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連載小説「オボステルラ」 【第二章】30話「襲来」(2)
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と、そのとき。
「ただーいま」
と、噂のヒマワリが帰ってきた。今日は、まだオフモードで普段着、化粧もしていないが、胸はすでにたわわに膨らんでいる。
「おかえり……。…胸、入れてきたの?」
「そ! ちょっと改良してきた! この前ずれちゃったから、多少動かしても、ずれにくいようにね。『中身』もバージョンアップした」
「中身……」
そう言って、胸の詰め物を揺らすヒマワリ。もともとゴナンに負けず劣らず華奢な体格のため、化粧をせずともそれだけですっかり女性に見える。中身のバージョンアップ、とは、触感のことだろうか…などと、例によって真顔でそれを見つめながら、リカルドは尋ねた。
「お給料はそこにつぎ込んでるの?」
「まあ、他にも、いろいろね。いつ何時もきちんと稼動させるためには、細かなメンテナンスは大事だからね」
「稼動って…」
と、ヒマワリはナイフの手元を見る。ちょうど、ゴナンに食べさせるカーユが出来上がったところだ。
「あ、ゴナン、今日も食べるって?」
「ああ、カーユのおかげかわからないけど、熱が少し下がったよ。ありがとう」
「へえ、よかったねー。あれ食べると何で治るんだろう、不思議だよね」
そうあっさり言って、ヒマワリは店の裏の寮へと戻っていった。そのサバサバ具合が、妙に気持ちの良い人物である。
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「ゴナン、カーユできたよ。……っと」
リカルドはカーユを持って2階の部屋に戻ってきた。すると、ベッドサイドの椅子にミリアが座っている。
「ミリア。おはよう。お見舞い?」
「ええ。今日はゴナンが少し元気に見えるわ」
リカルドの声に反応して、ゴナンがゆっくり体を起こす。
「うん…、昨日までより、かなり楽になった」
「そうなのね。よかった」
そう言ってミリアは、ゴナンの額に手を当てる。
「でも、まだ熱があるようね」
「……」
うつむき無言で頷くゴナン。ミリアはリカルドから、カーユの器とスプーンが乗ったトレイを受け取った。それをゴナンに渡そうとするが、手を止めて、じっと器を見る。
「……?」
「わたくし、結局ゴナンの看病が何もできていない。何も役に立っていないわね。わたくしが食べさせてあげる。はい」
そう言って、ミリアはスプーンでカーユをすくって、ゴナンの口に近づけた。ゴナンは少しギョッとした様子で、無言でそのスプーンを見つめる。
「……」
「わたくしが風邪を引いたとき、お兄様がこうやって果物をすったものを食べさせてくれたの。いつもの何倍も美味しく感じたわ。これできっと、食欲がもっと湧くはずよ、はい」
「……」
さらにスプーンを近づけるミリア。ゴナンは無言でスプーンを見ていたが…。
「……自分で食べられるよ」
そう小さく言って、奪うようにミリアから器とスプーンを取った。その勢いに少し驚くミリア。ゴナンはそのまま、無言でガツガツと食べ始める。
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(……おや…)
リカルドは心の裡でニヤリとしながらも、いつもの笑顔でミリアに声をかけた。
「…じゃあミリア。ゴナンの寝間着や下着の洗濯物がたまっているから、洗濯の手伝いをお願いできるかな? もちろん、君は自分で洗濯なんてする必要はない身分だから、もし嫌でなければだけど…」
「もちろん、お手伝いするわ。洗濯の仕方を教えてくださる?」
「……せ、洗濯は、自分でするよ……!」
ゴナンが慌てて、そう口を出してきた。また少し驚くミリア。リカルドがなだめるように答えた。
「今日はだめだよ。治りかけが一番危ないって言ったでしょ? 無理しないで。気にせず、僕らに任せて」
「……」
少し不満そうな表情で、無言で頷くゴナン。ミリアは首を傾げている。
「じゃ、僕らは裏の水場に洗濯に行ってくるから、食べ終わったら薬を飲んで、ちゃんと休むんだよ。お皿はそこのテーブルに置いておいてくれたら、あとで下げておくよ」
そう言って、ゴナンの洗濯物を持ってミリアと共に部屋を後にするリカルド。階段を降りながら、ミリアは不思議そうな顔をした。
「わたくし、あまり看病をしたことがないから、ゴナンを不快にさせてしまったのかしら」
「ああ、心配しないでいいよ」
リカルドは少し楽しそうに微笑む。
「あれは15歳の男の子の、ごく普通の反応だよ。ふふっ」
「?」
顔が赤く見えたのは、きっと熱のせいだけではないだろう。
少し達観してる雰囲気さえあったゴナンだが、年相応の反応を見られて、リカルドは少し安心した。
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