毒舌 「すっぽん三太夫」シリーズ 「預金って“雑収入”?? 眠った預金を取り戻せ、の巻」
「休眠預金活用法」なる法律があるのをご存じだろうか。
塩漬けになった預金を公共のために、という趣旨には諸手を挙げて賛成だが、忘れてはならない。この「休眠預金」、本来は銀行と交渉すれば返還されるものである。
かなり前の話に遡る。当時登場した静脈認証カードを作ろうと、みずほ銀行の某支店を訪れたときのこと。
口座開設の書類を受け取った銀行員はなにやらコンピューターの端末をにらんだ末に奥へと消え、そして戻ってくる時にはその眉間に小さな縦皺を寄せ、小難しい表情を作っていた。
「あの、お客さま、当行でほかの支店にも口座をお持ちでいらっしゃいますよね。それをひとつにまとめていただかないと新たに口座は作れないことになっておりまして…」
心当たりがない。
「あれっ、みずほに他にも口座なんて持ってたかな?」
理由が判明。銀行同士の頻繁な合併以前に、富士や第一勧銀などに存在した口座がメガバンク「みずほ銀行」に集まっていたのである。
ならば、その残高はどうなっているのかと問い始めると、銀行員はにわかに狼狽し始めた。
奥の課長席とを頻繁に往来した末に、こう告げた。
「これまでのものは解約されておられましたので大丈夫です」
腑に落ちない。
「生まれてこのかた、銀行の口座は作れども一度も解約したことはありませんよ。今あなた、口座を解約されてましたって言いましたよね。それって顧客に無断で解約したってこと?コンピューターの画面見せて」
気圧された銀行員は思わず口を滑らせた。
「あっ、あの~雑収入で処理して…」
「雑収入!?」
いきおい鼻息は荒くなる。
「休眠口座なので雑収入で処理して…」
「休眠口座ってなに?」
銀行はある一定の年月の間に入出金がない口座は「雑益編入対象」として、個人の口座から銀行がプールする管理に移してしまう、と。これが「休眠預金」であり、今般成立した法案が対象とする財源である。
「でも、1円2円かもしれなくても、それ、私の財産でしょう。それを口座に出し入れがないからといって、支店の雑収入に勝手に計上してしまうというのは、横領まがいじゃないの?」
銀行員は、こちらの目先を変えさせようと「すぐに新規口座を開設できますから」と必死。
新規口座を作れるのならばそれでよしと、押し問答に疲れ、その場は矛を治めた。
注意すべきは、この忘れられた預金は〝休眠〟ゆえに〝解凍〟も可能だという点。
後日、友人の銀行員に改めてこの件を訊くと、彼は笑ってこう答えた。
「『休眠口座』で雑収入に? ああ、それ、口座が冷凍されちゃったんですよ。支店には使われない個人口座がいっぱいたまっちゃうから、そうして処理しないと維持コストがかかるばっかりなんです。銀行側の都合ですけど」
昨今、ある一定の預金残高以下の口座には口座手数料を課すという議論が現れたのも理解できる。
ちなみにみずほ銀行では、
①5年間利息決算以外の入出金がない残高千円未満の預金口座
②残高に関わらず、十年間利息決算以外の入出金がない預金口座、が処理の対象となる。
前出の銀行マンは続ける。
「一応本人に通知を出すんだけど、引っ越したりしてて本人に届かないことが多いですね」
だが、未達であれ、みずほ銀行では「通知が到達しなかった時でも、通常到達すべき時に到達したものとみなす」(普通預金規定第十二条)。
「そういう口座は時間をかければ〝解凍〟できなくはないんですが…手続きに時間がかかるとか言ってすぐには出さないですけどね。要は個人口座って、銀行にとって手間ばかりの雑役雑務なんですよ」(前出銀行員)
そういえば、窓口の銀行員はこうこぼしていた。
「…けっこうありましてね…」
全国津々浦々の、銀行の支店という支店で「けっこう」〝没収〟されてる個人資産が、年間最低でも数百億円に上るのだ。そして、この慣習はもちろん、みずほだけでなくあらゆる金融機関で行なわれてきた。
ある警視庁の捜査員に「休眠口座で銀行とのトラブルはないのか」と問いかけると、こう答えた。
「いろんな支店に預金持ってる老人が、それを忘れてることは多い。ところが、年寄りが死んで家族が通帳を見つけて銀行に行くと、同じように口座が解約されてるケースが結構あって、警察に相談に来るケースがある。聞いたのでは、1億円っていうのもあったよ。それで、銀行も客がうるさく騒いだ時だけ対応するんだ。でもやっぱり一番多いのは、死んだ後に誰も休眠口座の存在に気づかないで、そのまま銀行のものになっちゃうことかな。相続の手続きで口座照会をかけても、休眠口座については基本的には答えないからね」
たしかに、ある銀行の支店を訪ねると、十年以上のものは記録を保管していない、と言われ、追い返された。
「それは各支店に保管していないのであって、それぞれの銀行の中央のデータセンターや倉庫には、十年以上前のものでも保管されている場合がありますよ。ただ、それを取り出すのが手続きも含めて大変に面倒なので、支店ではそう対応するんです」(前出銀行員)
記録が判明すれば、銀行は基本的にはこの休眠預金の返還には応じてくれる。(ただ、担当者次第では極めて老獪にあしらわれる可能性があるので、決して簡単ではない。しかも法律が成立した現在はなおさら…)なにしろ、私は一年近くもかかって、数千円を返還させたのだから。ただ、対応を余儀なくされた銀行はいわずもがな、私にとっても、作業対成果の〝コスパ〟に見合った返還額だったかは不明…(苦笑)。