【アニメ感想】たまこまーけっと〜たまこラブストーリー
山田尚子監督作品ということで以前から観たいと思っていたら、『きみの色』公開に合わせてようやくHuluで配信された。
アニメを最近見始めた自分にとっては無名のタイトル。
監督、シリーズ構成、キャラデザが『けいおん!』と全く同じでも、これほど知名度に格差が生じるのか…。
それも含めてどんなものか楽しみだった作品。
たまこまーけっと
日常系かなと思いきや唐突に現れた喋る鳥でファンタジー要素がぶち込まれる。
どこまでがファンタジーなのか分かるまでは、いかに制作陣への信頼があっても半信半疑。
3話のエピソードで口下手な史織さんが想いを伝えるまでが丁寧に描写されており、ようやく方向性が見えて面白くなってきた。
デラがいることで日常の中に一つのアクセントが加わったようにも思えたけど、いつの間にかデラの存在すらも日常に溶け込んでて、彼が必ずしもエピソードの中心にいるわけではない。
エピソード自体にも劇的なものはなく、たまこの周りで起きる出来事とその心理描写を丁寧に描いていった印象。
この何にもない感じは『けいおん!』に通ずるものがある。
平和で暖かくて、居心地が良くてずっと浸っていたくなる。
たまこの母親が亡くなっていることを絡めた感動エピソードを盛り込んでもおかしくないけど、たまこの口ずさむ曲が母親に向けた父親自作の曲だったというほっこりエピソードで胸がジーンとくる程度に留めている。
終盤で玉の輿騒動があって初めてたまこが話題の中心になったような。
ここでようやく彼女が深掘りされていった印象。
スタンプカードを貯めて喜んでいたり、周りが玉の輿で勝手に盛り上がっていることに怒ったり、感情が現れてきた。
商店街という狭い世界で充分満足していた彼女が、商店街の魅力を再確認し自分の意思で玉の輿を断る。
何気ない日常の中にも幸せは存在していて、無理に環境を変える必要はないということか。
変えたいものと変えたくないもの。変えられるものと変えられないもの。『きみの色』のあの文言みたい。
『けいおん!』と比べるとキャラは薄めだけど、かんなちゃんだけ異様にキャラが濃かったな(笑)
最初はちょっとウザかったデラも終盤には好きになってた。特に語りが。
OP、EDの映像はさすがです。魅せますね。
スキップせずに毎回観たくなる映像。
たまこラブストーリー
もち蔵とたまこの文字通りのラブストーリー。
デラが全然出てこないことに中盤くらいでハッと気づいた。
彼がいないただの青春物語に見入ってた。それもまた良き。
告白直後のたまこのリアクションが面白くてかわいい。
たまこの心が乱される姿は新鮮。
友人達それぞれの役回りもいい。
「気持ちを伝えるべき」とたまこに進言するのが他でもない史織さんというのがね。
もち蔵からの告白後、しばらく気まずかった2人が病院の待合室でようやく言葉を交わす。
始めは1人ずつ映すことで2人の距離がわからないけど、その後2人の画があってイス1つ分の距離があることが判明する。
この演出もあって印象深いシーン。
ずっと2人を繋いできた糸電話。ラストシーンはそれを使っての「大好き」。
本当に素敵です。
このシーンのために糸電話というアイテムを出したのではと思うくらい。
悪い人が出てこない温かい世界。
劇的な展開がないとは言ったものの、それは他のフィクション世界と比べてであって、現実世界と比べりゃ劇的よ。
喋る鳥がお妃候補を探しに来て、その様子を見に来た異国の子がしばらくホームステイするなんて。
そもそも向かいの餅屋の子同士が幼馴染で、あんなにアットホームな商店街があって…ってその時点で理想郷だよ。
自分が求めているのは温かい世界なんだな…。冷たい現実を生き抜くために…。
心理描写にリアリティがあって共感できるからこそ世界に浸って楽しめる。
一度世界に入ったから、今後は気軽に見返せる。そんな作品が増えたのが喜ばしい。
「いつでもどうぞ」的な雰囲気で迎え入れてくれる温かい世界。
これも『けいおん!』に通ずるものを感じる。
日常系アニメってこうやって楽しんでいくものなのでしょうかね。