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少しずつ、落ちた葉が増えていく。昨日は5枚だったのに、今日は7枚も無意識に踏んでカサッと音が鳴る。秋はもうすぐそこで、彼はもう終わる。

体育館に響くドリブルの音が好きだった。ランダムに流れるバッシュの音が心地よくて、その音の正体に気づいた時にはもう手遅れだった。そのあとの記憶はもうほとんどない。5年後、「きみはいつも正しい。だから敵わなくてつらいんだ」と言われたあの日から何年経っても、ずっと分からないままでいる。かっこいいと思うことを無意識にできることこそ大人なのだと真剣に言った彼や彼女たちを隠れ蓑に、これが正義だと言い聞かせていた。

欲しいものがあるならば、守りたいものがあるならば。それに向かって恥ずかしくないほどに向き合う以外の方法なんて考えることもなかったし、手を抜いて得られるものなんてまさかあるのか、と信じて疑うことなんてなかった。一度ラッキーを経験したらそう思ってしまうものなのか、そうだよな。そうだよな?いまだに共感できないことがいくつもある。「だからきみは春樹なんだよ。一生分かってくれないと思うけど」と彼が言い放ったことが頭をよぎる。いまだに全然分かっていない。

好きなことがあるというのはなによりも尊く、ただしそれは荘厳というわけでもなく、自由に選択できる権利であると言うだけだ。ただし、好きなことを選ぶというのは相応の覚悟が必要だという大人に憧れてきた結果、例に漏れずそれを選択し続けている。選ばなかったものも、選んだことである。選択とは覚悟だ、と誰かが言っていた。言い聞かせているだけかもしれないけれど。でもそれは、継続するという意ではない。

たまに悪が勝つ、なんて。悪が勝つかもしれないなんて恐怖を、絶対に与えてはいけない。正しいものを、欲する人に届ける。だれかの、真剣で純粋な夢が、ただしく叶うこと、守られること。失敗しないという意味ではない。ただ、まっすぐで、まじめで、真剣な彼彼女たちが自信を持っていられること。必要以上に傷付かず、すこやかに過ごしていられること。あなたが東京にいるというだけで、わたしはこの孤独から救われている。少し高級で甘ったるいケーキを独り占めしたりして、それすら笑って話せる日がきっとくる。

何度だって言う。過去と、今の自分だけが未来のあなたを救い出せる。なにかあったときに護ってくれるものは、現在進行形のなかにしか存在しない。だから、なんだって捨てる。きっと彼は、それを知らせるために、この尊い秋をまもっているのだ。だって、きみは正しい。

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Nana
読んでくださってありがとうございます。今日もあたらしい物語を探しに行きます。