産み育ててきたメディアを、自ら“潰した”話。
2019年9月3日、わたしは手塩にかけて育てた
メディアを、自らの手で“潰した”。
社会人生活6年目、このときに流した涙は一生忘れない。
忘れないために、その判断の過程を記録して残したい。
LIA誕生の過程
「女性向けスポーツメディアを作ってくれないか」
(株)Link Sportsの竹中玲央奈さんから依頼を受けたのは、2018年夏のこと。最初は「企画出ししますよ~」くらいの軽い気持ちで参加したのだが、いつのまにやら編集長という肩書きが用意され、責任が大きくなった。
このときはまだ別の会社で仕事をしており、、副業ライターとして現在の上司・竹中さんと仕事をしていた頃。つくづく私を乗せるのが上手な人だなと思うが、「自分でメディアを立ち上げ、伸ばす」という響きに浮かれ、まんまと引き受けたのだった。
新規オープンする予定のサイト名は、「LIA(レイア)」。2019年3月5日にローンチ予定だったが、私の入社は3月1日だった。結局、前職の2月の有給消化期間を、ほぼ費やしてオープンまでこぎつけた。
予定していたオープン時の記事数は30本だったが、実際に用意できたのは20本。大幅なビハインドではあったが、「まずはスタートすることが大事」だということは今でも思っている。
伸びないPV、足りないリソース
オープン当初は、インタビューに協力してくれた人の拡散力によってPVは一時的に上昇した。しかし、リソース不足を理由に更新が滞ると、急激に落ちていった。
毎週の定例会議で、PV/UUを報告する。前週比の下げ幅が、辛かった。Link Sportsは、創業5年目のスタートアップだ。私の人件費がすべて赤字という意識を、これほどまでに強く感じたことはない。
言い訳ではないが、メディア運営の経験もまともな編集経験もなかった私は、
「インフルエンサー取材してSNSで拡散してもらえば伸びていくんじゃないか」
と本気で考えていた。
確かにそういう場合もある。でもそんなの一過性で、メディアへの固定ファンが増えるわけではない。
インフルエンサーのフォロワーの属性も見誤れば、謝礼に見合うPVもついてこない。
「どうしたらいいんだろう」
迷いながらも、自分で決めた記事数のノルマを一人でこなす毎日だった。
BEAUTYNATIONとの統合
そんな中、入社して3か月が経ち、「LIA」と「BEAUTY NATION」との統合話が持ち上がる。「BEAUTY NATION」はXEBIOグループが2018年に立ち上げたトレーニング動画メディアである。立ち上げ時期も近く、“女性向けスポーツメディア”という同じカテゴリであることや、弊社の体制を評価して頂いたことから、共に挑戦しようという話をいただいた。
BEAUTY NATIONは、ハウツー動画メディアとしてSEO対策がきちんとされており、すでに多くのPVがあった。
SEOとかむずかしいことには目を背け、「いいコンテンツ作ってれば伸びるっしょ」と逃避していた私には、ディレクターの木口由加里さんの仕事ぶりが眩しかった。
当初は様子を見るためにも「LIA」と「BEAUTY NATION」を両立して運営を進めていた。いざ始めてみると、同系統のメディアが同じ社内にあるのはとてもいびつだった。
「これがカニバるってことね・・・!」
企画もリソースも食い合っている状況は、あらゆる判断に影響した。
社内の営業部は、明確に差別化できない2つのプロダクトをクライアントに説明し、売ることが本当に難しかったと思う。それでも文句も言わず、一つひとつ相談してくれた。とはいえ、「統合」という選択肢を自分から言いだすことはできなかった。LinkSports社長の小泉真也さんからいよいよ「統合」を打診されたとき、正直救われた思いだったことを白状する。
そのとき持ち上がったのが、どちらのドメインを残すかという話だ。
この問題は、BEAUTYNATIONの存在が知らされたときから、頭の中にちらついていた。
LIAのドメインを消し、今までの記事URLはすべて変わる。
LIAとして挨拶してきた取材対象者の皆さんに、周知する。
それは悲しい。悲しいけど、
SEO的に強いBEAUTY NATION上にLIAのコンテンツを移行すれば、読者は増えやすい。PVがあれば、実績も示しやすいから売り上げが立つのも早い。キャッシュに余裕がある大企業なら話は別だが、こちとら去年はキャッシュがなくなりかねなかったベンチャーである。
