連載小説「オボステルラ」 【第二章】49話「リカルドの人生」(3)
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そのリカルドが階段を降りてきた。ゴナンも続いてくる。
「あら、あなた達も今から晩ごはん? ついさっき、ミリア達も出かけたわよ」
「ああ、いや、ごはんはもう済ませたんだけどね。ちょっとゴナンと、外で話がしたくて」
ナイフの問いかけに、穏やかな微笑みを浮かべてリカルドが答える。いつもと同じ風だが、少しピリッとした緊張感を感じた。一方でゴナンは、なぜ外に行くのかよく分かっていないようだ。リカルドはナイフに尋ねる。
「ナイフちゃん。手持ちの発光石ライトかランタン、ないかな?」
「? ああ、ライトがあったと思うけど…」
カウンターの奥の棚から、発光石のライトを見つけ出す。かちり、と仕掛けを回すと光が灯った。
「ちゃんとつくわね。これでいいかしら」
「うん、ありがとう。借りるよ」
リカルドは笑顔で受け取り、ゴナンを外へと導く。
「いってらっしゃい、夜道に気をつけてね」
「いってきます…」
「……」
腕組みをして二人を見送るナイフ。今夜は、リカルドと飲むことになりそうな予感がして、割れずに残っている酒瓶を棚から物色し始めた。
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「ねえ、どこに行くの?」
ゴナンは、言葉少なに歩みを進めるリカルドに、そう尋ねた。宿屋街や食堂街を通り過ぎてしまっている。てっきり、どこかのお店に入るのかと思っていたゴナンは、いつもと違うリカルドの雰囲気を不思議に感じていた。
「…あ、ああ。ごめんね、勝手に進んで。ほら、あそこだよ。ロベリアさんが卵のニセモノを持って逃げた、丘の上」
「ああ…」
確かに、歩みは東の方へと進んでいる。やがてお店や家が少なくなっていく。街灯もなくなり、夜は真っ暗なこの道。リカルドはライトをかざしながら、登り坂を歩いて行く。
「でも、なんで、そこに?」
「あんな場所があるの知らなかったけど、なかなか景色が綺麗な高台だったでしょ。それに、僕の予想が正しければ、多分、素敵な風景が生まれているはずだから…」
「……ふうん?」
そう説明して、また無言になってしまったリカルド。よく分からないが、とにかくゴナンはリカルドについていく。いつもはゴナンの横で歩幅を合わせて歩くリカルドも、今日はなんだか、先を急いでいるようだ。
しかし、あのときはロベリアとヒマワリを追いかけて無我夢中で走っていたが、ゆっくり歩くとなかなかの距離だった。40分程歩いて、ようやくあの丘が見えてきた。
「あ、やっぱり。予想通りだった」
そう言ってリカルドはライトを消した。すると、丘の中腹に、キラキラと地面が光っている場所が見える。
「うわ、星が落ちてる!」
ゴナンはそう言って、その輝きの方に駆け出す。
「星が落ちてる…。ふふ、いい表現だね。ゴナン、足元、気をつけてね」
「大丈夫だよ、俺、夜目も利くから」
リカルドもゴナンの後を追った。
光が散らばっているのは、大きな岩の周りだった。ヒマワリが卵のニセモノを割って砕いた場所。ということは…。
「あ、これ、あの卵の石が光ってるの?」
「そ。ミルクゲートの石はね、日光をため込んで、夜にほのかに光るんだ。その神秘性があるから、宗教のご神体なんかにも使われるんだよ。こっちの方ではあまり流通していない石なんだけどね。あの帝国の男達も、このほのかな光を不思議に感じて、逆に本物だと信じてしまったのかもしれないね」
そう言って、リカルドは岩の上に腰掛け、ゴナンに隣に来るよう誘った。横に座ると、星の雫の中に自分が座っているような心地になる。
「わ……。すごい。キレイだね」
「…ヒマワリちゃんも随分、派手に石を割ったものだね。もともと砕けやすいもろい石ではあるけど…。相当、腹を立てていたもんなあ」
思い出してクスクスと笑うリカルド。
「ほら、ゴナン。街の明かりもキレイだよ」
「うん、それに……」
ゴナンは空を見上げた。真っ赤な彼方星が、煌々と輝いている。そういえばこの街に来て、彼方星を見上げることがなかった。街が明るすぎて星が見づらかったせいもある。でも、確かにずっと、空で輝いていたはずなのに。
「……俺、結構、いっぱいいっぱいだったんだなあ」
星を見上げてようやく、ゴナンは自分の状態に気付いた。リカルドは「そうだね」と笑った。
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