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掃除道〜心を育てる掃除〜

学校で掃除。
多くの人が嫌がることだろう。
しかし、掃除は非認知的能力を鍛える場になりうる。
・友達との協力
・思いやり、親切心
・見る力
・自制心
・公徳心
ザッとあげるだけでもこれだけある。
しかも掃除は毎日ある。
これを活用しない手はない。
なぜ掃除が重要かについてこちら(心と行動の隔たりを埋めるもの)で詳しく述べている

掃除でまず彼らに語るのはその魅力だ。
私はカストーディアルの話をまずする。


カストーディアル

まずは簡単なところから。
スリーヒントクイズ的に子どもたちにクイズを出す。⑤あたりで「あ〜!」とほとんどの子が分かりだす。
誰もが知っている夢の国「東京ディズニーランド」だ。

ディズニーランドの年間来場者数は3255万人。これは東京の人口の約2.5倍だ。
ディズニー氏は「夢と感動をプレゼントすること」を目標としていた。

そのために、最も力を入れているのが掃除だ。

ディズニーランドの掃除担当キャスト、カストーディアルは朝から晩まで300人ずつ15分毎に交代し、その数は7000人に登る。
ナイトカストーディアルが閉園後も掃除をする。
つまりディズニーランドにおいて掃除をしていない時間はないわけだ。
夢と感動をプレゼントするために掃除に力を入れている。

そのカストーディアルはキャストとしても絶大な人気を誇り、見事な掃除で来場者を楽しませる工夫は見る者を飽きさせない。
ディズニーランドはどこに行っても汚いところが何一つない。
だからこそ、夢の世界に没入できるのだ。

カストーディアルの目標は、赤ちゃんがハイハイしてもいいくらいきれいにすること。
ここまでこだわることが「夢と感動」の一因となる。

クラスの掃除目標も
「赤ちゃんがハイハイしてもいいくらいきれいにする」こと。

夢や感動を感じる見事な学校に、「君たちが」していくんだ。


この授業は先行実践も多い、見事な授業だ。
その日の子どもたちのやる気は凄まじい。
床を舐めてもいいぐらいに磨く。

しかし、それが続くのは数日で、次の週になれば勢いは鎮火する。

そこで、自問清掃について教える。


自問清掃

自問清掃は自分に問い掛けなが掃除をするというもの。

基本的なルールは3つ。

・しゃべらない
・注意しない
・休んでもいい

自問清掃を無言清掃と言う人もいるが曲解だ。黙ってやる行動に価値があるのではなく、どれだけ自分の心を我慢できたかという自分を振り返ることに価値がある。
黙ってやることが大事なのではない。
無駄なおしゃべりをグッと我慢する自制心や注意したい気持ちをグッと堪えて、自分が代わりにやる。率先垂範の意識を持つことこそが自問清掃の価値だ。(詳しくは「子どもが輝く魔法の掃除」平田治著をご覧いただきたい)

本来、自問清掃は学校全体で取り組むものだが、そこまではひとクラスの判断では難しい。そこで、私なりに実践をしてみた。

具体的にはまずは心の中の3つの玉を磨くことを意識する。

①がまん玉
②みつけ玉
③しんせつ玉

がまん玉とは、自分の怠ける心や人を注意したい心をグッと堪えることだ。口ではなく行動で示す。全てを我慢するのではなく、ありがとう、よろしくね、価値ある言葉はどんどん使わせる。

このがまん玉でまずつまづく。思ったより無駄な話を子どもたちはしているものだ。

みつけ玉は、ゴミを見つけること。子どもたちは掃除をしたと思っても、多くの場合まだゴミが残っている。やることに重点が置かれ、掃除することがおざなりになっている。
みつけ玉はそんな、ゴミを見つける力を養おうという目標だ。

みつけ玉を意識するとそれだけでまず、隅っこのゴミやつまようじでしか届かないゴミに気づき始める。彼らの掃除すべき世界がどんどん拡張されていく。これこそがみつけ玉を磨く価値だ。

しんせつ玉は注意しないと関わってくる。
注意は学級に不要だ。注意とは、立場が上のものから下のものになされる。学級においては対等な関係が、正義の名の下にバランスを崩す。
本当に必要なのは注意ではなく「教えること」のはずだ。正しい方法は何か教える。
注意しないというのは、正しい行動を自分がお手本になって伝えようということ。そしてそれは、相手の足りないところを見つけて、自らがフォローに行くということ。親切を見つけることが率先垂範を高める。

これはそのまま道徳的行動だ。見事な行動をほめたたえ、助け合える学級には欠かせない関係性である。


この3つを意識させ、掃除後に毎回確認する。
今日の掃除はどの玉を意識したか。
どのくらい達成できたか(ABC)。
時には振り返りを書かせて学級通信で紹介する。
こうして、掃除による心の成長を片付けていく。

