんてない 有限の日々で
まだ見ぬ景色を 見れるかな

ートウキョウメランコリー
いつか いつの日にか わかる日が来るから
いつかの その日まで 鳴らし繋げ 鼓動を

ースターサイドシンドローム


自分らしく生きることを模索しつづけるその日々の中に、これからもシナリオアートはじめ大好きな音楽を傍らに、この現実をなんとか、かんとか、生き抜いていこうと思う。
今はそれでいい。それでいいんだ。


いつか いつの日にかまた、多くの人がいろんなことを不安なく、心から楽しめる日が来ますように。



✳︎



こちらの文章をrockin'on.comの音楽文にて掲載いただきました。

※サービス終了に伴い、来年の3月31日で全ての作品が掲載終了となります。それまでは読めます。好きなアーティストさんの名前で検索してみたら、素敵な文章に出会えるかも。

音楽文にシナリオアートの名前が載ってる…… ただそれだけで嬉しくて、言葉にできない感情でいっぱいです。
ずっと書きたかったシナリオアートのこと、最後に書けて、掲載していただけて。
やりたいことはやりきったと思うので、私個人においては悔いはありません。
あとはフォロワーさん方の投稿文が報われることを願うばかり……。


【おまけ】ライブの思い出

シナリオアートは現状、私がいちばんライブに足を運んだアーティストです。
(BUMP4回、Perfume1回、amazarashi1回、シナリオアートは5回 ※配信、ライブビューイング除く)
BUMPも4回ライブに行けてますがこちらは18年間で4回なのに対し、シナリオアートは好きになって1〜2年ほどの間に5回なので、ほんと私にしてはかなりのハイペースでライブに足を運んでいたことになります。

チケットが比較的リーズナブルな価格だったことも理由として大きいけれど、好きになりたての特に気持ちが熱い頃にたくさんライブに行けたことは私にとって幸運でした。

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中途半端感が否めないけれど、チケットのスクラップブッキングとかもしてました(普段あんまりこういうことしないんですけどね)

↑の写真左は初ライブのGLICO LIVE “NEXT”
『ナイトフライング』や『ワンダーボックスⅡ』など、聴きたかった曲が聴けてとても幸せでした。
ライブ後、物販に並んだらクミコさんご本人が立ってらしてど緊張。
前の方がサインいただいてて、私も……と思いつつも勇気が出せずそのままグッズ(シナリオアートはグッズもかわいいよ)だけ買ってお辞儀して顔を上げたら、クミコさんが両手を差し出してくれてて握手……。うれしかった。変な声出た。

右側の対バンライブ『ハグレヒツジハオオサカニ』は駆け付けたときには既に対バンの2組はほぼ終わってて…… なんとかシナリオアートだけは観られました。
『ワンダーボックスⅡ』で始まった意外なセットリスト。
クミコさんの『ホシドケイ』弾き語りが忘れられない。


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チケット驚きの1126(いい風呂)円、なのに出演者がめちゃくちゃ豪華な野外ライブイベント『ヤングライオン祭り´16』
シナリオアート以外にも素敵なアーティストをたくさん知ることができました。
野外のライブは初めてで、5月なのにめちゃくちゃ暑かったけどとても楽しかったのでいつかまた野外フェスとか行ってみたいな。


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初めて参加したワンマンライブ『シンカイヘ』
これは入場(乗船)のパス。手が込んでる。

水の音のようなSE、テーマパークのようなナレーション、途中にはトラブル(演出上のアクシデント)もあり、まるでアトラクションのような様々な仕掛けや演出にワクワクしました。

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最後に行ったのは、関西医療大学の『関医祭』での無料ライブ。
アンコールで最後に聴いた『ワンダーボックスⅡ』は今でもお守りです。
そして、ライブ後の物販にて念願のサインをいただきました。
私から勇気を出したのか、クミコさんが自発的に書いてくださったのかあんまり覚えていない……。
緊張しててまともに喋れなかったけれど、そんな私にもクミコさんはとても優しかったです。


そして、シナリオアートは本日渋谷WWWにてライブです!

感想ツイートなどを楽しみに、私も遠くからライブの成功を応援しています。



こちらはシナリオアート結成10周年、それぞれの10年を振り返るインタビュー記事。
シナリオアートの現マネージャー、シキさんとの出会いについても。
ところでこのインタビューページのデザイン?とても読みやすくていいな。

喋るの苦手っていうより、頭のなかで自分で勝手に会話してて、そこを言葉に出さずに端折っちゃうんです。頭が宇宙すぎて言いたいことが全然伝わらないんですよね。

(インタビュー記事より、コウスケさんの発言)

このインタビュー記事は音楽文を書いて投稿し終えたあとに見つけて読んだんですけど、コウスケさんのこの発言にまたまたシンパシーを感じてしまった。5月6日生まれはそういう感じの人が多いのでしょうか。
私も、自分の頭の中で会話して返事して会話した気になってることがたまにあるので。
言いたいこと伝わらないし、誤解を招くし。
でも、それを「おもしろい!」って言ってくれる人もいたりするんですよね。ありがたいな。

10年以上一緒にいる夫ですら、いまだに私のこと宇宙人扱いしますので筋金入りです。自分では人間だと思ってるんですけどね。アダハダエイリアンかもしれません。



最後に、1万字に収まりきらなかった思いはプレイリストに込めたので、もし少しでも興味をもっていただけたなら是非聴いてみてください。
曲順とか、どう繋いだらいい感じかなとか、それなりに拘ってみたのです。自分でもお気に入りで最近は毎日のように聴いています。
(Apple Musicの人しか聴けないのかな……?)

全部聴くと30曲(2時間17分)ありますけど、どれもいい曲です。
プレイリストに入りきらなかった曲もいい曲たくさんなので、是非あなたのお気に入りに出会ってみてくださいね。


そして今夜0時、新曲『アイマイナー』が配信リリースされるとのこと。こちらもぜひチェックしてみてください。私もたのしみ。


シナリオアートの音楽が届くべき人に届きますように。こんな時代だからこそ、より強くそう思います。


最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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