普通に考えたら、それが最適解。だけど、
小泉さんも竹中さんも私に判断をさせてくれた。
「LIAを伸ばしていくと判断してもいいよ」
すぐにでも売上を伸ばしたいはずなのに、小泉さんはそういう社長だ。
その漢気がわかるからこそ、わがままは通せなかった。
BEAUTYNATIONのドメインを生かし、LIAの記事を移行する。
LIAはタイミングを見てクローズ。
そう決めた。
社会人生活6年目。今までも仕事で泣くことは多々あった。
でもこのときの涙は一生忘れないと思う。
悔しさ、もどかしさ、虚しさ、LIAへの申し訳なさが混ざり合っていた。
リネームのわけ
悲しさに浸る暇もなく、新たな問題が持ち上がった。それは、名前どうする問題。
LIAという名前だけでも残せばよかったのではないか。
ドメインとのちぐはぐ感には目をつぶり、そういう選択肢も私の前にはあった。確かにそれなら、表面上「LIA」は残る。でも、それはBEAUTY NATIONを作ってきた木口さんに、私が感じた喪失感を味わわせることになる。
BEAUTY NATIONの名前もインパクトがあり、わかりやすい。だけど、やっぱりなんとなくしっくりこない。
LIAという名前は、私が編集長として正式に入社する前にLink Sports社内で決まった名前だった。記事ほどの、「私の子ども感」は薄かったが、LIAとしての記事をシェアしてくださってきた方々を思うと、残したかった。
だけど、もはやこのプロダクトは私だけのものではない。BEAUTY NATIONをリソースが減る中で一人守ってきた、木口さんの感情を無視して進められない。だから聞いてみた。
小田「ぶっちゃけ、LIAって名前どう思いますか?」
木口さん「う〜ん。一目で意味がわかりにくいですよね。読み間違えも多いし」
そう、ただしくは「レイア」と呼ぶのだが、「リア」「ライア」などと読み間違われることも多く、何よりスポーティーな雰囲気はないなぁとはうっすら思っていた部分をぐさりとさされた。
小田「BEAUTY NATIONの名前、残したいですか?」
木口さん「まぁ、思い入れはありますけど、絶対ではないですし、小田さんの指摘もわかります」
木口さんは基本的にこういう人で、大人な発言をする。
そこに乗じて、
小田「お互いに納得できる名前に付け替えるのはどうですか?」
と聞いてみた。大人な木口さんは快諾してくれた。
なにせ一年で広告なしで最高PV500万を叩き出したことがある方なので、ある意味名前にとやかくこだわることもない、と達観しているのだ。
「たかが」も「されど」も自分で決める
自分で言い出した以上、本当に納得できる名前を見つけないといけない。
とはいえ自社プロダクトの名前を社内で案出し→多数決の流れはあまりいい結果につながらないと感じていたので、社員の知り合いのコピーライターさんをご紹介いただき、ネーミングに協力してもらった。
ライターさんから上がってくるネーミングは「おおこれは」と思うものから、「ないよね」と瞬時に切り捨てるものまで幅広かった。それはチームの中の「いいもの」「わるいもの」の判断基準をすり合わるためにとても効果的だった。
何十パターンと出してくれたなかから、最終的に残ったのは3つほど。
そのなかで、他とは違うオーラを出していたのが「B&」というネーミングだった。
BはBodyのBだ。
単に体重を落とすだけのダイエット、とにかく体を鍛えれば動けるようになる、といった考えから脱却して、自分が理想とする生き方を支えてくれるものとしてからだづくりを考えたい。メディアを通じて浸透させたい考えにぴたっとはまった。
ここまで多くの決断を一ヶ月弱の間に一気にしてきたが、気づけば季節は秋。大騒ぎした統合もすでに完了し、「B&」ローンチのリリースも出された。
これがオープン時のトップページ。
「こだわりも感情も詰め込んだ思い入れたっぷりのメディア」という見られ方を社内的にもしているが、そんなことはこれからB&に出会う読者にはあまり関係のないこと。「たかが名前、されど名前」「たかがドメイン、されどドメイン」なのだ。
重要なのはコンテンツ。読者の役に立つ記事を積み重ねて、積み重ねて、ようやく「あぁ、B&っていうのね」という瞬間がくる。そのときの「しっくり感」が、わたしたちの統合ドタバタ劇の答え合わせになる。
僭越ながら編集長としてのコメントをこちらに掲載しています。
もしよければご一読ください。
<了>