連載小説「オボステルラ」 【第二章】31話「襲来」(3)
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裏の水場で洗濯をし、洗ったものを干したリカルドとミリアが『フローラ』に戻ってきたところで、ちょうどお昼になった。同じタイミングで、買い出しに出ていたキャスト達が帰ってくる。カウンターの中で準備をしていたナイフは、ロベリアを呼び止めた。
「ロベリアちゃん、ちょっと話があるんだけど、いい?」
「あ……、はい……」
「というか、今日はもう、オンモードなのね」
緑髪のロングのウィッグにパンツスタイルのドレスも着込み、化粧も済ませているロベリア。
「え、ええ。今日は早く目が覚めて、時間があったから」
「そう…?」
リカルドも2人の話に同席するためミリアを部屋に戻そうとしたところで、ミリアは階段の方に目を向けた。
「あら、ゴナン。降りてきて大丈夫なの?」
「え、ゴナン?」
リカルドが驚いてゴナンの方に向かう。手には、カーユを完食し空になった器。リカルドはゴナンの額に手を当てる。
「まだ熱があるじゃないか。動かない方がいいんじゃない?」
「うん、でも、ずっと寝てるだけなのもしんどいから。寒気もなくなったし、少し下で座っていたい」
徐々に元気が出てきているようだ。
「わかった、じゃあ、ソファに座ってて。きつくなったら寝てしまってもいいよ。僕が上まで運ぶから」
そう言ってリカルドは、器を受け取って一番隅のソファにゴナンを導く。何となく、その隣に座るミリア。ロベリアも心配そうに見ている。
「ソファで大丈夫? 膝掛けも持って来ようか?」
「うん、大丈夫。ありがとう」
ゴナンがそうお礼をいう。じゃあ…と、ナイフとロベリア、リカルドは話をするために、テーブル席に座る……。
ーーーー。
ーーその時であった。
「邪魔するぞ!」
ドスの利いた声が店の入口から聞こえてきた。続いて、武装した男達が10人近く、ぞろぞろと押し入ってくる。
「……ちょっと、うちのお店の営業は夜からなのだけど」
ナイフはキッと睨みながら、男達の方へと進み出た。
「2回もご来店くださってるのに、知らないわけないわよね」
男達のうちの4人は、昨日も来店した帝国人風の男達だ。しかも今日は、本格的に武装している。リカルドも立ち上がり警戒するが、剣を自分の部屋に置いてきていることに気付いた。ラウンジの奥では、ゴナンがミリアの前に守るように立つ。
「うるさい。我々は探し物をしているだけだ。ここにあるはずだ」
そう言って店の中へと歩みを進める。
「それさえ見つかればすぐに立ち去る。よし、やれ!」
リーダーらしき男の号令で、男達は一斉に、店の棚やカウンターの裏などを荒らし始めた。探した場所を破壊し、家具を壊し、酒瓶を根こそぎ床に落として割っていく。ただの家捜しではない。
「ちょっと!」
ナイフは男の一人に手をかけ止めようとする。が、男は剣を抜いてナイフに振りかぶった。瞬間、その前にリカルドが立ち塞がる。
「リカルド!」
ナイフはリカルドの首根っこを掴んで引き倒しつつ、軽やかにカウンターで男の頭に蹴りを入れる。一発で床に伏す男。ナイフの敵ではない。
「リカルド、あなた、武器も持っていないのに、無茶しないで。切られるところだったわよ! 私の方が強いんだから」
「ごめん、ついつい…。ほら、僕は、大丈夫だから……」
「……あなたね……」
と、仲間が一人倒されたことに反応し、他の男達が一斉に剣を抜く。
「貴様、何をする!」
「何をする!はこっちのセリフよ。先に仕掛けてきたのもそちら。わざわざ、そんな大人数で剣を抜いて強盗するほどの金銀財宝はうちにはないわよ」
そう言いながら、倒れた男の手から落ちた剣を、リカルドの方に蹴り滑らせる。
「せめて、なぜこんなことをするのかを教えて欲しいのだけれど」
「こいつがいるからだ。トムス!」
男の一人が、店の裏に逃げようとしていたロベリアをトムスと呼び、捕まえていた。ドレスを引っ張って床へ引き倒し、そしてウィッグを剥ぎ取る。
「こんな気持ち悪い変装をしやがって、なかなか見つからなかった……。でも昨日、素顔で買い物をしているところを見かけたんだ。この店に入るのも確認した。夜は、なぜか見かけなかったが……」
「離せ…。私は、何も知らない……」
「嘘をつけ、お前が卵を盗み出して国を出たことは、分かっているんだ!」
(……卵……!?)
その言葉に、リカルドは戦慄した。
(巨大鳥の卵のことか? エルラン帝国に、卵があったのか? いや、それを『得ている』ということは、もう誰かが願いを叶えて……?)
↓次の話
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