短歌連作「そして振り切る」/Mika
過去というものに、執着しないで生きていきたい。
今まで成してきたことに傲りたくはないし、できなかったことを今もできない理由にしたくないから。
しかし、大学を辞めて、沖縄の小浜島で半年間リゾートバイトをしたという私の過去については、忘れないうちに何らかの形で残しておきたいという思いがあった。
今の自分の生き方に大きなつながりを持つ決断で、かつ、私の心が息を取り戻し始めた時期でもあるから。
その一つの形として、今年の夏、「進路、旅人」というラノベ作品をnoteにて公開した。ただ、これは4割くらいフィクションだった。
私の生きた実感がそのまま含まれるのは、その前に書き上げた短歌の連作があった。
それがこの作品、「そして振り切る」。
この作品はある短歌賞に応募することをきっかけとしてまとめ上げた。
(結果、受賞には至らなかったのだけれど、)その時の真剣な短歌への創作意欲ゆえ、書き上げることができた大作だと思っている。
私と短歌を結びつけてくれた和歌や、短歌賞をはじめとするたくさんのきっかけに、心からの感謝を。
「そして振り切る」/Mika
鏡よ鏡わたしはわたしを愛せるか愛せるようなわたしはどこに
読みすぎて「みんな」が「わたし」に侵食する「わたし」は月の裏にでもいる
彼は彼わたしはわたしその前にみんな持ってた優しさはどこ
光さえ弾いてしまう窓でした隙間をじわり染み込んだ歌
はじまりは雨今しがた濡れている心に季節外れの花が
かの歌をきいているとき魂は愛のみなもと確かめている
信念も歌もだれかを前向きにするって証明されたあなたに
理解者のいなかった夜 見つけた朝 一人が孤独と思わない昼
蝋梅の唇に答える 逃げているわけじゃなくてさ、我唯足知
さようなら、いつもの言葉。大切な心のためにさらば馴れ合い
泣けるほどの愛があること生きながら証明しようペイフォワードだ
がむしゃらに今だけを見て生きていくそして振り切る悲しみ全て
思い出し歌にするなら旅のこと 辛さの吐露なら壁にぶつけろ
何気なく「普段」を撮った半年後写真が私だけにする顔
ふりむけばマゼンタ色の日の出 あぁ 前例のないわたし だれでも
旅立ちの空の隙間に垂れ下がる光が告げた 明日、はれるや
小浜島ヤンバルクイナやクジャクらと生活圏を共にする日々
すみっこに瑠璃の光が落ちていてしゃがむと見つめあったシーサー
もりもりと真夏の光食べている真緑色のガジュマルのもり
島にただ一つしかない商店へ 一つもアイスがないよ「だだーん」
朗々と三味線持ちのシーサーの歌う姿にとまる薫風
石敢當に乗るようにして根を生やすガジュマル 共に街を見守る
宇宙からさわればファーの心地かな優雅にしなるサトウキビ畑
さざなみのすてきなしごと降りてきた光の帯をちぎって撒いて
音になる前の音たち緑葉の前後に踊り左右に語り
健やかなこころは森の陽だまりを見ればすんなりそこにとけこむ
ただそこにあるだけの空、海、地平 キャンバスのない美は偶然に
平穏はそこに体現されていた木をみて森をみて隅々まで
世の中を憂しという暇ないのです!みどりはいつも地球を癒す
彼女から去って美し悲しみの種は漂う月の近くを
はじまりは雨今はもう気にしない心に歌の傘があるから