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罪深い過去
はやく気づけばよかったと思う。ただそんなものは、あの頃に戻っても気づかない。気づかなかったことこそが事実として残り続ける。そこにあるのは繰り返される現実、不可逆性だけだ。
複製されてしまった過去ほど罪深い。一度しか体験できないはずの過去が濃縮されて、思い出す確率が高まってしまうから。でもだからこそ、わたしはいつまでもフィルムカメラを手にしているのかもしれない。
境界線があればまだよかった、と思う。というか、境界線があるということは恵まれていることかもしれない。その先は永遠か別離の二択でしかない。
あの朝のことを、今でも鮮明に思い出す。高すぎる天井の窓から朝日が照らした2つの静態は無敵だったように思う。あの日は多分、いちばんうつくしかった。ただ、自身の眼差しによる風景はまったく思い出せない……というか、そこにいる瞬間からすでに空間ごと捉えて、その絵をうつくしいと思ってしまっていたのだと思う。だからあまりにも儚く、多分どこかの映画のようで、だから何も言えなかった。
目を開いた瞬間にきみという社会と接続していたはずなのに、と思う。ピントを合わせられなかったのか、それとも2人はあそこに存在すらしていなかったのか。
よわい。ただ、誰かのために強くなれるならそれでいいとつぶやく。その言葉にゆっくりと、静かにうなずき、それがむしろ強さだと彼は言う。
きみは壁を乗り越えない、壁に隠れたちいさな隙間を見つけて通り抜けてしまうようだ。壁を壊さなくても、乗り越えなくてもその先に行けるなんて。だからきみはずっと、僕の“すごい“を更新するんだ。
パラレルワールドになってしまった、あったかもしれない現実の数などはかりしれない。寒い冬になると思い出してしまう彼の言葉が風と過る。選ばれなかったものに儚さを感じてわたしたちは、ついつい思いを馳せてしまう。ポエジーと見間違える、空回りの創作。
きみの過去になりたい。とつぶやきながら向けられた眼差しはあまりにも切なく、そして、そうなってしまったからと伝えられない、ということそのものが過去であること。きみが複製してしまった過去はあまりにも罪深く切ないものだと、きみが思い出さないようにと願いながらいつまでも言い続けるのだと思う。きみはなんにもなれるんだ、なんて、ときどき思い出しながら。
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