そうすると、みるみる彼らは掃除を上達させていく。
掃除は誰でもできる。特別支援学級の児童もどんどん参加できる。
そもそも、掃除はやるだけで清々しい気分になれるものだ。その清々しさに気づかせる方法の一つが自問清掃なのだ。

と、ここまで書くと「そんな上手くいかんやろ」という声が聞こえてきそうだ。

もちろん、これだけでうまくいくはずがない。
実践とはもっと泥臭いものだ。


できない子①集中力がなく遊ぶ

これが最も多い。そんな児童は、何よりもまず一緒に掃除することが重要だ。正しい姿を教師が見せる。教師との人間関係が適切であれば、一緒にいる時間に遊ぶことはまずない。
担任がいないところで遊ぶならば、まずは担任がいるところでできるようにすべきだ。
そこでやり方や自信をつけてから、手を少しずつ話す。
できないならできないなりに、スモールステップを踏ませねばならない。


できない子②そもそもやる気がない

こちらは難しい。ある程度やっていて、それ以上掃除をすることに価値を感じていない児童だ。
やればそれでいい。日本人らしいと言えばそれまでだが、自問清掃が目指すのは「掃除の達成」よりも「自己の成長」だ。
そういった子にもまずは、一緒に掃除する。
その上で、少し話す時間を設けるのも一つの手だ。
「掃除についてどう思っているか」
詰問するような形ではなく、その子の本音を引き出してあげたい。
また、こうした子によくあるのが、「必要以上にどこを掃除したらいいかわからない」ということだ。
そんな子には、オプション掃除のやり方や他の掃除場所を手伝いに行ってもいいことを伝える。

当然、他の掃除場所に行けば、感謝される。そうした、自己有用感がやる気をさらに加速させてくれる。


1学期終業式の記録

4年生1学期の終業式。
ここまで掃除に力を入れてきた。
だからこそ、最後にもう一歩進んだところで終わりたかった。
そこで一工夫加えた。

全校の大掃除は25分。
その時間は全員で教室をピカピカにする時間に。
この時間だけでも素晴らしい掃除だった。
多くの子が水ぶきを持ち、そこら中をふく。

自問清掃の力が確実にここで発揮されていた。
手持ち無沙汰な、何をしていいかわからない子はいない。
みな、自分が自分のできることを探し掃除をする。26人が1つの教室を15分間掃除し続ける。普通なら人が多すぎて邪魔だ。
しかし彼らは何の文句もなく、掃除を終えた。

ここで確信できた。彼らならもっとやれる。

教室を終えてから、全員集めて話をした。

「学校の大掃除はここまで。
君たちの掃除はまだまだすごいところまでいける。
ここから第二部を始めるよ。
今、他クラスは掃除を終えて学活してる。

でもそれはチャンスだ。どこでも掃除できる。

今から15分間どこの掃除をしてもいい。
君たちなら大掃除した後をさらにピカピカにできるはずだ。

学校のどこでも掃除してきてごらん。」


彼らの目が輝き、熱く燃え始めた。

「先生、ほんとに『どこでも』いいんですか!?」

もちろん。

合図とともに意気揚々と学校中に散らばる。

ろうか、階段、保健室やパソコン教室、手洗い場。

本当に学校中の至る所を掃除していた。
中には今までやったこともないトイレ掃除をやる子まで現れた。
「トイレにやり方が書いてあったからそれを見たらできたよ。」
6年生向けの手順書を見つけ、読んで実行したらしい。

帰ってきた彼らの顔は自信と達成感に満ち溢れていた。
「これが本当の掃除なんだよ」
心の底からそう思ったし、そう伝えた。

掃除後の休み時間、ふと教室を見ると教室の隅でつまようじでゴミをとっている子がいる。山盛りのほこりを手にとり私に見せてくれた。

基礎を積み重ね、自信をつけた子どもたちを自由な場に解き放つととんでもない力を発揮する。
まさに教師が不要な瞬間だった。

掃除に力を入れてきた1学期の終わり方としてこの上ない終わり方ができた。


終わりに

泥臭いやり取りを何度も続け、何度も振り返りを行い、道徳の時間に話し合いをさせる中で、掃除の価値を高めていく。
彼らの多くが1学期頑張ったことに「掃除」をあげた。
間違いなく、とんでもないレベルまで達してきている。

掃除道のタイトルはイエローハット創業者鍵山秀三郎氏の著書から引用した。
鍵山氏はこういう。
「毎日掃除をするからこそ意味があります」

掃除の価値は年々下がっている。
コロナもあり、毎日掃除をしている学校も少なくなっているという。
とんでもない。
掃除は毎日やるから価値があるのだ。

また、鍵山氏は著「凡事徹底」でこうも述べている。

「人間は義務でやらなくてもいいことがどれだけやれるかということが人格に比例していると思います。」

掃除の時間はゴミを取り除く時間だけじゃない。
心を磨く時間だ。
この時間に力をいれられることこそが、まさに養うべき道徳心なのではないかと思う。

主体的で、対話的で、協働的な掃除は、まさに今の日本の教育が求めているものではないか。

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